入ってはいけないトイレ

 この前、魔王の一言でトイレが大増設された為、皆気兼ねなくダンジョン攻略にいそしむようになった。


 だが……そんなダンジョンのトイレの中で、森の中にあるダンジョンには、決して入ってはいけないトイレがあるのを、ご存知だろうか。


 そこは、1階の入り口付近のトイレから少し離れており、細い通路の先にあったが、人目には付くようになっていた。

 だけど、誰もそこには入らない……入ったら最後、まともな状態で出て来る事が、出来なくなる。


 そんな森の中のダンジョンに、1人の魔法使いの少女が入ってきた。


「良し、頑張るぞ! お師匠様にタップリと修行を付けられた成果、ここで見せるんだから!」


 その少女は、肩までの長さのピンクの髪をしていて、髪留めで前髪を留めている。そして、革のブーツとミニスカートに、黒いノースリーブのシャツの上から、魔法使いっぽいローブを羽織り、まさしく誰が見ても、魔法使いという格好をしていた。

 歳は……10代前半に見えるが、背が低いため、もう2~3歳若く見えてしまう。つまり、若干ロリ気質が入っていた。


 そんな彼女は、意気揚々と森のダンジョンに入ってきたのだが、緊張してか、ダンジョン攻略への興奮からか、彼女は体を震わせていた。


「うぅ……しまった。お水飲みすぎた……おトイレ……」


 そう言うと、彼女は1階のトイレへと向かう……が! 女性のトイレは長い……。


「はぅあ! やっぱり大行列~うぅぅ……」


 そう、そこにはトイレの前で列を成す、大量の女性冒険者達の姿だった。皆魔王を倒すため、その時に得られる富と名声の為、女性だろうと、ダンジョン攻略を目指している。


 しかしお陰で、この通りダンジョンの女子トイレは、いつも混雑をしている。


「うぅぅ……下の階に……行く間にモンスターが出そう。ここで済まさないと」


 だからこそ、ダンジョン1階のトイレは混むのである。考える事は、皆同じ。


 そんな時、彼女の目にあるものが飛び込んできた。


「えっ? あんな所にもトイレが?!」


 それは、そのトイレから少し離れた、細い通路の先の突き当たりにあった。ただ、怪しげに佇むその扉は、他の誰かに気付かれにくいようになっていた。


(あ、怪しい……)


 誰もがそう思うだろう。しかし彼女もまた、限界が近かった。


 人はなぜか、トイレに行きたいと思った時、多少我慢出来るかなと思っても、これだけの列を見ると、なぜか急に尿意が強くなる。そんな不思議な現象に、彼女も陥っていた。


(うぅ……でも、あそこも入られていたら……また列の後ろから……う~)


 そして、彼女の後ろに次々と並ぶ女性冒険者達。


 ここで抜けたら、また列の最後尾となる。もし、あの怪しげなトイレに誰か入っていたら……そう思うと彼女は、その列から抜けられなかった。


 しかしそんな時、また彼女の目に、あるものが見えた。


 その怪しげな扉の、鍵がかかっているかいないかの表示部分。そこが、青かったのだ! つまり、鍵が開いていたのだ。


(嘘……あそこ空いてるの? えっ? それじゃあ、なんで誰もあそこに行かないの?)


 しかし逆に、空いているのに誰も行かないと言う事実が、彼女の足を止めていた。


 だが……。


(う~我慢出来ない!)


 彼女はどうも、我慢が効かない子のようだ。少しジャンプしながら、手をお股に当てているが、それは余計に漏れないだろうかと心配になる。


(もう良い、少し怪しくてもあそこに行く!)


