第3話 美月 その3

 ヒューン、ヒューンヒューン。

 その音を聞いたのは、巡回していた好中守備隊の中山だった。あと30周もすれば交替だったのに――。

 舌打ちをしたい気分で音のした方に顔を向けると、薄くなっていた喉の粘膜に押し寄せるウイルス集団が視界に飛び込み青くなる。


 緊急無線のスイッチを入れ、中山は力いっぱい叫んだ。

「敵です!敵の襲来を確認、粘膜突破までおよそ7秒!」


 けたたましく響き渡る回転灯が赤に変わり、好中守備隊に続き、マクロ守備隊がただちに集結する。

「全てのウイルスを捕食せよ、細胞の中に一匹たりとも入れるな」

 松川が指示を飛ばしたと同時に、食い破られた粘膜の裂け目から、全身を鋭利な棘で武装したウイルス軍がなだれ込んで来た。その凶相は、どの面もギラついた増殖という目的のために突き進んで来る。


「層を厚くしろ、破られるんじゃないぞここで食い止めるんだ!」

 前衛の好中守備隊は、中山を始めその全身を広げると、前面衝突したウイルス軍を包み込み捕食する。

前衛から漏れ出た個体は、マクロ守備隊が更に強力な捕食力で次々に引き倒していった。その中で、鋭利な棘で傷付き防御力を失った者は新しい隊員と入れ替わりその役割を託していく。



 いくつものモニターを目の前にした鳥貝の手が、口元に軽く触れる。状況が良くない時に現われる癖だ。このままだと、数で押し切られるぞ。

 好中守備隊が赤、マクロ守備隊が緑として映し出された画面では、徐々に茶色の部分が幅を広げている。

 そしてついには、後衛を飛び越えて細胞の中に入り込む個体が出てきた。一旦細胞の中に入り込んだウイルスは、その存在を倒さない限り増殖し続ける。


 鳥貝はNKチームへの直通回路に手を伸ばす。

「夏元、援護しろ」

「遅い!」

 怒りを含んだ声と共に、鼓膜をつんざくようなマンパッド発射音が回路から飛び出してきた。


 守備隊の後ろから、発射筒を肩に乗せた夏元が、次々に照準、発射を繰り返していく。マンパッドから発射されたミサイルは、細胞に入り込んだウイルスを赤外線でとらえ追尾する。


「くそったれが。美月の負担を思いやってる間に、こっちがやられちまうよ」

 毒付きながらミサイルを装填する夏元の茶色い髪が汗でぬれていた。

 すぐ後に揃ったNKチームが、至近距離から守備隊と夏元を援護する。

 30発弾倉を備えた小銃を両の腰に構え、至近距離から隙なく茶色い集団へ打ち込んでいく。

 鋭利な武装集団がくすんだ茶色い飛沫となり、滓のように重なり落ちて行く様を、怒りをたたえた目で夏元は見詰めていた。















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