言わずと知れた「おめ俺」のスピンオフ作品、ということで前々からタイトルは聞き及んでいました。
ただ、スピンオフということでこれまで二の足を踏んでいたのですが、ふと試しに1話をと読んでみて……気がついたら読破していました。
なんという引力でしょうか。
タイトルやあらすじ、タグを見ればお分かりの通り、これは全くもって優しい物語ではありません。
1人の哀しい少年が、1人のろくでなしになるまでの軌跡を辿った波乱万丈も甚だしいお話です。
内容が内容だけに、受け付けない人はいるでしょう。
痛々しい展開に目を背けたくなる人がいるかもしれません。
けれども、一人の人間が懸命に生き抜いたひどく歪な轍が、ここにはある。
確かに彼は、一端のろくでなしに進化してしまった。
それでも、私は彼の生き様をたまらなく愛しく思います。
ところで、1つ。
上に書いたレビューの内容で撤回したいことがあります。
実は私、まだ本編を完読していません。
本編で一真さんが登場するところにも辿り着いていないのです。
それなのにこんなにも一真という人間に愛着を抱かせ、一刻も早く本編を読まねばという気持ちにさせてしまうこの作品は、スピンオフという言葉で収めてしまうのはとても勿体ないなと思うのです。
人間というのは、多かれ少なかれ他人の顔色を窺って生きている。
相手が望んでいることをやって、相手から好意を勝ち得て、そして相手を支配しようともくろむ。
残念ながら、人間の本質というのは、たいがいそれだ。
この小説の主人公、その半生は不遇であったと言って間違いはない。
おおよそ幸せとはかけ離れた幼少期をすごし、そのあとも修羅場や愁嘆場の連続だ。
本人に問題があったというなら、それまでかもしれない。
だが、彼はそれでも、最善を尽くしてきたのだ。
ときにはねじけたことも考える。
相手を毀してしまおうとも考える。
突き放すのに、依存も高い。
だが、それは前述したとおり、人間の本質なのだ。
だから、この物語はこう言いかえることもできるだろう。
ろくでなしによる、人間賛歌であると。
気が付けば読了してしまう、非常にリーダビリティーのたかい傑作!
吐き気を催す邪悪。
『おめ俺』スピンオフの主人公・一真さんは、まさしく、そう呼ばれるべき自分の行動の数々をさりげない言葉で淡々と読者に語っていきます。
本当にもう、ね……。この場では言えないようなえげつないことをたくさんやらかすのですよ、彼は……。
それなのに、読めば読むほど一真さんに愛着がわいてしまうという、なんとも不思議な現象が起きてしまいました。
まさに、和久井さんマジック!!
一真さんは、たしかにろくでなしな男です。でも、幼い頃から読者もドン引くようなろくでもない目にたくさん遭ってきました。最初は自己保身をしていただけのはずが、いつの間にかろくでなしに進化してしまっていたのです。
そこらへんの詳しい事情はネタバレになるのでここには書けませんが、おそらく、一真さんの経験したろくでもない少年期の十分の一の苦しみでも我々が味わったら、きっと立ち直れなくなることでしょう。
とにかく、『おめ俺』本編とはまた違ったスリリングな物語に我々読者は心を落ち着かせる暇もありません。そして、一真さんはいくつものえげつない試練をえげつない行動で乗り越え、ろくでなしに進化していくのです。
その進化の過程において、一真さんに残された良心(特に弟への)が垣間見えたり、彼が本気で人を愛したことがあったという過去を知ったりして、「ろくでもないヤツだなぁ……」と呆れながらも一真さんという人物に愛情を抱いてしまったのだと思います。
私が特に名場面としておススメしたいのは、佐藤玲亜という少女との雨の下での会話ですね。
なんて切なくて、情緒的で、文学的なのだろうと感動しました。一真さんが彼女に告げた想いにも……。
プロの作家である作者様に対してこんなことを言うのは失礼かも知れませんが、『おめ俺』本編のドタバタコメディ、もう一つのスピンオフの少女漫画のような胸キュン展開、そして、今作品のダークで胸えぐる物語など、作者様はなんて作風の振れ幅の広い素晴らしい物書きなのだろうと惚れ惚れしました。
あと、『おめ俺』本編よりも先に、いきなりこのスピンオフから読むのもおススメです。
笑える本編を読もうが、ダークなこのスピンオフを読もうが、どっちみち、読者は和久井さんマジックによって、ジェットコースターみたいにスリリングな物語に終始ドキドキされっぱなしになるのですから……。
本編未読です。見終わった後、本編を読んでおけば良かったと後悔しました。
物語としてはスピンオフの体裁を取っています。そのため、本編未読で読んだ場合、視点人物の篠崎一真に興味を抱けるか否かで評価が分かれるところかと思います。
私の場合、まるで人の人生を覗き見るような感覚でサクサクと読み進めることができました。
一真自身は確かに確固たるろくでなしですが、相当に優しい人物で、その優しさ故にろくでなしになってしまった顛末が語られます。
優しく、器用で、人の機嫌を伺うのも得意(共感し、おもんばかるのが得意というわけではないことに注意)。故にある程度の危機も破綻無く立ち回れてしまう。それが彼をろくでなしたらしめてしまったと感じました。
私自身は彼とは絶対に友達になれないと思いますが、それでも彼の『この先』がとても気になってしまうのは、彼の人としての魅力をこの作品が余すことなく私に伝えてくれたからなのでしょう。
【祝! 改稿版完結!】
おめ俺に登場する一真さんの生い立ちを、本人の叙述の形で書かれています。
もちろんおめ俺を読まずとも楽しめますが、後半は読んでいた方が「ああ、なるほど」とニヤリできるでしょう。
最後まで読めば、一真さんは自分で自分の歪みを知りつつも、仕事として割り切りきれない心の動きもあることがわかります。
とはいえ、作中には不倫、愛人、援交、BL、別れさせ屋等々が登場し、禁断の世界を覗いているような気持ちになります。
そして、その悩みも見えたり……。
読む人を選ぶかもしれませんが、私はお薦めします。
あ、あと。おめ俺もお薦めします。是非お読みになってください。
こちらとは雰囲気がまったく違いますが、面白いですよ。
この小説は「おめでとう、俺は美少女に進化した」のスプンオフ作品です。登場人物の一人である「一真さん」がどうしてろくでなしになったのかが書かれています。
さて、この一真さん、本編では「ろくでなし」として描かれています。しかし、本当にそうでしょうか?
