第16話 司令室ー鳥貝ー
日々、緻密な連携を取り、許可なく体内に侵入もしくは発生する異物を排除する。
それが俺たちの役割だ。だが、どんな組織の中には、1人ぐらい素直じゃないヤツも――いる。
やれやれ、と軽くため息をつきながら司令室を出ると、入ったばかりの新人を完璧に援護しつつ容赦なく発破をかける夏元の姿に歩み寄る。
額に汗し、明るい茶色をしたストーレートの髪をはためかせる背中に、鳥貝は声をかけた。夏元は気付かない。
「おい」
ハッと振り返った表情が、バツの悪そうな顔に変わる。
「何をしている。お前は非番のはずだろう」
無言で俯く姿に、珍しく素直になってるのか?と思いきや、手元で弾倉を入れ替えていやがる!
「休む時はちゃんと休めと言ってるだろう。それが」
「俺たちの仕事でもある。でしょ。それ聞き飽きたんだけど」
「何?」
突如夏元が、ブーツの踵をカチッと合わせ、正式な敬礼のポーズを取った。
「鳥貝司令官!自分は、体内の平和を護るため任務に戻ります。その宿命を全うさせて下さい!」
いかん……鳥貝は心中でうめき声をあげる。背後で息を殺し、夏元を見守っていた新人たちの瞳が、熱を帯びたハートマークになっていた。これでまた、第二、第三の夏元を目指す者が現れるぞ。
「任務遂行許可。ただし、あと3時間だ。だが1秒でも越えてみろ、仮眠室へ強制連行だ」
「感謝します!」
颯爽と歩み去る若い細胞群に、目を細めずにはいられない。
やれやれ。
やれやれ。
頼むぞ夏元。
きっちり段階を踏むことを忘れるな、そして成長しいつか巣立て。
なんて、俺らしくもない。若い熱気に当てられたか?
司令室に戻った鳥貝は、モニターチェックを始める。
美月が歩む人生を、俺たちも一緒に歩いてゆく。
その限りある命と共に。
視界の端へ、異変を知らせるランプの点滅が飛び込んできた。
「こちら松川、侵入者確認、捕食へ向かいます」
「了解、任務を遂行せよ」
その細胞は明日へと続いているか?
俺たちはその未来を護れているか?
そう、信じている――。
その細胞は明日へと続く 糸乃 空 @itono-sora
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