 だが、少女が列から出て、その怪しげなトイレに向かおうとしたその時、彼女の肩を誰かが掴んだ。


「止めときな……あそこのトイレだけは……行くんじゃない」


「えっ……なんで……?」


 彼女を止めたのは、筋肉の付いたアマゾネスの女性。腹筋も割れ、上腕二頭筋が素晴らしく、獣の毛で作られた腰当てと、胸を隠すブラジャーだけの格好は、逞しくもあり、魅力的でもある。


 しかしそんな彼女も、お股に手を当てていた。ちょっとかっこ悪い。


「あそこは駄目だ。あれは、入ってはいけないトイレなんだ。女性冒険者なら、誰もが知っている事。良いか、命が惜しくば、あのトイレだけは入るな」


「そ、そんな……でも、私もう……」


「我慢しろ! 人間の尊厳を失ってでも、我慢しろ。あそこに入ったら最後、お前はお前じゃいられなくなる」


 割と真剣な顔で話しているが……これはトイレの話である。


 しかし、あのトイレには……それだけの恐怖があったのだ。


 だが、この魔法使いの少女もまた、冒険の経験が浅く、このようなダンジョンは初めてだったのである。


「うぅ……あそこ、魔物がいるの?」


「あぁ……たちの悪いのがな……あぁやって、獲物をおびき寄せているんだ。私達が、長蛇の列で膀胱と格闘しているのを横目に、あいつは卑怯にも、誘惑してくるんだ! だが、絶対に負けては……あっ! 待て!」


「そんなの、私の魔法で蹴散らしてやるんだから!」


「駄目だ、待つんだ! 戻れ!! 今なら最後尾に戻らなくても良い! なんなら他の皆に頼んで、先頭に並んでも良い! だから戻ってこ~い!」


 だが、アマゾネスの女性の叫びは届かない。既に魔法使いの少女は、細い通路を進み、そのトイレの扉の前にやって来ていたから……。


「ふふ……どんな魔物さんでも、師匠から教えて貰ったとっておきの魔法で、退治してやるんだから!」


 そして、彼女が意気揚々とその扉を開けると、そこには……。


「は~い、いらっしゃ~い」


 巨乳の胸元が大きく開いたボンテージ姿に、お尻に悪魔の尻尾、頭には立派な悪魔の角、背中からは、大きなコウモリの羽を生やした、なんとも危ない雰囲気を持った女性が立っていた。


 この女性はサキュバス。しかも、その女王であるサキュバスクイーンであった。


(はっ、はわっ! これ……ヤバい、とんでもない魔力。勝てない……)


 少女は曲がりなりにも魔法使い。相手の魔力を読み取る事が出来るのだが、その瞬間彼女が絶望したのは、言うまでも無かった。それでも……。


「はぁ、はぁ……でも勝つんだ。そして私は、そこでおトイレをするんだ! サーマル・コントラクション!」


 魔法使いの少女が、鞄から取り出した杖を片手にそう叫ぶと、なんと彼女の前方、サキュバスクイーンの周りの熱が、高まっていく。


「あら可愛い、周りの熱を収縮して、高熱にしていく魔法……凄いわね、上級者用の魔法を使うなんて……で・も」


 そう言って、サキュバスクイーンは指を鳴らす。するとその瞬間、周りの熱が一気に散らばり、放熱されてしまった。


「私には効かないわよ」


「はわっ!!」


 あっという間に自分の魔法をかき消され、少女は尻餅をつく。


(やっぱり勝てない……)


 圧倒的な力の差に、少女は絶望してしまう。それに、先程サキュバスクイーンが言ったように、彼女が放った魔法は、上級者向けの魔法である。だが、彼女はまだまだ魔法使いでは半人前。魔力はそれほど多くなかった。つまり……。


「あっ……うっ。魔力がもう……」


 今の1回で魔力が切れてしまい、彼女はもう、魔法を放てなかった。


「うぅ……こんな、こんな事になるなんて……もう、漏らしちゃう~!」


 そして遂に、彼女は泣き出してしまった。


 やはり、この歳で漏らすというのは、人としての尊厳にも関わってくるのであって、恥ずかしい事この上ないのである。


 しかし、その少女を見てサキュバスは、舌なめずりをしながら話しかけてくる。


「あら、トイレならしても良いわよ」


「ほへっ?」


 そのあまりの言葉に、少女は目を丸くする。当然彼女は、このサキュバスがトイレを陣取っていて、こんな風に誘い出しては、トイレをさせずに漏らす所を見て、それを楽しむ魔物だと思っていた。


