予言の少女を救えるか。剣と魔法の群像劇。

 光の精霊の漂う森。その奥に隠された塔。そこには一人の美しい少女が幽閉されている。少女の名はカイ。彼女は『予言の魔女』と呼ばれ、大陸に厄災をもたらす者とされ処刑される運命にあった。だがカイの運命は、偶然にも塔を訪れた二人の若者との出会いによって変わっていくことになる。
 この予言の少女、カイを軸に物語は進むが、起点となる人物はもう一人存在する。それが塔の番人である青年、デュークラインだ。彼は優れた剣術の腕を持ち、カイの護衛として彼女を守っているが、時に彼女に非情な仕打ちをする。カイを慈しむ一方で、カイを苦しめざるを得ない自身の立場にデュークラインは苦悩する。彼の抱える秘密とは、そして彼のカイに対する真の想いとは。

 この作品の秀逸な点は何と言っても情景描写。中心部にある都市アルシラ、カイの住まう塔や森、様々な舞台が精緻な筆致で描かれ、読者を物語の世界に誘ってくれます。まるで自分が物語の中に入り込んで街や森を歩いているかのよう。RPGの登場人物になったような気分で物語を体験することができます。
 物語は重層的で、様々な人物の視点から展開が描かれます。教団、異端審問官、貴族、魔道士、そして騎士団。ファンタジー好きの心をくすぐる名称ばかりですが、名前だけではなく、彼らにはそれぞれの立場や思惑があります。それらが複雑に絡み合って物語を構成し、壮大な群像劇を作り上げています。登場人物全員にスポットが当たり、全員がそれぞれのドラマを紡いでいる。ある意味この作品は、全員が主役ではないかという印象を私は受けました。

 囚われた少女の運命は。厄災をもたらす予言の結末は。腰を据えて読みたい方にお勧めの骨太ファンタジーです。

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