近未来の国のアリス

れっとあんばー

第1話~マッチ売りの少女~Ⅰ

エレベーターに男2人に少女2人。

会話の一つもあっていいものだが、皆無言なのは扉のまん前に立つ長い白髪のポニーテールの少女の機嫌の悪さのせいだろう。

1人の少女と1人の少年はこのロシア系の血を引いた美しくも沸点が異常に低い、この部隊の隊長の性格と部隊顧問の相性を知っているがゆえなのだが・・・

「なぁ~にガキみたく膨れてんだよアリス、今回も童話じゃなかったからってヘソ曲げんでも」

この動く個室の中、空気を読まないスキンヘッドの黒人にサングラスという映画に出てきそうないで立ちの大男が笑いながらアリスと呼んだ白髪の少女の背中を叩く。

そしてそれを冷や冷やとした視線で見る赤毛のショートカットの少女とインカムをつけた少年が戦々恐々とそのさまを見る。

そしてチンというレトロな音と止まるとともに開かれるエレベーターの扉。そしてエレベーターに飛び込んでくる黒い影。

「あぁぁ~ん愛しい愛しいアリスちゃぁん!怪我はなふぎゅ!!」

飛び出してくるのがわかっていたかのように、綺麗な弧を描く右ストレート。

そして派手に吹き飛ぶ黒衣の女性。

その横をなにもなかったかのように歩いていくアリス。

だが異常な回復力を見せた黒衣の女性はすがりつくように後を追う。

「もぉ~う!!つ・れ・な・い(ハート)」

「知らないわ。相変わらずデマばかりぶつけてくるあんたには今度こそ愛想が尽きたわ、がぐや」

「あらっ!!!アリスちゃんにも私に対しての愛想なんていう感情がまだあったなんてママ感激!!」

「たかだか5歳しか離れてないあんた見てママなんて思えないわ・・・で、帰り道に言ってたこと話すんでしょうね?」

おふざけに付き合っていた口調から一気に真面目なものへと変わる。

「それはアリスちゃんの今日のイエスノーまくらの表によるわねぇ」

「がぐや」

「・・・もう、ちょっとはかまってよぉ。烈火はそのまま整備室、雪助君はそのまま回復槽に時間まで入ってて、フォティアちゃんは私と一緒についてきて。アリスちゃんはシャワーでも浴びてきたら?30分後に会議室ねぇ~」

