想像以上のろくでなしなのに、キャラへの愛情が深まる名スピンオフ!

吐き気を催す邪悪。
『おめ俺』スピンオフの主人公・一真さんは、まさしく、そう呼ばれるべき自分の行動の数々をさりげない言葉で淡々と読者に語っていきます。

本当にもう、ね……。この場では言えないようなえげつないことをたくさんやらかすのですよ、彼は……。

それなのに、読めば読むほど一真さんに愛着がわいてしまうという、なんとも不思議な現象が起きてしまいました。
まさに、和久井さんマジック!!

一真さんは、たしかにろくでなしな男です。でも、幼い頃から読者もドン引くようなろくでもない目にたくさん遭ってきました。最初は自己保身をしていただけのはずが、いつの間にかろくでなしに進化してしまっていたのです。
そこらへんの詳しい事情はネタバレになるのでここには書けませんが、おそらく、一真さんの経験したろくでもない少年期の十分の一の苦しみでも我々が味わったら、きっと立ち直れなくなることでしょう。

とにかく、『おめ俺』本編とはまた違ったスリリングな物語に我々読者は心を落ち着かせる暇もありません。そして、一真さんはいくつものえげつない試練をえげつない行動で乗り越え、ろくでなしに進化していくのです。
その進化の過程において、一真さんに残された良心(特に弟への)が垣間見えたり、彼が本気で人を愛したことがあったという過去を知ったりして、「ろくでもないヤツだなぁ……」と呆れながらも一真さんという人物に愛情を抱いてしまったのだと思います。


私が特に名場面としておススメしたいのは、佐藤玲亜という少女との雨の下での会話ですね。
なんて切なくて、情緒的で、文学的なのだろうと感動しました。一真さんが彼女に告げた想いにも……。


プロの作家である作者様に対してこんなことを言うのは失礼かも知れませんが、『おめ俺』本編のドタバタコメディ、もう一つのスピンオフの少女漫画のような胸キュン展開、そして、今作品のダークで胸えぐる物語など、作者様はなんて作風の振れ幅の広い素晴らしい物書きなのだろうと惚れ惚れしました。

あと、『おめ俺』本編よりも先に、いきなりこのスピンオフから読むのもおススメです。
笑える本編を読もうが、ダークなこのスピンオフを読もうが、どっちみち、読者は和久井さんマジックによって、ジェットコースターみたいにスリリングな物語に終始ドキドキされっぱなしになるのですから……。

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