第11話~マッチ売りの少女~END
アリスと少女がかぐやの歌を聴き終わった直後、それはやってきた。
膨大な余熱の熱波を放射しながら、人型をしたそれはゆっくりと歩いてきた。
それを感じアリスが叫ぶ。
「ほら来たわよ!!」
少女もセンサーで見るも熱で空気の流動が激しい。苦しそうな顔を向ける。
場所は3フロア突き抜けのこの水族館一番の見ものである超巨大円柱型水槽のある一番下のフロア。魚たちはそんな様子など全く気にした風もなく泳いでいる。
「・・・いきます!!!」
くんっと少女が両手を動かす。それとともに部屋全体に瞬時に風が起きた。
少女はフロアーの冷房を支配し、角度と流量を調整しシンフォニアに向け風を当てる。
だがそれでもシンフォニア自身の熱がバリアーのように冷却の邪魔をしていた。
「くっ!」
アリスとてわかっていた。ただの冷房で核融合炉をもつ彼女を冷やすことなど不可能なのだと。
だが近接格闘ができれば締め技で止められるのではないかということも考えたが、メルトダウンモードが起動していては、生身である自分が熱で死ぬか締める前に投げられて殺されるだけである。
そもそも普通のアンドロイドとは出力が違いすぎるのだ。
アリスは近寄ってくるシンフォニアに向け、スプリンクラーを作動させるが水蒸気が舞うだけである。
「ねえあなた、ターミネーターっていう昔の映画知ってる?」
「え?」
アリスは少女にふいに問いかける。
「今の私たちまさにその主人公よ・・・これが溶解炉の変わりになればいいんだけれど!」
アリスは手元に持ったボタンを押した。それとともに同時にいくつもの爆発音。
それとともに巨大水槽が割れ、膨大な水がシンフォニアを襲う。
「熱源温度が急速に冷めていってます・・・」
それを聞きアリスは目を見張る。この程度の水だけで冷めるものではない。だとすれば先ほどのかぐやがメルトダウンモードを止めたのだろうと推察した。
だが、滝のような水から虚ろな表情のシンフォニアがゆっくり歩いてくる。
「・・・・・バットエンドみたいね」
冷や汗を流しながらアリスは立ち迎え撃とうとする。だが、足が振るえ構えることができなかった。
ゆっくり歩いてくるシンフォニアに恐怖してしまった。一度感じた恐怖は瞬時にぬぐえない。
だが隣にいた少女は違った。熊のぬいぐるみを持ち、立ち向かおうとしていた。
しかし、アリスと少女の後ろから影が飛び出してきた。
その影はシンフォニアの肩を掴み必死で押し返そうとするとともに、周囲に肉のこげたにおいが漂った。
「うぐぁぁぁぁぁ!!!ぐぅぅぅ!!!止まってくれシンフォニアさん!貴方の夢はもう覚めたはずだ!!」
「雪助!?」
そう回復槽で傷の回復を図っていた雪助であった。
シンフォニアの余熱は雪助の手の肉を焼き焦がし、既に骨にまで達そうとしていた。
その傷を見てアリスが悲痛な叫びを上げる。
「雪助!すぐに手を離しなさい!」
脳裏に蘇る、自身の判断ミスで彼に負わせてしまった傷。今その戦闘ベストの下に負わせてしまった傷。
「貴方には地獄巡先輩が待ってる!今ここに向かってきているんだ!彼とまた会うんだろ!?貴方はこんなところで壊れちゃいけない!!!かぐやさんが守った命を無駄にしないでっ!!」
「れ、恋・・・」
ぽつりとシンフォニアがつぶやく。
「うぐああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
遂に骨すら焼き焦がそうとシンフォニアの肌は、雪助の手のひらに激痛を与えていた。
それを聞いてアリスも決意した。
「あなた手を貸しなさい!あなたが右ひざ裏を破壊して!私が反対やるわ」
指示された少女は反射的にうなづくと同時に動いた。
二人は雪助の背中から二手にわかれると少女はバーナーソードをシンフォニアのひざ裏に穿つ。
「『フルパワー』!!!」
そしてアリスは反対側を回りこむと同時に強烈なローキックをひざ裏に打ち込む。
くしくもほぼ同時の攻撃にシンフォニアの膝が崩れる。
「うあ・・・恋・・・恋・・・」
そうしてようやくシンフォニアは眠ったかのように動きを止めた。
それを確認するとアリスは雪助に抱きついた。
「馬鹿じゃないのっ!!!あんなシンフォニアに生身で向かっていくなんて!!!それに手が!!!」
