ある冒険者の新技
今日も魔王は、せっせとトイレ掃除をしている。今回は、ちょっと暗めのダンジョンのため、汚れを見落としやすくなっている。よって、魔王は必死に目をこらしながら、汚れと格闘していた。
しかしそんな時、誰かがそのトイレに入ってきた。そして……。
「見つけたぞ、魔王。こんなところで掃除をしていたのか」
掃除をする魔王の背中に、その人物が話しかける。
「誰だ……勇者の息子ではないな」
「ふっ、俺の顔を見忘れたか」
そう言われ、魔王は真剣にその人物の顔を見るが、どこにでもいるような平凡な顔付きをして、装備も平凡なものを付けているこの人物に、魔王は見覚えがなかった。
「…………誰だ?」
「そんな……忘れたのか……この俺を!」
そして、魔王の言葉にショックを受けた冒険者は、それでも必死に魔王に思い出して貰おうと、訴えかけている。
「初心者ダンジョンで、お前に屈辱を受けた者だ!」
「……はて?」
「漏らしそうになってた奴だよ!」
「……何人かいるな」
「うっ、ぐぅ……モップをケツにブッ刺された奴だよ!」
「……あぁ!」
「それで思い出すなよ!」
どうやら、そっちの方がインパクトがあったらしい。しかし、それを言った冒険者の顔は真っ赤になり、涙目になっていた。
「ゆ、許さない……お、お前は俺が絶対に倒す!」
すると、冒険者は魔王に向かって指を指し、宣戦布告をしたのだ。その冒険者の行動に、周りの魔物達も騒然とした。
「お、おい……あの冒険者、魔王様に喧嘩を売る気だぞ!」
「嘘だろう?! そんなに強そうには見えないぞ!」
「なにか秘策でもあるのか……」
そして、魔物達がそう言うのも無理はなかった。冒険者の顔は、自信に満ちていたからだ。そう、この冒険者は以前の出来事で、ある能力を身に付けていたのだった。
「ふん、良かろう。久しく挑戦者がいなかったからな。運動がてら相手をしよう。ただし、トイレの外でだ」
そう言うと、魔王はそのままトイレを出る。トイレ内では戦闘は厳禁であったからだ。
そして、外に出た魔王と冒険者は、お互いに距離を取って向き合うと、しっかりと相手を睨みつけた。
「ほぉ……余の睨みに引かないとはな。余程の自信があるのだな」
「ふっ、当然だ!」
しかし、冒険者の膝は笑っていた。
「それならば、貴様から攻撃をしてみろ。その自信がどこから来るのか、見てやろう」
「……後悔するんじゃねぇぞ!」
そう言うと、冒険者は腰にかけていた剣を抜き、少し下に下げていく。
そして後ろを向くと、その剣の柄を、自らの肛門に差し入れたのだ。
「おぅっ……」
もちろん、その光景は信じられないものであり、お尻から剣が突き出る形になっていた。因みに良く見ると、この冒険者のズボンには、丁度割れ目のところ、肛門の位置に穴が空いていた。当然下着もだ。
そして、お尻を突き出し、魔王に剣先を向けると、冒険者は真剣な顔になる。
「さぁ、くらえ魔王。これが俺の新必殺技。エイナス・ショット!!」
冒険者がそう叫んだ後、お腹に力を入れ、思い切りおならをする要領で、肛門から剣を飛ばしたのだ。
「…………」
もちろん、魔王は無言でそれを避けた。掴む事も出来たのだが、掴むのはなんだか嫌だったみたいだ。
「ふっ、やはり避けるか。だが、受け止めたくないだろう。それが、この技の厄介なとこなのだよ! 良いか、俺はお前にモップをブッ刺されてから、肛門の締まりを調整出来るようになって、こうやって物を飛ばせるまでになったのさ!」
そう言うと、冒険者は今度は短剣を取り出し、先程の剣と同じようにして、柄の方を肛門に差し入れた。
しかし、飛ばしたら最後、その武器は回収出来ないので、一発限りに見える。そこが、唯一の難点ではないだろうか。だけど、冒険者は再び先程の技を放とうとする……が。
「ふんっ!!!!」
