その細胞は明日へと続く

糸乃 空

美月の場合

第1話 美月 その1

 頭上で、けたたましく鳴り響く回転灯が鬱陶しい。

 毎回のことだがうるさくてかなわないと思う。何かもっとスマートな伝達方法は無いものかと、ヘルパーT隊長である鳥貝は、こめかみを抑えながら頭をめぐらせた。


 排除指令を出す前に、マクロファージ隊員の松川から第一報が入る。誰よりも早く異変を察知しては、報告を怠らない頼りになる部下の1人だ。

「侵入者確認、3秒後捕食可能」

「了解」

 返答を入れながらモニターを確認する。5、4、3、2、1、侵入者捕食完了、レッドマークがグリーンに変わり、滞りない流れを写しだしていた。

 気を抜くことは許されないが、グリーンの色はいつだって心を落ち着かせてくれる。


 ここのところ、美月の免疫力が低下しているためか、侵入者の数がじりじりと増えてきている。本人にやる気がないのだから仕方がない、と言いたいところだか、システム上そうもいかん。

 モグラたたき、負け試合、そんな声がチーム内からささやかれるようになっても、諦めるわけにはいかなかった。

 我々の役割に決して終わりはないのだから。


 ドン、と扉が開かれ、武装に余念がないナチュラルキラー隊員の夏元が顔を見せた。

「ここんとこ、甘いんじゃないの?」

「そう言うな、美月の身体に余計な負担をかけるわけにはいかん」

 ふん、と鼻を鳴らした夏元は、顔にかかる茶色い髪を書き上げると、肩撃ち式のマンパッドを肩にかけ、自動銃AK47をくるりと回し「殺って来る」と姿を消した。

 NK細胞である夏元には、侵入者を単独で排除する役割が許可されているのだ。


 やれやれ。と鳥貝は思う。

 夏元は優秀な隊員でチームの要でもある。任務に忠実ゆえ、非番時だろうが銃器の手入れを怠ることはなく、新米隊員たちへの指導も熱くその信頼も厚い。

 ただ、いかんせん愛想の欠片がないだけだ。


 鳥貝は目の前のモニターを見詰めつつ、免疫チームのバランスチャートに目を凝らす。

 人体の免疫力向上には、もちろん本人の意志と周囲の働きかけが必要だ。かと言ってこちらから要望できるわけではない。

 人体の免疫システムに組み込まれている俺たちは、与えられた状況で最善を尽くす。それが任務だ。


期間限定だからこそ、俺たちには、やらにゃならん事があるのさ。

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