第3話~マッチ売りの少女~Ⅲ
合流したバイクに乗った雪輔とアリスはそのままビルに向かって走っていた。
「烈火、状況は?」
アリスの通信に烈火が楽しそうに答える。
『場所取りパーペキ!あっはは!面白い燃え方してんぞものの見事に23階のフロアしか吹っ飛んでねえ。中のドールは吹っ飛んでるだろうが、問題は上と下の階への爆発影響が見えねえ。外壁のコンクリにヒビすらはいってねえ・・・厳戒態勢だったにもかかわらず、こんだけの精密計算爆破、なに使ったらこうなんだよって感じだ』
「童話シリーズが本当にオーバーテクノロジー級のアンドロイドというなら、確率が上がりましたね」
「・・・・・・」
雪助の言葉に顔をしかめるアリス。
「アリスさん!既にビルの下に公安が」
「関係ないわ突っ切りなさい!烈火援護!!!」
『あいよっ!』
アリスたちが乗ったバイクがビルに突っ込む瞬間に、烈火がスナイパーライフルで煙幕弾を公安の集団にぶち込む。混乱する公安にフルスロットルの雪助が駆るバイクが煙幕に突っ込みビルに向かっていく。
バイクが壁にぶつかる瞬間雪助とアリスは飛び降り、すぐさま受身を取る。
「アリスさん先に走ってっ!!!」
その言葉とともに煙幕の向こうから、放たれる銃弾の嵐。
すぐさまアリスと雪助は上のフロアに向かう。
「雪助損害は!?」
「ありません!」
「烈火!敵は外から見えるの?」
ビルを駆け上がりながら、状況把握をするアリス。
『目標の反応は20階に移動・・・でも気持ち悪りぃな人間の生体反応みたいな反応だ。サーモでも30、6~7・・・ロボなら放射熱でコアは50度近けえのに』
『あ~完璧ビンゴねぇ。ナロードのロボは限りなく人に近く作られているわ。断熱加工も並大抵のものでもないもの・・・っと~凶報よアリスちゃん』
そのかぐやの言葉にアリスは走りながら苦虫を噛んだような顔をするアリス。
「なに?爆破したあとにパクった旅客機ぶち込む過去のオマージュでも日本でするっての?」
『2課がメルトダウンモードでそっちへ向かってるわぁ・・・210秒ってとこかしら?』
それを聞きアリスのみならず、雪助、烈火も驚いた。
『メルトダウンモードって首相があいつの起動を許可だしたのか!?ドール吹っ飛ばされただけで、この町ふっとばす気かよ!?』
「平和への核兵器・・・AWD-S・・・アトミックウェポンドール、シンフォニア」
アリスの背筋に嫌な汗が走る。
「そ、そんな!?シンフォニアさんの本気って・・・」
『ええ、この間神戸の都市部の事件で童話シリーズの確率が極めて濃厚な事件で、投入されて神戸を過去の大震災の再来間際まで持って行きそうになったわね』
「今すぐ止めなさいかぐや!!」
『無理よぉ。2課は部長直轄だし、シンフォニアちゃんの臨海突破キー持ってるのは部長だけだもの』
『地獄巡にはつながらねえのか!?』
烈火でさえ焦った声である。
『彼ならプライベートな感じで止められはするけれど、今回は国賓扱いのドール吹っ飛ばされて首相直接動いたのよ?そりゃあそれなりの行動をしないと各国に叩かれるのは必死だもの。彼女を独り占めにしたがっている彼だけれども、さっきから通信が繋がらないところからするに、部長が抑えたわねえ。彼に彼女以外の力を与えるのは危険すぎるとわかっているもの』
それを聞き、アリスは足を止め目の前のエレベーターの扉に蹴りを入れる。
「かぐやはシンフォニアの捕捉優先!烈火は20階に位置取り!180秒でケリつけるわ!雪助行くわよ!『フルパワー』!!」
蹴りによってへこんだ扉の隙間に両手を入れるとアリスが万力のように力を入れるとともにわずかに開く扉。
電気信号を強制的に送り込み、俗に言う火事場の馬鹿力によって扉を開けるアリス。
「アリスさんどうするんで?」
「ショートカットよ」
エレベーターの天板の上に昇り、ワイヤーを上に放ち上る。
「雪助は援護、見つけしだいぶっ飛ばすわ。烈火」
『東側に位置取り完了』
「10秒後突入するわ。雪助あと何回?」
