黒き丘に煌めきあらば

カムリ

Fergahana horse

ポイント・オブ・ノー・リターン

 拡がっていたのは灰、灰の地平。

 ことわりを越えた法に漂白され、いのちが芽吹くことも、もはやない。

 渇いた塩のようにまばらに見えるしみは、かつてヒトを象っていたものだ。

 人は一切が焼却されて、散らばった瓦礫と硝煙にまかれた森が地に暗い陰、闇の色彩を落としている。


 練獄に空を見る。

 黎明に灰を視る。


「聞いてくれ、私の言葉を。お前さんは───」


 それきり彼女は燃え尽きる。

 油粘土を焼いたようにぐしゃぐしゃになって。

 きらきらと輝いていた向日葵の花弁みたいな長い髪は焦げ落ち、美しかった眼──宝石がいっぱい入っていそうだった瞳は溶け堕ち、ひたすらに肉と脂を灼く死臭が、感覚に覆い被さる。

 全てが灰になってゆく。


『なぁ、お前さんたちはみんな死人だよ。糸みたいな脳みそを沢山こぼして、目は半開き。そうだろう? 戻ってこい。お前の椅子は、まだ空いていないよ』


 言葉がほどけた。

 意識は再び、暗渠に沈む。

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