コチョウランのせい
~ 十一月十五日(水) 三時間目 七センチ ~
コチョウランの花言葉 機敏な人
今は授業中。
だけど、すぐにでも問いただしたいことがある。
君の机の上に置かれた鉢植え、いったい何の真似でしょう?
そんなおかしなことをしていても、基本的にすべて許可されるこいつは
まともに指摘するのはいつも俺だけで。
そのせいで毎日立たされてしまう訳なのですが。
今日の穂咲は、頭に竿を挿して髪の毛だけでコチョウランの巨大な鉢植えを再現していたけど。
朝、電車に乗る時に引っ掛けて、竿が全部倒れちゃった。
俺の技術ではあんなの再現できないので、最近覚えた簡単編み込みにしてあげたのだけれども。
まさか本物のコチョウランが教室まで届くとは思いもしなかったよ。
三本立て。
鉢植えに咲いたコチョウラン。
五千円くらいする品だと思うんだけど。
なんで君宛にワンコバーガーからそんなのが届くの?
「…………秋山」
「さすがに知りません」
授業中に配達業者が来たの、俺とは関係ないです。
なんでもかんでも俺に聞かないでください。
だから、そんな太いため息つかないように。
たまにはこいつを立たせてみてはどうです?
「藍川。…………それは、何の真似だ」
「お祝いなの。目玉焼き部を作ったの」
「分かっとる。誰が顧問の欄に名前を書いてやったと思ってるんだ?」
「え? いつの間に?」
「なんだ、副部長のくせに貴様はなぜ知らんのだ?」
「…………いつの間に?」
勝手に俺の名前を書くんじゃないよ。
それにしても、フットワーク軽いなあ。
昨日、帰る前に三十分くらい待たされたけど。
その時に部活申請を出してたのか。
「しかもその話をいつの間に店長にしてたのさ」
「タイムイズマネーなの」
やれやれ。
それにしても、部の発足祝いを送ってくれた店長も機敏な事で。
……時間指定もなしに送りつけてくるところは相変わらずだけど。
「まあいい。しっかり研究するんだぞ、藍川」
「もちろんなの」
「ちょうど今日の放課後には部活会議もあるし、しっかり発言して来い」
「いやなの」
小気味よすぎて聞き逃すところだったけど。
顧問と副部長が見つめる先で、部長さんは困惑顔など浮かべていた。
「そんなの行きたくないの。かたっ苦しいの」
「おいおい。部活会議ごときで何言ってるの? 他にも活動報告資料作ったり、予算会議出たり、もっと大変なこといっぱいあるぞ?」
「面倒なの。じゃあ、廃部なの」
「機敏っ!」
顧問と副部長、揃って口あんぐり。
でも、真面目で堅物の先生としてはこうなっちゃうわけで。
「コラ! 藍川、お前はそんないい加減な気持ちで部活申請したのか!」
「だって、そんなにいろいろあるとは思わなかったの」
しょぼくれながらも膨れる元部長。
確かに思い付きで、軽い気持ちだったのかもしれないけど。
「それはちゃんと説明してない先生が悪いと思うなあ」
「なんだと!?」
「だってこいつが申請した時、部長の責務を説明もしなかったんでしょ? もしそれを聞いてたら、こいつはその場で申請を取り下げてたと思うんですけど」
つい思ったことを口にしちゃったけども。
先生、憮然としちゃった。
それでも、事の善悪についてはきっちりしないと気が済まないところがこの先生の美徳。
今回も、見事な沙汰を下した。
「確かに、この件は俺の責任だ。いらんことで怒鳴った責任を取って廊下に立っていてやる」
「おお、なんという大胆なお裁き」
「だから秋山。お前がきっちり62ページ目まで授業をやっておけ」
「…………おお、大胆な反撃」
こうして三十分もの間、俺は冷や汗をだらだら流しながら、教卓へ立たされた。
「先生。今のところ、間違ってると思うの」
「だまれ穂咲。廊下に立ってなさい」
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