第17話~赤い靴~Ⅵ

突如横回転しながら会場に入ってきたので、不意をつかれたベリーは完全な防御体制でないまま時雨の斬撃を足で受ける。

「っ!?」

薄皮、だった。だがそれはベリーの中での危険度は跳ね上がった。

なぜなら、自分の足に傷をつけたのは数えるほどしかいない。

それがいきなり薄皮といえども傷をつけたのだ。

ステップを踏み距離をとるベリー。

「・・・・・なにもの?」

ベリーのひどく真面目な声に時雨は端的に答えた。

「首切り役人」

「そう・・・」

すっと片足を上げ戦闘体制をとるベリーに対して、時雨は二刀を構える。

先に出たのは時雨だった。一歩ではない、ジェット噴射により即座に懐に入ると上段と下段両方から仕掛ける。

それに対しベリーはトンッと軽く飛ぶと空中で開脚し、刃を抑える。すぐさま時雨は足の噴射で蹴りに回ろうとするも、ベリーは時雨の刀の刃をヒールで押さえ込むと同時に脚力で時雨もろとも空中に投げ出す。

「くそっ!」

その隙を突きベリーの蹴りが突き出されるも、各部の噴射で空中で体制を整えると同時に、二刀で蹴りを受け止め、一回転するようにそれを受け流す。

そして距離をとる二人。

「・・・これの援護ってどうすれば」

雪助が困惑した表情のままつぶやく。だがリーダーのアリスは冷静だった。

「雪助はあと2回、時雨も含んだ戦力を殲滅するのに相手が最終兵装を出さざる得ない状況になったとき雪助には体をはってもらうわ。フォーティはこの気流の乱れた会場での気流の再計算、すぐにフォローに入れるルート形成を、私はイラつかせるために陽動やるわ」

部下に有無を言わせない口調でアリスはそのまま、時雨の元へ歩み寄った。

「苦戦してそうじゃない?」

「ふう、そうでもないよ。これはボクの試練だ。邪魔しないでもらえるかな?」

そう言い合う前にいるのはベルメリオ。鋭い目つきでこちらを見ている。

「邪魔もなにもないわ、あいつ男とボクっ子が好きみたいね」

「戦場でボケないでくれるかなアリス。こっちはこれまでになく集中し・・・」

「あいつ最初に雪助殺しにきたわよ」

「・・・・・・・」

それを聞いて無表情になる時雨。だがその表情はアリスととても似通っていた。

「砲弾蹴り飛ばす足で雪助蹴ったのよ」

「・・・・・・・アリス、あれやるから手伝って」

ニヤリと母にとてもよく似た笑みでアリスはイエスと答えた。


そして向かい側に立つベリーも思考していた。今この場を切り抜けるには、アレを使うしかないが当然外にも増援がいるだろう。あれの欠点は展開したら戻すまでに時間のかかる点だ。使えば強力だが、敵を殲滅することにおもむきを置き過ぎているとも言えるあの兵装は殲滅力はあっても逃走を考えていない。ゆえにベリーは諸刃の剣ともいえる自分の最終兵装の使用をためらっていた。

そして会場を見渡す。

『フォティアにはあの不可解な再生能力を持った人間が・・・だがどこまで再生できるかわからないが、こちらの攻撃は有効なのはわかったし、あちらの攻撃が無効なのがわかったのでよし』

視線だけを前の二人に向ける。

『危険なのは突然現れたあの二本刀の女・・・目つきが変わった。多分まだなにか隠している。そして・・・・・』

その横にいる白髪のピアニストだった少女を見る。二刀の少女を見るよりもさらに鋭く。

『・・・・・なんだこの胸のざわつきは?あのスタンナックルの女・・・ただの生身だ、蹴り一つで殺せる。だが、これは人間の言う本能というものなの?あの女は危険と私のメモリーの片隅でノイズのように訴えかけてくる』

