この小説は、シャーロック・ホームズ『最後の事件』を題材にした、いわゆるパスティーシュです。ホームズの宿敵、ジェイムズ・モリアーティ(作中では『教授』とだけ呼ばれている)を師と仰ぐ青年マーカスの視点で描かれています。
本作の大きな特徴としては、フリーメイスンやテンプル騎士団、アトランティス大陸などといったオカルト好きの人――特に、私みたいな某有名オカルト雑誌の愛読者――が喜んで飛びつきそうな要素が物語にふんだんに盛り込まれていることです。
ただ、このオカルト要素は、シャーロック・ホームズの物語と全くの無関係ではありません。作者であるアーサー・コナン・ドイル自身がフリーメイスンのメンバーだったし、テンプル騎士団と縁のあるスコットランドの生まれ。
作中でも、ホームズは、得意の「職業当て」の眼力で、事件の依頼者がフリーメイスンの会員であることをひと目で看破したりしています(『赤毛組合』『ノーウッドの建築業者』)。
原作では多くは語られなくても、「ホームズはフリーメイスンの重大な秘密を知っていた」という裏設定がコナン・ドイルの脳内にあったかも知れない……。私みたいなホームズ好き&オカルト好きの読者は、そんな妄想を膨らませてしまうわけですが、その妄想を見事に実現させてくれたのが今作『JM』です。
ホームズと宿敵モリアーティの対決に、フリーメイスンやテンプル騎士団が関係していた……。なんとロマンに溢れる設定でしょう。非常に魅せられる。面白い。
ホームズが好きで、オカルトが好きな人ならば、必読です。片方だけに興味がある人も、この小説を楽しんだ後にシャーロキアンになればいいし、オカルトマニアになればいい。
え? どちらにも興味がない……?
主人公マーカスの成長や冒険、美女シェリルとの恋愛とか、他にも面白い要素はふんだんにあるから、とにかく読むんだよーーーッ!!!
つべこべ言っていたら、ホームズにバリツでライヘンバッハの滝に叩き落とされるぞ!!!
『教授』。この単語を見ただけで、ホームズファンなら誰のことか容易に察せられるであろう。そう、これはホームズの宿敵、モリアーティの側から描かれるパスティーシュである。とはいえ、主役はモリアーティではなく、彼に心酔する田舎育ちの青年マーカスである。
美しき秘書シェリルの導きにより教授と出会ったマーカス。初対面から哲学対話を繰り広げる教授を前にマーカスは面食らうが、その圧倒的な叡智に触れる中で次第に彼に心酔するようになる。だが、教授との交流を続ける中で、彼が英国全土を揺るがすような恐るべき計画を企んでいることが明らかになる。さらにマーカス自身の家系と計画との関連も明らかになり、青年の心は揺れる。純朴な青年はこのまま悪の道に引き摺りこまれてしまうのか。そして宿敵ホームズとの対決の行方は……。
マーカスの故郷ノッティンガムや、ロンドンの情景が豊かな描写で描かれ、作品の至るところで英国の薫りを感じられる。また、物語は英国の歴史や宗教観を忠実になぞらえており、帝国の繁栄と衰退の一端を垣間見ることができる。ミステリーファン、英国ファン、そして全てのホームズファンに自信を持ってお勧めできる、珠玉のホームズパスティーシュ。
「JM」。彼は決して「悪」の一言で語り切れるような男ではない。
彼には彼の信念がある……本作への第一印象はこれです。
ドイル氏が描かなかった彼の心の奥底がじわじわと滲み出てくるようです。
隙のない文章に脱帽です。いちシャーロッキアンとして、興味深く読ませて頂きました。
彼の、形のない「神」というものに決して抑圧されることのない凄まじいまでのその才気は、どこへ行き着こうとしているのでしょう。
純真なる学生ガレットを「助手に」と望むそのわけは?
彼と不思議な美女・フルブライトとの関係も意味深です。
静かな、でも何かが蠢いている闇の気配。それがひたひたと近づいてくる。
私は暗い物語が苦手なはずのに、ページを捲る手が止まりません。
一言で言って、とても好き。続きを楽しみにしております。