砂漠ダンジョンのトイレ事情

 さて、今日の魔王は、砂漠のダンジョンでトイレ掃除をしている。


 だが、ここのダンジョンが1番時間がかかるのである。その理由は、入って直ぐに分かる。


 トイレ一面、砂まみれ。


(この前、あれだけ掃除したのだがな……)


 更には、男性トイレの小をする方も、大をする方も砂まみれで、しかも詰まっているのか、水が流れない。


「ちっ……」


 そこを魔王は、ラバーカップで一生懸命、大の方のトイレの詰まりを直そうとしていた。

 ラバーカップとは、要するに長い柄の付いた、先が半月状のゴムで出来たもので、詰まったトイレの便器に突っ込んで、思い切り引っ張り、その吸引力で詰まりを直す、あれである。


 だが……。


「ぬっ……!」


 便器ごと取れてしまった。魔王の力が強すぎたのである。


「むぅ……詰まった砂が取れん」


 取れた便器は良いのだろうか……とにかく、魔王はそう言いながら、便器を元の場所に戻すと、取れなくなったラバーカップをそのままに、腕を組んで唸り始めた。


「ぬぅぅぅ……毎日毎日これでは、埒が明かぬ。なんとかならぬか……それに、この臭……っ!」


 そこで魔王は思い出した。以前も同じように、強烈な臭いのするこの砂を、一生懸命取っていて、そしてある会話を聞いてしまった事を。


 すると、そのトイレから少し離れた2つの個室から、あるモンスターが2体出て来た。


「は~快便快便! 今日もサラサラの良い便だったぜ」


「しかし、さっき凄い音がしたよな、いったいなん……」


魔王の鉄拳制裁デビル・アイアンフィスト・サンクションズ!」


「ぎゃはぁぁあ!!!!」


 出て来たのは、身体が砂で構成されたモンスター、サンドマン達で、その会話から、どうやら便器に詰まっていた砂は……そのモンスター達の……。


 それを知った魔王が、拳圧でそのモンスター達を吹き飛ばした。


 そう、魔王は何度も、それを直接触ろうとしてしまい、何度もこのような事をしているのだが、あまりにも嫌な記憶な為、魔王は1日でこの記憶を消去していた。


「って、魔王様?! また今日もですか!!」


 そして、サンドマン達の言い分はもっともであったが……魔王にも言い分はあった。


「貴様等には、専用のトイレがあるだろうが!!」


 そう言いながら、魔王は『サンドマン専用』のトイレを指差す。


 そう、あったのだ……サンドマン専用のトイレが。しかしこのやり取りも、もう何回目なのだろうかというほどである。


「便器がツルツルしてて、やりにくいんですよ! それに、あまり専用っぽくないんですけど!」


 彼等の砂の便が、水を使わずに滑り落ちるように、特別に作られた、受け口の広い特製便器なのだが、サンドマン達には不評であり、誰にも使われずにいた。


「ぐぬぬぬ……何回目だこのやり取り……」


「もうかれこれ10回目ですね……だから最近、邪教神官様に言われてるんでしょうが……『痴呆対策、された方が宜しいですよ』って……ぎゃぶぅ!!」


 サンドマンの1体がそう言った瞬間、魔王の重力魔法で、トイレの床と同化するほどに潰されてしまった。いや、砂だから、トイレの床に積もっている砂と同化していた。


((余計な事言うから……))


 他のサンドマン達は、一同そう思う。


 そしてその後、魔王はもう一つの問題に着目する。


「むぐぅ……それと、トイレの床もなぜこんなに砂まみれなんだ。ちゃんと扉は閉め……」


「ぬぁぁあ~!! 漏れる漏れる! セーフ!!」


 しかしその瞬間、トイレの窓が開き、砂嵐と共に別のサンドマンが入ってきた。

 どうやら急ぎのようで、超特急で来たようだが、お陰でそのサンドマンが入ってきた瞬間、トイレに砂が舞い散っていた。


魔王の怒風デビル・アンガーウィング!」


「ぎゃぁぁぁあ!!」


『同胞~!!!!』


 だが、そのサンドマンが便器につくことは無かった……魔王の怒りを買い、暴風により、その身体ごと窓からトイレの外に吹き飛ばされてしまった。便を、漏らしながら……。


「入り口から入れ……」


「はひっ……す、すいません」


 そして、飛ばされたサンドマンに代わり、他のサンドマンが怒られた。だが、恐らくこのサンドマン達も、同じ方法で入った事が何度かあるのだろう。正座をして、キッチリとお叱りを受けていた。