そうかぐやと呼ばれた女性がいうと各人解散となった。


そして30分後、会議室では最前列ににアリスとフォティア、最後列に烈火という並びで集まった。

「さて・・・はじめたいのだけれど・・・雪助君はまだかしらぁん?」

黒いロングヘアーを揺らしドアをみるかぐや。そして部屋に響くのはコツコツといったアリスの机を指で叩く音のみである。

「まあ、あと時間は45秒あんだ。そう急がんでもいいだろ?」

そういう烈火は巨体を支える両足を組んで机に乗せている。

「45秒あればそこらの公安の1部隊殲滅できるわ・・・あと23秒」

「あの・・・その・・・」

アリスのいらだった声を聞き、フォティアは慌てた様子で場を取り繕おうとする、そんなときだった。

ドアが開け放たれエプロンをつけた少年が現れたのは。

「はあ、はあ・・・す、すいません遅れました」

「いんや、あと20秒弱あったんだ。厳密に言えば遅刻じゃねえ安心しな」

「遅すぎ、なにしてたのよ」

へらへらという烈火に対して厳しい声でアリスが雪助を問う。

「ああ、回復が早かったので、夕飯の仕込を・・・」

さすがにギリギリすぎたというのもあって、長い付き合いでも今回は腰が引けてしまう。

「メニューは?」

「はい?」

「だからメニューよ」

声色を変えないアリスに対して、聞き返してしまった雪助。

「ピザとパスタを・・・」

「マルゲリータとボロネーゼにしなさい」

「は、はい・・・」

「ならいいわ。早く席に着きなさい」

「ハハハ!!!旦那の手料理で許されちまうんだから、アリスも安い女だぜ」

ドゥンという銃声とガンッという硬いものがあたった音、そして烈火のスキンヘッドが大きく後ろにのけぞっていた。

「金で買えない高い女よ私は」

片手で銃を烈火に向けたまま動かないアリス。

「だ~か~ら~高くても高ビーな女は嫌われるぜ。あとこの距離で義体相手じゃあ目狙えよ目」

「毛先程度に覚えておくわ」

すっと何事もなかったことのように銃をしまうアリス。

「も~う!これが普通の公安だったら大事よ~」

「だから特殊機甲部隊・・・特機に無理やり入ったんでしょ?」

その言葉に笑顔で答えるかぐや。

「さて、今回仕入れた特ダネ!・・・極秘首相パーティー。そ・れ・も!リモートドールでの演劇茶番じゃなく生身のガチガチパーティーよ!!!」

それを聞いた4人は眉間にしわを寄せた。

それもそのはず。アンドロイドが普及しだした昨今、生身の要人が他国へ赴くことがなくなった。

だがしかし、その使いとして「ドール」と呼ばれる、外見重視のアンドロイドがその国に赴くこととなる。

その「ドール」を自国からコントロールするのだが、ただの通信と違うのは、その「ドール」自体が国賓扱いとなる点にある。

無機物の機械人形が大統領や首相と同じ扱いを受けることとなるのである。

ゆえに細心の注意が払われるわけだが・・・今回は生身だ。4人が無言で疑うのも無理はない。

「・・・・・冗談はやめて頂戴かぐや。今時そんな・・・」

そう鋭い視線でかぐやを見るとかぐやは、これまでにないぐらいの怖い笑顔をしているのを見て、アリスは口をつぐんだ。

「かぐや、てめえのその自信・・・ソースはどこだよ?」

烈火の真面目な声にかぐやはさらに笑みを深める。

「うふふ~1課のレギオンちゃんよぉ。あとは私の独自のルート♪」

「レギオンつったって、部長直轄じゃねえか。同じ直轄の実動部隊の2課にしかそんな情報渡さないだろ?」

「んふ♪この私に不可能はないわぁ。カレにも貸しがあるのよぉ、ちょこっと返してもらっただけ」

「それでどういう内容なんです?直々に来るなんてよっぽどのことじゃないですか」

そういう雪助にかぐやはくるっと一回転すると正面モニターのスライドを写した。

「これがレギオンちゃんからもらった画像なんだけれども~。ナロードのアンドロイド・・・童話シリーズね。それの模倣犯が各国に現れるようになったのよ。それで、対策会議をして会議は昼なんだけれども終わりにパーティーを開くっていうのよぉ。それで、はい次のスライド~」

そこに映し出されたのは、ブロンドのロングヘアーにサングラスをかけた女性が空港から出てくる映像だった。赤く輝くヒールがカメラ映像でもよく映えた。

「この人物は?」

雪助の問いにかぐやはまた笑う。

「これが次のターゲット・・・モデル『赤い靴』。童話シリーズの一体よ。私が開発に携わっていたころの名前はベルメリオのベリー、ポルトガル語で赤を意味する名前ね」

それを聞きアリスは目を見開く。

「なんでそんなやつが空港から出てくんだよ?ナロードは日本にいるんじゃねえのか?」

「開発は日本でやっていたけれど、姿を消してからはどこに消えたかはわからないわ。たまたまフォティアちゃんが日本に残っていただけなのかもしれないのかすら、未だにわからないんですもの」

「・・・・・ご、ごめんなさい」

かぐやの言葉を聞きシュンとなるフォティア。

その頭をアリスはくしゃくしゃと撫でる。

「貴方のブラックボックスが開けられないせいじゃないわ。問題はあのベルメリオがしでかすこと・・・決まってるでしょ?」

「んふ、そうこのパーティーで一暴れね」

かぐやはベストアンサーを出した生徒を褒めるように笑む。

「でも、どうやってパーティーに潜入するんですか?生身だけなら、あらゆるセンサーをクリアーしないといけないですし・・・」

「彼女はフランスの首相の通訳として入国。首相のお付ならば、チェックは簡単よ。何せそんな場で側近がテロったら国の存亡にかかわるもの」

「んで、どうすんだ?特機ってことで潜入・・・はさせてくれないだろうなあ」

自分でふっておいて答えはわかりきっていたことに烈火は、あきらめた顔をする。

「でも、ただじゃ倒れはしないのがかぐや・・・あなたでしょ?」

アリスのフリにくつくつとこれまでになく笑う。

「ええ、そうよアリスちゃん・・・アリスちゃんにはピアニストとして、雪助君には給仕、フォティアちゃんにはコーラスとして入ってもらうわ。烈火は入れないから、援護ねぇ」

「・・・なんで私がピアノ弾けるなんて知ってるのよ」

「わ、私コーラスなんて歌えませんよぉ・・・」

「え~だって孤児院のときに弾いてたって聞いてたしぃ、フォティアちゃんの歌は大丈夫よぉ」

「どこからくんのよその自信・・・でも、やらなきゃいけないんでしょ?」

それは最初からわかっていたことだった。ナロードの童話シリーズと呼ぶアンドロイドはこの地球上で一番得体がしれないものなのであるのだ。

そしてその得体の知れないものが、この場にも一人・・・

「なんだか、パーティーの潜入で戦うってフォーティとの戦いを思い出すわね」

そうつぶやくアリス。

「ア、アリスさん!!」

「だ、、大丈夫ですよ雪助お兄ちゃん」

苦笑いのフォティアに慌てる雪助。

「でもまあ、そうだな。あんときもビルの上だったしなあ・・・」

そういう烈火。

そう今より1ヶ月ほど前、この特機4課にアリス、雪助、烈火、かぐやの4人だけの部隊だった時・・・ナロードが創りし、人間よりも人間らしい兵器よりも兵器としている人の形をした赤毛のショートカットの小さき少女、フォティア・・・。


そう今回の話は、赤い靴ではなくフォティア・・・炎と名づけられたマッチ売りの少女の父へのバーステープレゼントを贈っていたころのお話。

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