白髪の少女がベルメリオの恐れるなにかにダブる。

あのいつもなにかたくらんでいる目に憎きあの男によく似たあの髪の色・・・

『・・・・・そんなはずない。もし生きていたとしても、あの人は私に答えをくれなかった・・・』

すこしの逡巡が過ぎるもすぐさま、戦闘に集中する。

そして動いたのはアリス、横にステップを踏み生身の限界速度で迫ってくる。

そして最も警戒されていた時雨は、構えたままじっとベリーを見つめる。

そしてベリーの視界からアリスが消え、ほんの少しベリーが視線を逸らした瞬間だった。

ズンッ

言葉に表すならそうとしか言いようがない。

「んぐっ!?」

突如ベリーを襲ったのは上からの重圧感。それも何十キロという生易しいものではない、それは人型である二足歩行タイプの義体であれば、一撃で足を破壊するほどの重さをベリーは感じていた。

「んぐぐぐぐ!!!!!!」

だが、オーバーテクノロジーと言われても遜色のないそのベリーの足は二足でありながらも膝をおりながらも耐える。すぐさま状況を確認しようと周りを見る。

アリスは右側面から後ろに、時雨は正面そのまま。

「避けろよアリスっ!!!」

声のしたほうに振り向くと同時に、ぞくりとしたものがベリーの背中を走る。

「うがぁぁぁぁぁぁ!!!」

ここ一番の力で上からの圧力から逃げるように左へ飛ぶ。

そしてベリーのブロンドの髪を突き抜けた閃光とともにビルの壁をいとも容易く破壊される轟音が響く。

受身を取ると共にここにきて視覚だけでなく各種センサーをフル活用するベリー。

『熱源上空2!!』

上を振り向き右足を振りぬこうとするもまたしても感じる重圧力。

「ぐっ!」

それに対してまたしても踏ん張ることしかできないベリー。

二刀を揃えて切りかかってきていた時雨の攻撃に対し、わずかに上体を逸らしそれの直撃を避ける。

そしてその上からアリスが右拳を引き絞っていた。

今度は全力で横に飛ぼうとしたが、突如圧力がなくなりその力は自然と立ち上がるために上へ向いてしまう。

「しまっ!?」

「ドンピシャリッ!!!!」

アリスのエクレールが落雷のような音をさせながら、ベリーの額にぶつかる。

「ぐあああああああ!!!!!!」

さしもの童話シリーズといえども、フルパワーのエクレールの直撃は堪えたのだろう、ベリーは膝をつく。

「どうした赤い靴?蹴り返せるものなら蹴り返してみなよ」

そういう時雨にベリーはこれまでのセンサーで手に入れた情報を分析した結果を言う。

「そう・・・貴方、磁力使いね。しかもナロードが作った兵器クラスの持ち主」

「これだからイヤなんだ、初見で見抜かれる。わかったろアリス?」

「使ったのは貴方よ。だいたいいつもつかわなすぎなのよ」


慢心。


そうベリーにも、時雨にも慢心があった。

ベリーにはその絶対的な足技と最終兵装を使わずとも強靭な足があるゆえに、どのような敵に対しても障害に対しても粉砕する力としてきた経験があった。

対して時雨は磁力を操るという能力。「メガマグネットドライバー」という兵装。

普通ならばナロードクラスでなければ作成することができない代物である。磁場を任意に操るという常識はずれの武器は。

精度に関しては条件があるもそれを作り出すことを可能にしたのは魔女かぐやである。

ナロードから離反する前にいくつかの武装の理論を持ち出したのである。その一つがこれであり、それを可能にしたのが一昔前ではアニメでもやっていた、人型レールガンである。

