焦げる心を熔かせるものは、熱く憐れむ清らかな炎。その先に、冷えた月。

古き良き時代の風情と情緒が丁寧に描かれているこの短編は、一種の毒を孕んでいるように思います。

ヒロインの鬼気迫る豹変と、一夜にして失う「穢れなき思い出」。
その余韻に浸る事も許さないような、冷たい月の眼差し。
この痛みを切り取ったような短編には、迫力があります。

抱える欲望と、それを裁く鞭までを丸呑みにさせられたような、力強い読後感。
ただ酔うもよし、打ちひしがれて泣くもよし。

耽美的な文学がお好きな方にはお薦めです。

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