シーマニアのせい
~ 十月三十日(月) 海洋研究部 ~
シーマニアの花言葉 コミュニケーション
今日の穂咲は朝からはしゃぎっぱなし。
元気になった俺を見て随分とご機嫌な様子の元気印は
そう言えば、君は滅多に風邪をひかないよね。
…………バカだから、何て言いません。
具合の悪かった俺を見舞ってくれた恩もあるし。
今日は、軽い色に染めたゆるふわロング髪を頭のてっぺんでお団子にして。
オレンジ色のラッパのようなシーマニアをそこに一株まるっと植えていて。
……ごめんね。
やっぱり、バカっぽく見える。
ほんとにゴメンね。
さて、そんな穂咲さん。
行動もやっぱりバカなわけで。
たしか教室を出た時にはクイズ研究部に行くって言ってたよね。
それが扉に張られたイルカのイラストの可愛さにやられてこんなところにいるなんて、考え無しが過ぎます。
クイズ研のみんな、待ちくたびれているんじゃないのかな?
俺たちがお邪魔しているのは、海洋研究部。
今年できたばかりの部で、部長さんは同じ一年生。
でも、風格があるというか、黒縁メガネが実に堅苦しい方なのです。
「……だからザトウクジラは『音』というものに頼るよう進化を遂げたわけだね。この時、コミュニケーションをとる手段として発せられる声をクジラの歌と評するわけなのだが……」
延々と続く、海の生き物のお話。
確かに面白い。
面白いのだが、堅苦しい口調のせいで魅力が半減しているのです。
穂咲があくびを我慢しながら俺をちらちら見つめて来るけれど。
だからさ、さっきから目線で返事をしてるじゃないか。
話の切れ目が出て来ないから、俺も口を挟み難いんだよ。
……なにさ、その目は。
やくたたず?
冗談じゃない、お前が話を切ってみろよ。
……ほら、そうだろ? 無理だろうに
俺たちが目で会話していると、もう一人の部員さんである優しそうな女の子がクスクスと笑いを漏らした。
「二人は目でコミュニケーション取れるのね。まるでザトウクジラみたい。……ほら、部長。堅苦しい話ばかりだから二人が眠そうよ?」
「ん? そうか? ならばこれなら楽しかろう。同じように声でコミュニケーションをとる個体がいてね。シロイルカというのだが、その声の美しさから『海のカナリア』と呼ばれていて……」
うーん。俺はパス。
君は?
……せめて写真が見たい?
ほんとそうだね。
二人して、黙って意思疎通。
こういう時は幼馴染って便利。
でも、今日はじめて会ったばかりだというのに、この女の子は驚くほどの精度で俺たちの会話に付いてくる。
「ごめんね、写真は無いの。部長、まだ堅苦しいですよ」
……ねえ、君。
なんでそこまで分かるの?
「そうか、馴染みが無い生き物ではイメージが湧かないか。ならば、マグロの肌の構造について話そうか。興味はあるかい?」
「もちろんなの。特に、中トロが好きなの」
こら、海の生き物が好きな人に何てこと言うのさ。
失敗したの、では無く。
……ワサビは増し増しで、とかどうでもいいから。
反省しなさいよ。……そうそう。
「あはは! ほんとに以心伝心ね! 気を使わなくてもいいわよ、私だってお寿司食べるし」
「うそでしょ!? 何で今のが分かるんです?」
ニコニコと、当たり前のように笑ってるけども。
この人、読心術でも持ってるの?
「じゃあ、これを当てるの」
眉根を寄せた部長さんを放っておいて、穂咲が部室の蟹の写真を指差す。
そして浮かべる、ちょっと悲しそうな表情。
…………味噌は苦手?
知りませんよ。
足は永遠に食べ続けるでしょうに。
剥いて欲しい? おいおい、それくらい……。
俺が突っぱねるような目をした途端、女の子はころころと笑い出した。
「あはは! それくらい自分で剥きなさいよ!」
「「地上に舞い降りたザトウクジラ!」」
このままじゃ全部を見透かされるって?
ああ、まったくだ。
それじゃ、せーの。
俺と穂咲は同時に席を立って、すかさず深々とお辞儀。
そして逃げるように、部室を後にした。
………………
…………
……
「……僕の話、そんなに堅苦しいか?」
「そうね。素直で優しい二人だから聞いてくれたのかもね。……違う違う。メガネと髪形が堅苦しいせいじゃないわよ?」
「そんなこと考えてない。なんで君はそうやって人の考えを勝手に妄想するのだ」
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