紛れ込む不可思議な空気。それらが徐々に、日常を侵食して行く。いや、初めから壊れていたのか。重苦しく、生暖かい、濡れた布団が体に纏わりつく、そんな息苦しくさせるような、語りのうまい作者さんらしい(と勝手に思っている)短編集でした。【極楽少女】生きて居ると死に近付く。温かさを求めず、それは羨望、憧れだったのだろう。死と静に、心を捉えられてしまった少年。そこに辿り着いていない者は悲しさを覚える、死臭のような物語。【牡鹿の姉】キツネ好きの姉の怪談を思い出しました。不思議な姉の居る日常、その姉と僕の心の交流と顛末を淡々と描いている。不思議な悲しい物語。
エンバーミングを題材にしたお話です。死体に美しさを見出してしまった少年の倒錯的な愛情。しかしその愛は純粋で、純粋であるがゆえに切なく、報われるべきか報われてはいけないものなのかと考えさせられました。短編『牡鹿の姉』も切なくて、胸が痛かった……。しがらみから飛び出した要お姉さんが今度こそ自由に、そして幸せに生きていけたら、と願います。
この作品は人を選びます。かなり選びます。 死体を題材にしているため、受け付けない人は読まないほうが身のためです。多分気持ち悪くなります。 あくまでもフィクションとして、文学の世界として取り扱える人にのみ推薦できる作品です。 まずはあらすじを読んでみて下さい。そして危険な感じがしたら、即座に引き返して下さい。本文はもっと危険です。 あらすじを読んで何か惹かれるものを感じた人だけ、本文を開いてみて下さい。 丁寧な言葉選びで描かれたおぞましくも美しい禁忌の世界が、しずかにあなたを迎え入れてくれますよ。
人間に防腐処理する『エンバーミング』を生業とする家に生まれた少年の短編でした。生まれながらに『死』が身近にあり、そこにまとわりつく『業』の中で生きる少年の死生観から、なかなかに驚きのあるラストへと繋がっていきました。SF短編の中ではかなりインパクトがあり充実した内容だったと思います。もっと評価されても良いと感じました。
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