母と子、人と竜の絆の物語。

 舞台は砂漠。砂竜と呼ばれる竜が存在する王国の物語。隻眼の女傑ナージファに育てられた少女アイシャは、従弟のファイサルと共に集落で平穏な生活を送っていた。しかし、二人が外出した間に集落は何者かの襲撃を受け、帰還した時には灰燼と化していた。
 故郷と庇護者を失い途方に暮れるアイシャ達だったが、他の氏族の招きに応じて新たな生活を開始する。やがて成長した二人は故郷を復興するために巡礼の旅に出るが、それが思いもよらぬ運命を紡いでいく。

 この作者様の作品はどれもそうですが、とにかく情景描写が秀逸。本作も砂漠の情景やそこに住まう人々の生活ぶりが克明に描かれていて、あたかも砂の大地が眼前に広がっているような気分を味わえます。昼間の熱砂も月夜の静けさも、まるで自分がその場にいるかのように感じることができるでしょう。

 ストーリーはシリアスよりであるものの、キャラクターがコミカル寄りなので重くなりすぎません。特に砂竜のアジュルが可愛らしく、アイシャとのいい意味で緊張感のないやり取りが物語を中和してくれます。

 基本的には平和に進む物語ですが、終盤で衝撃の展開を迎えてからは一気にシリアス度が増していきます。黒い瘴気が漂う中で死の気配を帯びてゆく世界。滅びを止める鍵となるのは水と、母から託された腕輪。これらがどう繋がるかはぜひお読みになってみてください。

 少女と少年、そして一匹の竜。彼らが紡ぐ絆の物語を、ぜひ堪能してください。

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