「ははは・・・僕には身体張るぐらいしかできませんから・・・それに今回はちゃんと薬の残りありますから」
すっと雪助の手を見るとその手は少しずつ治っていた。
「よかっ・・・た・・・」
そうして寄りかかるようにアリスは気を失う。そして雪助は隣に立つ赤毛の少女を見る。
「君がアリスさんを助けてくれたんだね?」
「え!?あの・・・その・・・」
戸惑う少女。彼女とて先ほどまでなぜここにいたのか記憶がないのである。
「会うのは2度目だけれど、今の君のほうがとても素敵な色の心をしているよ・・・改めてありがとう」
そうして差し出された手をおどおどとした様子で握る少女。
こうして特機創設始まって以来の大事件は収束したのである。
1週間後
特機部長室
「あんな事件があって1週間しか経っていないというのに新規メンバーの加入申請とは怪しさしか出てこんな」
「あら?秘匿と怪しさと強さは非常に酷似しているものと思うけれど?」
「なにが言いたい?」
「実力主義ならこの子は折り紙付きってこと♪」
そういつものやり取りをするのは、部長の岩谷とかぐやである。
「そうそう、その子の発表前に、今回の事件がどういう手打ちになったのか知りたいのよ。結構大きかったじゃない?うちはほら、『偶然』にも出撃禁止命令出てたところを整備に来ていた、5課の時雨ちゃんとこの本部防衛してたじゃない?だから外はどうなってたのか気になって」
妖艶に笑うかぐや。その顔を見て白々しさしか感じない岩谷。
「・・・今回の件は防衛省の童話シリーズ襲撃にともなった同時多発テロということで国のお偉いさんは納得しとる・・・うちとサンシャインにシンフォニアを運んだのが国際連合部隊という部分だけはメディアには伏せてある」
「あら?国際連合仕様アンドロイドの暴走ってことでアメリカさん叩けないの?」
「口を慎めかぐや。国際連合仕様のは今回本部のアメリカから派遣されたというだけに過ぎん。それ自体に重大な欠陥があるとなれば、開発に携わった国すべてがテロリストの名簿に国名で並ぶことになる。もちろん既にアメリカは解析に出ておる」
「難儀なことねぇ」
「おぬしなら指先一つでなんとでもなるだろう?ワシとてあんな美しい歌声の主の旦那が史上最凶のテロリストとは思いたくないわ」
「久々に歌ったから本調子じゃなかったわねぇ。なんにしろ私は援護しながら歌ってるのが調子でるんだけれど、オープン回線になっちゃってたみたいでごめんなさいね」
「どちらにしろ、今回の事件で童話シリーズの件も含めて、3課の連中が偶発的に捕らえた犯罪者も含めて国と公安にでかい顔ができるようになった。情報開示はできんが、行動制限は解かれるだろう・・・ようやく対アンドロイド部隊として稼動できる。礼を言うぞかぐや」
「お礼を言われることなんてな~んにもしてないわ。礼を言われるならこの子の加入を無条件で認めて頂戴」
そう言って指をならすとアリスと雪助に連れられて小さい赤毛の少女が入ってきた。
「・・・・・義体か?」
「いいえ、アンドロイドよ。今回ビルの爆破があったじゃない?この子はビルの伝送系統をコントロールできるのよ。いつも烈火に外から見させて、アリスちゃんと雪助君に突入させてたけれど、内部工作員もいると思ってね」
「ふむ、実力は?」
さらに指を鳴らすかぐや。それとともに部長室のエアコンが風を生み出し、書類を巻き上げる。そしてそれは竜巻に巻き込まれたかのような、きれいな螺旋を描く。
「どう?」
「・・・利用価値は戦場でしか真価はわからん。好きなようにやれ」
「んふ。それじゃあ改めて紹介するわ『娘』のフォティアよ」
おずおずとフォティアと呼ばれた少女が前に出てきて、自己紹介と共にぺこりとお辞儀をする。
「フォ、フォティアと申します・・・よろしくお願いします。岩谷のお爺ちゃん」
「おお、おお・・・可愛いのぉ・・・っとかぐやぁぁぁぁ!!!なんと呼ばせとるんじゃぁ!!」
激怒した岩谷が机をひっくり返したところでアリスは驚くフォティアを引っ張り、雪助はゲラゲラと馬鹿笑いするかぐやをひっぱり、部長室を飛び出した。
マッチ売りの少女~fin~
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