 しかし、本当は違っていた。このサキュバスの目的は、別にある。


 だが魔法使いの少女は、そんな事を疑う前に、限界が来ていた。


「し、しても良いんですか?」


「えぇ、どうぞ」


「はわっ! 助かります!」


 そして少女は、笑顔になってそのトイレの中に入って行く。


 その後に起こるであろう事を想像もせずに……。


「へっ?」


 少女がトイレに入った後、サキュバスが扉を閉めて鍵をかける。彼女と一緒にトイレに入ったまま。


 このトイレは個室になっていて、人2人が余裕で入れる広さを持っており、またトイレは……地面に張り付いて、縦に長いあのトイレであった。


 そう、前方に屈み込んで座り、足を広げるあの体勢で用を足すトイレ。うんこすわりで用を足すトイレの方が、分かりやすいだろうか……。


 しかしこのトイレ、こちらの世界でも最近は見られなくなったものであり、魔法使いの少女は、このトイレの使い方が分からなかった。


 その少女は、色々と混乱していた。


「あ、あの……まず、なんであなたが一緒に?」


「うふふ……このトイレの使い方を知らない子が多いからね。私は、これの使い方を教えるために居るのよ」


 そう言うと、サキュバスはゆっくりと少女に近付き、彼女の腰に手を当ててくる。


「はひゃっ……ちょっ、止めて……」


「あなた、名前は?」


「へっ……? リ、リルです」


「そう、リルちゃん。それじゃあ、シーシーしましょうね」


 そして、サキュバスはその尻尾で、少女のスカートを下ろしてくる。


「ま、待って下さい。自分で出来ます!」


「ダ・メ・よ。汚したら怒られるわ……大丈夫、私に身を委ねて、あなたは用を足すだけで良いのよ……その後、少~しだけ……ね」


 すると、サキュバスは少女の首筋にキスをする。その感覚に、少女は身を震わせ、顔が赤くなっていく。


「で、も……は、恥ずかしい」


「大丈夫よ、女の子同士なんだから。ほら、足を上げて」


 そして、遂に下着まで下ろされた彼女は、サキュバスの手によって、ゆっくりと両足を上げられていく。


「あっ、待って……やっぱり私……」


「大丈夫よ、力を抜いて……自分を解放するのよ」


 言っておくが、用を足しているだけである。


 今、少女はサキュバスによって、両足を持ち上げられ、とってもマズい格好をさせられているが……ここはトイレであり、また彼女は、用を足しているだけである!


「あっ、もう、だめ……ふわぁぁぁ!!」


「うふふ……あぁ、綺麗よ。あなた最高よ」


「これ絶対違いますぅ!!!!」


 そんな少女の叫び声が、そのトイレから響き渡った。


 だが……そんなサキュバスのトイレの前では、魔王が……。


「ふん……いかがわしい。サキュバスクイーンめ、またこんな所にこのような物を!」


 そう言いながら魔王は、そのトイレの前に、絶対に壊れない壁を出現させ、サキュバスクイーンを閉じ込めたのだ。魔法使いの少女ごと。


「1ヶ月はそこで反省しておけ!」


 そう言って、魔王は去って行った。一応、少女の悲鳴が聞こえているであろうが、敢えてこのトイレを選んだということは、その少女も同類だと、魔王はそう判断した。


 よって魔法使いの少女は、1ヶ月間そのトイレで、サキュバスクイーンと過ごす事になってしまった。


「誰か助けてぇぇえ!!」


 皆さんも、怪しいトイレにはご注意下さい。

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