「ここの窓は撤去するか……後は、貴様等の専用トイレを、もう少し良いものに……か。しかし……」


 魔王は悩んでいた。


 このサンドマン達の便は、全て砂であるため、便器の口を狭く作らないと、風で散ってしまったりする可能性もあった。それなのに、今は便器の口が広い。誰の提案なのだろうか……それと、貯めておく場所もまた、重要であった。


 防風、消臭……そのどれもが割と難解である為、トイレ建設の責任者は、頭を抱えていた。


 それは魔王も知っているため、なんとか色々なアイデアを提案するものの、どれも値段や実用的でない事から、却下されてきた。


(やはり、ここのトイレは作り直さねば)


 だが、今度こそこの難解な問題をクリアするためにと、魔王は必死に知恵を絞り出していた。


 ここのダンジョンのトイレを、人間達にも心地よく使って貰う為に!


 だがその時、サンドマンの1人が魔王に声をかけてくる。


「あの~そろそろ見回りの時間なんで、行って良いっすか?」


「ん? あぁ、そうか……よし、良いぞ。それと良いか、今度から窓からの侵入は……」


 そんなサンドマンの声に魔王は反応し、そちらに視線を移してそう言った瞬間……サンドマン達の腕に取り付けている物が、目に入った。


「それは……」


「あぁ、砂時計っす! ここのボスが厳しくって、トイレの時間を、この砂時計の砂が落ちるまでって、そう決められているんですよ~最低でしょ? 魔王様からちょっと注意を……魔王様?」


 その時、魔王は閃いた。


(砂時計……便器をそういう形にすれば……砂が舞い散らず、スムーズに下に……受け口を小さくし、便器の中は広く。そして、底も深く広くすれば……)


 むしろ、なぜそうしなかったのか疑問であったが……結論から言えば、また邪教神官であった。


『あっ? サンドマン達の特殊な便をどうするか? そんなもの考えるな! 後で風に乗せて舞い散らせておけば良かろう! 専用トイレなんて、適当に作っとけ!』


 もちろん、魔王はこの後の会議で、色々と確認を取るつもりであり、どうやらまた、邪教神官のトイレ掃除の罰が決まってしまうようだ。


「よし! ここのトイレは改良する! 窓も撤去だ!」


 そして、魔王はそう言うと、急いで会議を開くべく、そのトイレを後にしようとしたが……。


「あっ、やっと終わったっすか? いや~トイレを改良するんでしたら、使いやすいトイレにして欲しいっすね」


 サンドマンの1体が、男性が小を行う時の、壁に取り付けられている縦長の便器に、小便をしていたのだが……開けっ放しだった窓から吹く風に煽られ、それが飛び散っていた。


「貴様等は個室の便器でしろ!!」


「ぎゃぶん!!」


 またしても魔王の怒りを買ってしまったサンドマン達は、罰として、改良する前に、そこのトイレ掃除をさせられる事となった。


 邪教神官と一緒に……。


 ―― ―― ――


「何故、何故儂がこんな……こ、腰が……あたたた」


「邪教神官様、口は災いの元っすよ」


「えぇい! 元はと言えば、お前等が特殊な便をしておるからじゃろうが!」


「あ~種族差別だ! 酷いんだ~邪教神官様!」


「うるさいわい!! 良いから、とっとと掃除せい! そして、勇者を早く旅立たせろぉ!!」


「邪教神官様、そんなに叫んだら!」


「げほぉ……げほっげほっ」


「あぁ! 邪教神官様!」


 その後、そのトイレは改良され、窓は取り外された。そして、サンドマン専用の個室の便器も、改良されて使いやすくなった。

 しかしサンドマン達には、この張り紙に書いてある事を、徹底させられる事となった。


『サンドマン達は、個室のトイレで座ってしろ』

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