第2話~マッチ売りの少女~Ⅱ
1ヶ月前
「はあ、はあ!!!」
足が機械化された男がアタッシュケースを抱えながら、時折後ろを気にするように懸命に走る。
そしてビルの陰から現れた少年を見て舌打ちをする。
「くっそ!いつまで追ってきやがる!センサーに引っかからなかったから生身の癖しやがって」
そう悪態をつく男を追うのは軍用ベストを着た少年雪山雪助。
彼は息も切らさず走って追っている。その差が縮まらないのは男の速力の問題だろう。
「まいったな、繁華街に出られるとやっかいなのに」
そういう雪助に通信が入る。
『雪助!そっちの本命はどうなってんの!?』
叫ぶような通信なのに透き通った声。そろそろ来るころだろうと思っていたところだった。
「すみません、アリスさん。まだ確保できてません」
『おっそい!何やってんの!!こっちがヤドカリ引きつけてるっていうのに!!』
「いや、だって核弾頭もった相手に銃撃てませんよ」
『距離は?』
「15メートルぐらいですかね」
『そんぐらい走りながらヘッドショット決めなさい』
「無茶言わないでください!!外したらキノコ雲とか嫌ですよ!!!」
そう男が抱えるのは今の日本では禁忌中の禁忌にして、ある意味一番流通するものとなってしまったもの核弾頭である。
第三次世界大戦によって日本は3つ目の核を落とされたことになるも、それがきっかけで終戦後日本は非核の象徴となってしまい同時に世界平和の象徴となってしまった。
非核といってもこのご時世、火力や水力などだけで電力をまかなえるはずもなく、核エネルギーに頼らざるを得ない状況となっている・・・ましてや、経済成長に必要なものは近代化した今電力なのである。
そんな日本に、第4の核を落とすというのは各国のテロリストの格好の標的となったわけである。
自分たちの力を誇示するためなのか、はたまた第4次世界大戦を起こすためなのか、今度こそ日本を滅ぼすのかわからないが・・・
『しょうがないわね・・・烈火!』
『あいよ~なんだいお姫様』
やる気のない男っ気交じりの女性の声が聞こえた。
『場所は動いてないわね?』
『ああ、目標を捕捉中・・・怪しいバンが3台にトレーラーが1台。中身聞くか雪助?』
「あはは、バンはかく乱部隊にトレーラーに義体部隊にフルアーマー・・・あと逃走用のバイクでも入ってますかね?」
走りながらも苦笑いする雪助。
『スクランブルだったからバッテリー足りないのよ。このヤドカリつぶしたら雪助はトレーラー、烈火はバン全部つぶして』
『おいおい、全部ってブラフかもしれねえぜ?』
『ただの銀行強盗を核弾頭抱いて走ってる犯人捕まえてる間にうっかりやっちゃいましたでもゆるされるでしょ、この世の中』
「言えてますね、ふふふ」
そう言って通信が切れる。そうして今度は白髪のポニーテールの少女が後ろを向く。
視線の先にはヤドカリの形をした工業用の多脚自走車がいた。
「まったく甲殻類はアレルギーがあるってのに!」
『あれ?昨日雪助が作ってたエビフライむしゃむしゃ食ってなかっけか?』
「・・・仕事しなさいよ烈火」
『ちゃんとしてるぜぇ。援護援護ってなあぁ~ほい1台目終わり』
先ほどの通信が終わってから3分も経っていない。
『あ、わかった!彼氏の作る料理は別腹ってか?しっししし』
「っ・・・・・違うわよ。誰も食べ物のって言ってないでしょ!切るわよ!」
『へいへい~』
白い肌をやや紅潮させ、アリスはぐっと拳を握りこむ。
「リズム狂うじゃない・・・ふぅぅ・・・・」
ぐっと踏み込んでそのまま追ってきていたヤドカリに向かって回転する。
タイミングはドンピシャリ。アリスが回転したと同時に放った右ストレートがヤドカリに炸裂する。
「エクレールッ!!!!!」
紫電一閃、落雷のような音を立て拳とヤドカリはぶつかり、移動を止める。
「ふう、次行かなきゃ」