このスピンオフでは一真さんがどうして現在のようになったのかが、過去形で書かれています。すべては現在へ繋がっていくのです。
一真さんの考え方や生き方、それらがどうしてできあがったのか。
「ろくでなし」と題されていますが、読めば非常に人間味あふれる内容となっています。確かに「ろくでなし」と言うに相応しいでしょう。
しかし、ただそれだけではない、一真さんである所以が書かれていることに注目してください。
「おめ俺」のスピンオフですが、面白かったです。
波乱万丈、ドロドロ昼ドラ展開――のはずなんですが、そこまで重くならずに楽しんで読めるのは一真さんのキャラクターのなせる技なんでしょうね。むしろもっとやれもっとやれって思ってしまいました(笑)
ウジウジ悩んだりしない。合理的でサッパリした考え方、好きです。
合理的で計算高い。こうキャラって一歩間違えればサイコパスになりそうですが、でも彼は実に人間らしい。人間味のあるキャラクターだと思います。そのへんのさじ加減がうまい。魅力的なキャラクターが書けるってすごいなあ。
実はスピンオフのアンケートには一真さんに投票していた私。読めて良かったです。彼の人生は実に楽しそうだ。
"おめでとう、俺は美少女に進化した"本編読了後の方が楽しめると思います。本編のネタバレをいくつか含みます。
家庭環境の壮絶さに目を向けたくなりますが、これはきっとどの家庭にも起こりうるテーマを主軸にしている物語です。
子は大なり小なり"親に求められている自分"をどこかで演じるもの。その理想と実力のギャップを埋められてしまったが故の人生が今作の主人公の物語だと、私は考えています。悲劇とレッテルを貼るのは、きっと彼に失礼なこと。
もちろん、劇中の別離と喪失は除きますが……彼の人生は彼が"選んで決めた"もの。だからこそ、"ろくでなし"を自称する彼がとても魅力的に見えるのでしょう。彼の選んだこの人生の行く末に、願わくば大団円のあらんことを。
最初から最後まで、ハード。
ドロッとした昼ドラ展開なのに、気がつけば彼にとって、これが日常なのかと、違和感が仕事しなくなった。
ろくでなしも悪くないと思ってしまうほどに。(いや、悪いし良くないことくらいry)
↑でも、きっと私以外にも、悪くないと思ってしまった人はいるはずだ!
ここから、若干のネタバレ含みます。
なるべくしてろくでなしになった主人公の一真ですが、人でなしやクズとはまた違うと感じました。
周りの顔色をうかがってきたということは、よく思われたいの裏返しのように聞こえます。
特に、最後の修羅場を迎えるキッカケが、弟に道を踏み外して欲しくないという思いにあったことを思うと、人間らしさを感じずにはいられません。
ろくでなしでありながらも憎めないのは、やはりそういう人間らしさにあるかもしれません。
「おめ俺」本編では、世の中舐めきって飄々と生きているように見える一真。
実は子供のころの過酷な境遇から身につけた「生き残る能力」だった。
周りの人間関係も、お金と打算と駆け引きだけの人間、常識外れの性格の人間ばかり。
そんな彼が、本編で「将晴=すばる」になんとなく気をひかれたりするのは、彼が唯一気にかける、彼と正反対な性格のある人物に重ね合わせてなのかもしれない。
読み始めは本編との余りの落差に完全な別物と割り切って、早く本編の続きに取り掛かってくれたらいいのに…と思ってましたが、「おめ鰍」と併せて読み終わった今、違う意味で、ますます本編の続きを渇望しています。