第4話 美月 その4

 こんなことで1週間入院なんて、バカらしくてアホらしくて自分が嫌になる。

 がっちりと白いギブスで覆われた右腕を見下ろすと、ベットの上でため息をついた。とても、じっとしていられない気分だった。

 美月は、先生が届けてくれた問題集を置きっぱなしにして、散歩へと向かう。


 歩く振動を拾った肘がズキズキと痛みだす。

でも部屋に戻るのは嫌だった。エレベーターを使って中庭へ出よう。

 そう思った時、見知り過ぎた顔を見て声が出たのは同時だった。


「あ」

「あ」


「何やってんの」

「何ってお見舞いだよ」

「あんた部活は?」

「知らね」


 とぼけた顔をする弟の涼太へゲンコツを振り上げる……真似をした。

「ちょっと待った! ねーちゃんのためにお見舞い持ってきたの見て」

 中1の弟が、肩掛けバックのチャックをもったいぶって開けると、そこからひょいと顔を出したのは――。

「な、な、何してんのー!」

 思わす周囲を見渡してバックの入り口を手でふさぐ。

元気いっぱいのキンクマハムスター、キンちゃんとクマちゃんが、その柔らかい鼻を指に押し当てバックから出てこようとしている。


「静かにしろよねーちゃん、見付かるぞ」

 生意気にも唇にしーっと指をあてる涼太に従うしかなかった。

「外に出よう」


 エレベーターに乗っている間も、廊下を進む間も、キンちゃんとクマちゃんが見付かるんじゃないかと冷や冷やした。

 中庭に出て涼太のバックをガバッと開けると、木材チップの敷材と砂トイレのある空間で快適に過ごしていた二匹が顔を出す。

 膝の上にのせると、パジャマのポケットを、楽しそうに出入りしていた。


「なあ、俺聞いたんだけど」

途中、自販機で買った温かいココアを渡しながら涼太がこちらを伺うような視線を投げてきた。ものすごく居心地が悪い。

「何を?」

ぷいと横を向いて、素知らぬ顔で答える。


「下らねー賭け事のために怪我したんだって?」

「なっ!」


「俺らのクラスに、ねーちゃんの同級生が居るんだよ」

 頬がカっと熱くなる。最低だ最低だ最低だ。恥ずかしい。

 こんなことで馬鹿みたいに怪我して弟にもくだらない心配させて。

 消えてしまいたいよ。


 なんか、喉が痛い……。

 それになんだか寒気もする。背中がゾクゾクして嫌な感じもする。

 ふとどこかから「敵です!」って聞こえたような。

 気のせいだよね。病室から聞こえるテレビかな。







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