悪の側から描かれる、珠玉のホームズ・パスティーシュ

『教授』。この単語を見ただけで、ホームズファンなら誰のことか容易に察せられるであろう。そう、これはホームズの宿敵、モリアーティの側から描かれるパスティーシュである。とはいえ、主役はモリアーティではなく、彼に心酔する田舎育ちの青年マーカスである。
美しき秘書シェリルの導きにより教授と出会ったマーカス。初対面から哲学対話を繰り広げる教授を前にマーカスは面食らうが、その圧倒的な叡智に触れる中で次第に彼に心酔するようになる。だが、教授との交流を続ける中で、彼が英国全土を揺るがすような恐るべき計画を企んでいることが明らかになる。さらにマーカス自身の家系と計画との関連も明らかになり、青年の心は揺れる。純朴な青年はこのまま悪の道に引き摺りこまれてしまうのか。そして宿敵ホームズとの対決の行方は……。
マーカスの故郷ノッティンガムや、ロンドンの情景が豊かな描写で描かれ、作品の至るところで英国の薫りを感じられる。また、物語は英国の歴史や宗教観を忠実になぞらえており、帝国の繁栄と衰退の一端を垣間見ることができる。ミステリーファン、英国ファン、そして全てのホームズファンに自信を持ってお勧めできる、珠玉のホームズパスティーシュ。

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