そう言ってアリスは、前腕からロケットワイヤーを出しビルの間に消えていった。
「義体部隊が多分6体だろ、それでフルアーマーがいて・・・マガジンが3本にスティンガー4つ。ギリギリかな・・・でもそう言ったらアリスさん怒るだろうし。っと先に飲んでおこう」
そう言って雪助は懐から出したタブレットケースからタブレットを取り出し飲み込む。
『雪助、まだ捕捉してるでしょうね?』
「マーカーもつけてますよ。あと追加情報で足を機械化してます。まだ追えてるので、多分うちらが使ってるラビットみたいなブースターのフロートバージョンじゃないかと思うんですよね」
『了解。次の十字路で入れ替わるわよ。ダミープロジェクター弾使って』
「え?でも走ってたらすぐバレますよ?」
『一瞬の不意をつければすぐ追いついてやるわ』
「・・・・・もしかしてアリスさんスクランブルなのに銃忘れたんですか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「ちょっ!?答えてくださいよ!!!」
『・・・近づいて殴り倒せばいいだけの話じゃない』
「いやいや!基本装備忘れるって!!」
『あああああ!!!!!うるっさい!!!と・に・か・く!!!あんたはトレーラー!!!私が本命抑えるから!!!通信終わりっ!!!』
ブツッと強制的に切れる通信に雪助はげんなりとした顔になる。
「どれだけ抜けてるんだ・・・まあ、あの人なら間合いに入ればたいていの人に勝てるけれど・・・」
走りながら銃のマガジンに特殊弾をつめ、正面の男に放つ。
それを確認したとともに、正面はるか上から白い束をはためかせる少女が文字通り飛んできた。
それを見て、雪助は十字路を右へいくとともに、雪助がいたところに走っているアリスの映像が映し出された。
そして男が後ろを振り向く。
「は!?なんだ女が!?」
一瞬混乱する男。それと同時にアリスが着地し、男を追いはじめる。そしてダブる映像と本物。
「あの男の仲間か!!」
男はジャケットを脱ぎ捨てると、足からロケット噴射をして、建物の屋上に飛ぶ。
「逃がさないっ!ラビットッ!!!」
そうアリスが言うとブーツの底面から高圧ガスが噴射され、男の後を追うように高く飛ぶアリス。
「!?普通のサツじゃねえのか!?」
「わかったんなら止まんなさいよっ!」
歯がゆい想いを叫ぶアリス。
「かぐやぁ!!!」
インカムに叫ぶ。
『んもぉ~うなによ!今ちょうどいいところなのに!』
「どうせレトロゲーの無理ゲーやってんでしょ!?」
『あらバレバレ?そ~なのよ!シリーズの中でも難しいとされる4作目のEXまで残機なしのボムなしのルナティックモードなのよ!』
通信の後ろではプレイしながら通信をしているのか、BGMが鳴りっぱなしになっている。
「んなもん知らないわよ!追ってる男と雪助が追ってるトレーラーの合流ポイントの割り出しと、時間教えて!」
『そんなの自分でやりなさいよ~・・・4番街の裏道ね。時間はまああと3分ってとこかしら?』
かなり間延びした声が答える。
「OK・・・てっとりばやく済ませないとキツイか。脚部ATモード」
グンッとバイクのギアが上がったかのように速度を上げるアリス。そしてチラリと先にあるタンクに目を向ける。
そのタンクに向けてワイヤーを放つと、アリスは再び飛んだ。
男は今まで迫ってきていた足音がなくなったのが気になり足を止め手に持った銃を後ろに向けた。
「いねえ・・・」
ここにきて初めて男は足を止める。それは自身のもつ物がいかに危険であるかを知っているがゆえであり、それにしてはしつこかったが追っ手が少なかったからである。
そう男はこう考えた。
ハメられた?と。気がつかぬうちに罠にはまっていたのではないかという疑惑。だが、その一瞬の疑惑が男の明暗を分けた。
ドスッ!