「・・・・・2回です」
「了解・・・いくわよ!!」
そうして開かれた扉にアリスと雪助が飛び込む。
そんな二人の目の前にゆらめく小さい影。正直すぐさま飛び掛ろうとしたが、まさか幼児型の機体とは思っていなかった。
「気流軌道ルート3使用不可・・・ルート13から25までを応用利用。起動『ピュルガトワール』」
最初に気がついたのは雪助だった。
『風?室内で?』
エアコンかなにかかと思ったが、3フロア上が爆発しているのだ。空調なぞ切れているはずである。
それなのにエアコンの風のような、規則性のある気流が流れていた。
「・・・火?」
そんな雪助の隣でアリスが目の前の小さい影に灯った火が揺らめき、疑問に思った瞬間その炎は勢いを増し、あろうことか火の玉となってこちらに向かってきた。
「んなっ!?」
「アリスさん!」
どんっと驚いたアリスを押し壁にぶつける雪助、その間を炎がすり抜けていく。
『このかすかな匂い・・・ガスか!』
アリスがそう判断すると今度はその火の玉が戻ってくるとともに、目の前の影にはさらに2つの火の玉が形成されていた。
「雪助!!!」
「走って!!!」
アリスはその影に向かって走るとともに雪助は後ろから走り、影に向かって銃を放つ。
向かってくる火の玉を二人は避けていく。
『驚いたけれど、スピードは速くない。手品のたぐいか!』
そしてアリスは影を射程に収める。
「『フルオート』!!」
アリスの全身に走る電気が走る。強く地を蹴る左足。敵を打ち倒そうとする右拳がこの上なく引き絞られる。
「うらぁぁぁぁぁ!!!!」
そして振りぬかれる拳、だがその拳は空を切った。
「!?」
「残念でした~何がみえたのかな?パパ~みててくれた?」
隣から聞こえた声に横に振り向く。そこには赤髪のショートカットの少女がいた。
まずいと感じたが『フルオート』は全身の筋肉に強制的に規則的な運動を神経に通電して行っている関係で、アリスの持つ技では威力とスピードはあるものの、技直後は神経信号を普段のマニュアルにするまでに一番時間がかかる。そしてこれまでにない鼻をつんざく激臭がアリスを襲った。
「アリスさん!!!」
「『ピュルガトワール』」
少女とアリスの間に雪助が入るとともに東側の窓ガラスが外からの斉射により割れる。
雪助はそのままアリスを抱き東側に走ったところで大爆発が起きる。
中空にはじき出されるアリスと雪助。
「離しなさい雪助!!あいつを!あいつを!!!」
その声に答える声はない。変わりにスピーカーが壊れるほどの大声で烈火が叫ぶ。
『馬鹿野郎!!!いいかげんにしろっ!!!雪助はビル登る前にもう薬「3回」使ってんだ!!!今の傷は治んねえんだ!!!』
そして自分の左手を見る。自分を守るように抱えた雪助の血にまみれていた。
そして思い起こされる彼の言葉。
『あと2回です』
「・・・弱いくせにっ!!!雪助!!しっかりしなさいっ!!雪助!!ゆきすけぇぇぇぇ!!!」
しかし20階から吹き飛ばされた二人の危機は消えていない。
『烈火二人を!!』
『わーってるよかぐや!でも間に合うか・・・アリス!ワイヤーで減速しろ!!!死んじまう!!』
「雪助!雪助ぇぇぇ!!!」
パニックになり気を失った雪助を強く抱くアリスにその声は届かない。
そんな地面に落ちる瞬間、一つの人影がその二人を空中で担ぐ。
「一途な想いを紡ぐ声はこの上なく美しい音を奏でる・・・貴方が羨ましいわアリス」
その美しい声の響きを聞き、アリスの意識が一瞬雪助から離れる。
「・・・シンフォニア」
目の前にはウェーブの腰まである髪をなびかせ、微笑を浮かべる美女がいた。
「戦争は始まった。貴方と彼と同じように私も恋と一緒にいたいけれど、それができなくなってしまった。お願いよ、アリス。私と恋を助けて・・・」
そう聞くとアリスの意識が遠のいた。
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