母の涙
最近のスマホゲームでは『ガチャ』というイベントがある。
みんなレアなキャラが出ると「ヤッター!」って喜んで友達に自慢する。
逆に弱いキャラが出ると「いらねー」といって売却したりする。
僕の弟は世間から見ると、『弱いキャラ』かもしれないし、友達に自慢もできないだろう。
でも、まぎれもない僕の大事な弟だ。
弟ができたと知ったとき、僕は今までにない程喜んだ。
幼稚園で兄弟と遊んでいる友達とかを見て、ずっと羨ましいと思っていたからだ。
「僕が名前を決めたい!」
母親にそう言うと、
「じゃあ、候補が二つあるからどっちがいいか選んでくれる?」
そう言い母親は僕に名前を選ばせてくれた。
それから弟が産まれるまでの間、僕は毎日のように母親のお腹に耳を当て、その存在を確かめ続けた。
そしてついに、僕が兄になる日がやってきた。
僕はこの日をずっと待ちわびてきた。
うれしくてうれしくて仕方がなかったのを覚えている。
弟は元気にすくすく育っていった。
「赤ちゃんってのはすごいなぁ。こんなに成長が早いんだ」
僕は弟の日々の成長を見てつくづくそう感じていた。
だけど弟は言葉を発するのが遅かった。
最初はそんなに気にしていなかったが、あまりに話すのが遅いから、両親が検査に連れて行ったらしい。
そして数日後、母親は洗面所の前で一人で泣いていた。
幼い僕は尋ねた
「どうしたの?大丈夫?」
母親は言った
「弟は一生話せないかもしれないの…」
幼かった僕にはその意味がよく分からず涙ながらに言った
「大丈夫だよ!絶対に大丈夫!話せるようになるよ!」
そう言うと母親は
「そうよね…そうよね…」
そう呟きながら僕を抱きしめた
あの日の記憶は、今年21歳になる僕の中に今も残り続けている
あの時の母親の顔を見ている僕には、弟を「弱いキャラ」なんて言えない
また母親に同じ顔をさせたくないから
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