「どうほぉぉぉおおお!!!!」
魔王が魔力を帯びた足で、冒険者の短剣の剣先を蹴った。しかも真っ直ぐ、更に奥深くに突き刺さるように……。
「あっ……かっ、いぅぅ……」
そして、冒険者は悶えていた。たとえ柄だろうと、かんちょうされるのとどちらが痛いかは、一目瞭然であった。
「うぉっ……くっ、はぁ、はぁ……や、やはり一筋縄ではいかないか……だが、まだだ……まだ身は出ていないから、この技は放てるぞ」
その後、短剣を抜いた冒険者は、まだやる気に満ちた顔をしていた。どうやら、やり過ぎると身が出るらしい。諸刃の剣というか、なんとも微妙な技であった。
「諦めよ、そんな技では余は倒せん」
「いいや、まだだ!! まだ俺には、これがある!!」
そう言うと、冒険者は黒い鉄の玉を取り出す。その大きさは、握り拳くらいはあるだろう。まさかだが……それを入れるつもりなのだろうか。
「ふふふ……これは、玉全体が中に隠れるからな。触りたくないだろう、受けたくないだろう。あとは、俺が持つかどうかだ! いくぞ!」
そして、冒険者は気合いの叫びと共に、それを肛門に入れようとする。だが……。
「くっ……しまった……! さっきの魔王の攻撃によるダメージで、痛い!」
どこがかは言わない。だが、それは冒険者にとっては誤算だった。
「くそっ……これではもう……戦えない。俺の負けだ……」
すると、冒険者は膝を突き、両手も地面に付けると、そのまま項垂れてしまった。
「こんな……こんな情けない技が身に付いてしまって……他の奴等が、一緒に冒険しようなんて言ってこなくなって……こんなのもう、両親に顔向け出来ねぇよ! だから、せめてこの技で魔王を倒せればと思ったけど、やっぱり甘かったか」
そして、そのまま1人でなにか語り出した。だが、確かにこんな技を持つ者と、一緒に冒険しようと思うかは、微妙であった。いや、恐らくほとんど全ての人が断るだろう。
そう考えると、この冒険者の苦悩も頷ける。
しかし、魔王とモンスター達にとってはどうでも良かった。どうすれば良いのか分からず、ただ呆然としている。
その時、その冒険者の後ろから誰かがやって来て、肩を叩く。
「ふっ、そんな事は無いぞ。君のその技、私にとっては凄く魅力的だ」
「えっ……?」
そこには上半身裸の、良い具合に筋肉がのった男性が立っていた。しかも、ブーメランパンツである。
「お、俺の技が……役に立つ?」
「あぁ、そうだ! 特に、夜にな!」
「……へっ?」
その男の言葉に、冒険者は明るい表情をしたものの、次の言葉で一気に青ざめていた。
だが、そんな冒険者を余所に、上半身裸のその男性は、冒険者をその肩に担ぎ上げる。
「うむ、中々良さそうなお尻だな!」
「うわぁぁあ!! 止めろぉ! 俺はそっち側じゃな~い!!」
「またまたぁ~!」
そして上半身裸の男性は、担ぎ上げた冒険者のお尻を撫でながら、ダンジョンを後にしようとする。だが、そんな事になってたまるかと、冒険者は必死に両手を伸ばす。倒すべき相手、魔王に向かって。
「助けてくれぇ!!!!」
「アッハッハッハッ! 久々にハッスルしちゃうぞ~」
だが、そのあまりの展開に、魔王もモンスター達も脳が麻痺してしまっていた。そして、冒険者はそのまま、上半身裸の男性に連れて行かれてしまった。
((なんだったんだ、あれは))
そしてしばらくして、魔王とモンスター達は、同時にそう思う。その後、その冒険者がどうなったかは、誰も知らない。
「……むっ、トイレ掃除を続けるか」
「あっ、魔王様……手伝います」
その後、魔王とモンスターは、今起こった出来事を忘れるために、いつも以上に一生懸命トイレ掃除をしたという。
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