レールガン自体はそれほど現代においての近代兵器ではない。なぜなら、2015年ほどにアメリカが駆逐艦に搭載実験したのが、実験の始まりである。

簡単に言えばリニアモーターカーをすっ飛ばせるようなものなのだが、問題は電磁力の発生に膨大な電気を必要とすること、ゆえにこの小型化は不可能とされた。

時雨の義体は通常の義体と違いこの兵装のための特殊なバッテリーを搭載している。ゆえに他の女性型義体より重く、通常戦闘では、ジェット噴射という半ば強引とも取れる戦闘方法をとらざる得なかった。

しかし、これまではそれで十分であった。

彼女の戦闘勘は両手の刀と高速移動さえあればよかった・・・その慢心があった。

「誰が作ったのかわからないけれど、やっかいね」

「そりゃどうも・・・じゃあ、さっさとくたばってくれるかな?」

そう言い合う3人の外で雪助は、烈火の様子が気になり外を見る。

そしてはっきりと見た。

それは雪助にしか見えない表情から来る心情の色。

かなり遠い、でもこれまでに見たどの殺気よりもどす黒く吐き気さえ催してしまうものだった。だから雪助は無差別に叫ぶしかなかった。

「みんな伏せてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」

いち早く反応したのはアリス、次いで時雨、援護していた烈火、最後はベリーだった。

先ほどの時雨の比ではない超超長距離からの閃光が5つ。

雪助はフォティアを抱きしめ押し倒し避ける。特機メンバーは避けきったが、ベリーは敵の言葉と反応が遅れ左腕が吹き飛ばされる。

「「「「!?」」」」

驚きが戦場を支配したが、すぐに反応したのは左腕を失ったベリーだった。

「ちっ!!!こんな時になんで『赤ずきん』がいるのよっ!!!」

その言葉に特機メンバーが驚く。そしてその中で一人絶望の表情をするフォティア。

「裏童話の悪魔の前期型・・・」

「前期!?」

雪助が叫ぶ。

「烈火!!!ふっ飛ばしなさい!!!」

『おいおい冗談言うなよお姫様。こっからそっちまで1500mはあるってのにここからさらに2000mは軽くある距離だぜ。とどかねえよ』

そう言われた先にいたのは、ビルの端にちょこんと座るフォティアと同じほどの黒髪ショートに赤というにはどす黒いずきんとケープをつけた、小さい幼女がフライドチキンを脂も衣も気にした風もなくかぶりついていた。

「オジョウ、ヒダン1。全員イキテイマス」

その隣には、棺桶のようなものが横になっていた。

「あ~もうっ!!!なにはずしてんの???おとーさんが面白いのがいるから始末してこいっていうから来たのに、あんたが外して位置バレバレじゃ~ん・・・・・・このクズ!役立たず!!私を助けてくれた猟師さんはもっと優秀だったよ!!!!!!!」

そういって腰から取り出した包丁で棺桶をやすやすと貫き、次々と刺していく。

「モウシ・・・ワケ・・・」

「まっいいや。あれがカグヤの駒・・・土産話ができただけでもおとーさんはよろこんでくれるっか!さ、撤収撤収・・・ちゃんと動きなさいよ!オイル漏らさないでよね!!!」

そういうと『赤ずきん』はビルを飛び降りた。

そのさまを見たベリーの決断は早かった。

磁力を操る自分と同実力兵器を持つであろう敵に、あらゆる隙を縫って的確に攻撃してくる白髪の敵、そして不可解な再生能力を持つ人間にフォティア、そして外の援護要因。そしてなにより赤ずきんの存在。

逃走は後回しだ。まずはこの場を凌ぎきる。

そう思い立ちつぶやく。

「ベルメリオ・エヘクトル」

そうつぶやくとベルメリオの足が股下すぐから、消えてなくなった。

「なっ!?」

最初に驚いたのは時雨だった。相手の実力を知るやいなや、各種センサーでベリーを見てきたが、足の部分の反応があらゆるセンサーから消えた。見えず、熱源もなく、光の屈折率の微細な差もまったくなくなっていた。

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