親戚
弟は自閉症という障がいを持っているらしい。
幼い僕にはそれはただの病気のようなもので、薬を飲んで治療すれば治るものだと思っていた。
だけど、成長するにつれて僕にも、それが治るとか治らないとかそういうものじゃないものだということが何となく分かってきた。
弟の障がいが発覚した時、親戚はどういう反応を示したのか。
幼かった僕にはよく分からなかったが、親戚に障がい者がいるということはおそらく、それなりの不安や嫌悪感があったには違いないだろう。
だけど、親戚は僕の弟を受け入れてくれた。
僕にとってこれは大きな幸運だったと思う。それはもちろん僕の家族にとっても。
だけど僕の父方の祖父だけは何を考えているのかよくわからなかった。
祖父は無口で不愛想。
僕が会いに行っても、ボソッと挨拶してそれで終わり。
病気で亡くなるまで、結局弟のことをどう思っていたのかは分からなかった。
だけど僕が中学生になったとき、母親が僕に話してくれた。
「昔ね、弟を連れておじいちゃんに会いに行ったの。でね、『おじいちゃんに挨拶しなさい。こんにちはって』って弟に言ったのよ」
すると弟は一言、おじいちゃんに『こんにちは』と言ったらしい。
するとあの無口で不愛想なおじいちゃんが急に泣き始め
「しゃべれるじゃないか…この子はしゃべれるじゃないか…ワシは何を心配していたんだ…この子はしゃべれるじゃないか…」
そう言い、泣き続けたらしい。
祖父は祖父なりに心配していたんだな。
僕はその話を聞いて初めてそのことが分かった。
弟は確かに人と会話することはできないかもしれない。
でも、祖父に言った「こんにちは」という一言の言葉が、祖父にとってはうれしくて仕方がなかったんだろう。
祖父にはもう会えないけど、もし僕が天国に行けたならお礼を言いたいと思う。
「おじいいちゃん、弟のことを心配してくれてありがとう」
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