「うぐっ!!!」
背部に突然の衝撃と激痛、男はその場を吹き飛ばされ転がる。だがすぐさま立ち上がり、衝撃の来た方向に銃を向ける。
「はぁ~ようやく圏内、圏内」
腕を回すのは白髪のポニーテールの少女。先ほど後ろから追ってきていた女だ。しかしどうやって・・・その疑問の答えはすぐに出た。少女の後ろにある貯水タンクから水が噴出している。自分はロケット噴射して駆け上がったが、同じような装備をもつ少女ならワイヤーなどを使い急旋回してきたのだろうと悟る。
「・・・・・てめえどこのサツだよ。SATか?」
「ただの人間相手の制圧専門業者と一緒にしないで特殊機甲部隊4課・・・あなたも部分義体使ってるなら名前ぐらい知ってるでしょ?」
「特機!?」
日本政府が第三次大戦後、疲弊した自衛隊の強化をはかるとともに、近代化した犯罪に対して絶対的に保守的であった日本という国の裏で組織された絶対的な対アンドロイド・機械化犯罪者専門部隊それが特機。全5課からなるこの部隊は裏の世界で知らないものはいない。いや、知られるようCMしたのだ・・・馬鹿な真似をしでかしたヤツは殲滅すると、半ばヤクザにも似たやり方だがこれがそっちの世界で一番効いた。アニメの登場人物かと思わせるかのような受け売りが、反感をかったがその各課についた二つ名は突然現れるとともに、歩き出し、走り出し、暴力的なまでに敵を殲滅していった。
1課、たった一人の群体
2課、平和への核兵器
3課、統率なき完璧主義集団
4課、異形にして異常の人間兵器
5課、第三次世界大戦の亡霊
この名前が犯罪者の耳に必ず残る・・・そうハズレなしの出会ったら最悪のくじである。
そして男も知っていた・・・女は4課と言った。異形にして異常の人間兵器・・・果たしてどのような能力を持つのか・・・一気に男を恐怖が襲った。
距離は10m、普通なら銃をもつ自分が有利だ。だが目の前の少女はどうだ、腕と肩を回している。まるで準備体操ではないか。
「さて・・・やるか『フルオート』」
とんとんと軽く飛ぶと距離を保ったまま女は腰を限りなく低くし、左手を前に伸ばし右腕を引き絞る。
まるで全身が大弓になったように男には見えた。
『素手で挑むのか!?』
驚く男を少女はじっと見つめたまま逃がさない。
恐れてしまった。ただそれが男の敗因だった。男の右人差し指がトリガーに震えながらかかろうとした瞬間、少女アリスは飛び出した。
「うっらぁぁぁ!!!」
ぐしゃという男の顔がつぶれる音が聞こえたとともに男の放った銃弾がまるでアリスの拳に遅れて出されたクロスカウンターのように空を切って放たれる。
「足が速いだけのザコか・・・雪助!」
これが4課異形にして異常の人間兵器たる隊の隊長「白雷」のアリス。特機ランキング7位の実力である。
そうアリスが雪助に通信をした瞬間だった。
大きな爆発音とともに都市中心部にあるビルのひとつが燃え上がっている。
それを見て、アリスは思考を目の前にいる男からすぐさま切り替えた。それはチーム全体の誰しもが同じ行動をとった。
『こちら烈火。バンは全部潰したぜ。援護の場所取りに向かうぜ』
『雪助です。こちらも全滅させました。バイク奪ってそっちに迎えに行きます』
『かぐや、あれの予測は?』
その通信先にゲームのBGMはすでに聞こえていない。
『レギオンちゃんのマークに引っかかっていた最重要優先事項の4つのうちの一つに該当。個人的にお願いして聞いてみたらば、極秘裏の各国国賓ドールのパーティー会場だったみたい・・・ってことでこれわぁようやく、お待ちかねのビンゴね・・・86%の確率で童話シリーズね』
「ナロードッ!!!」
怒りの表情でアリスはビルを見つめる。
『装備を急いで送らせるわ。核弾頭も公安に引き渡して』
「装備を待ってる時間はないわ、このまま行く」
『無茶よ!!相手がどの童話かもわからにのよ!?』
「そんなの関係ないわ!童話シリーズならば壊してでもナロードの居場所を吐かせてやる!!!」
その足でアリスはアタッシュケースを取ると走り出した。
「雪助!3番街の北大通に!」
『了解』
そして、建物を降りた先にいた公安にケースを投げつけると、そのまま走り出す。
それは燃え盛るビルの23階のフロアの中央にいた。
赤毛のショートカットに赤いケープ。壊れたドールと火が燃え盛っているのにもかかわらず、両手を口に当て、寒そうに息を当てている。
「はーっ・・・はーっ・・・パパ、どこにいっちゃったの?フォティアには見えないよ・・・パパに撫でてもらった感触しか残ってない・・・パパ、パパ・・・うん、わかった次はあそこなんだね・・・あれ?なにか来てる??大丈夫パパ。フォティア行くから必ず逝くからね!パパの下にイッてみせるからァァァァァ!!!」
狂気的な叫びを上げ少女はフロアを降りた。
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