この作品は、人間が、いや、人体が舞台の一風変わった作品である。
人間の細胞が擬人化され、敵の襲来(病原体など)と戦う。細胞たちの個性は豊かで、「人間関係」も細胞の役割に基づいていて、とても面白く拝読することが出来た。人体や細胞のことが分からない人でも、これが「人間」ドラマとして読めるから素晴らしい。
さらに、この細胞や人体の持ち主である登場人物の生活も垣間見ることができる。つまり、細胞の「人間」ドラマと人物の人間ドラマが一度に味わえるお得、かつ、不思議な世界観を生み出している。
拝読していてとても面白かったです。また、着眼点や描写の独特な感性に打ちのめされました。欲を言えば、もっと拝読していたかったです。
是非、ご一読ください。
ふわっと温かくなり、桜が咲き始めると、なんとなく気分が緩んで体調を崩す。そう、僕は毎年、春に風邪をひく。どんなに雪が降ろうが、インフルエンザが流行していようが、真冬には体調を壊さないのに……。
風邪で寝込んでいると、普段は気にならない心臓の音や血管が脈打つ音がなんとなくリアルに感じられる。免疫細胞たちが、僕の心臓から送り出された血流に乗って、風邪のウイルスを排除しようと必死で戦っているんだなと思う。日常生活の中で僕らは免疫細胞を気遣って生活しているわけではないけれど、でも体調を崩すとどうにも声をかけたくなる。「がんばれ僕の免疫細胞」 僕と彼らは、自分でも気づかないところでしっかりつながっていた。
ふと気づかないところで、様々な絆が生まれている。本作品はそんなメッセージが込められているような気がした。きっとどこかでつながっているはずの絆。でもなんとなく忙しい日常の中で忘れかけている絆。でもふとしたきっかけで見えてくる絆。
きっと明日につながっている。
――それは。たぶん。きっと。