第12話 慎吾 その5
体内警報が、最大音量でガンガン鳴り続けている。
胃の穿孔個所に張り付いた都田が、声を張り上げた。
「防御防御!結着しろ、一滴たりとも胃の内容物を出すな、隣接する臓器に傷をつけるなよ、おい金川!おまえも援護だっ」
振り向いた金川が右手を上げ返事をする。
「自分は手薄になっている粘膜周辺を警護に行きます、貪食能力の高い香中を借して下さい、集まってきたウイルス連中を先に蹴散らしてくる」
寝耳に水、と言った様子の香中があからさまに嫌そうな顔をした。
「えっ……いや、俺はその、いいっす、最前線とか無理っす」
金色の髪を揺らす金川の手元で、フルオートマシンガンがカチャリと鳴った。
「お前も好中球のはしくれだろうが。着いて来い」
華奢な体格の金川に、大柄な香中が首根っこを押さえられて引き摺られていく。
小さな定食屋の店内で誰かが「救急車を!」と叫んでいる声を聞いた。
慎吾の身体が受診され、適切な判断処置がなされるまでなんとか持ちこたえなくてはならない。
祈るような気持ちで援軍要請を出し続け、必死で駆けまわる都田の身体が不意に浮いた。襟首を掴まれたのだ。そして重力に従い叩きつけられる。そこへ馬乗りになっていたのは制御性T細胞の宅間だった。
主に自己免疫を抑制する役割を持ち、温和な性格で免疫系の調和を保つには欠かせない存在である……宅間が激高していた。
噛みつかんばかりの勢いで、都田の胸倉を締め上げる。
「貴様!ボクちゃんから司令官に戻ったつもりか? その生ぬるい判断でチーム全員を危険にさらしてるんだぞ! 一度自分で投げ出したことを大義名分に掲げやがって、どこまで甘ったれていやがる!」
「宅間……すまん……俺は……」
更に顔を近付けた宅間から、怒気が吐き出される。
「身体状況の悪化は貴様が招いたものでもある。その尻拭いを誰がしていたと思っている? 金川だ!あの若い娘がたった一人、小隊を率いて戦っていたんだぞ、貴様がくだらん傷心に浸っている間にな! これでもし、1細胞でも失うことになってみろ、生涯許さん」
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