第4話~マッチ売りの少女~Ⅳ
12時間後
特殊機甲部隊部長室、禿げ上がった頭に日本人にしては彫りの深い顔が印象的の老齢の男が机に両肘を突き、眉間に皺を寄せていた。その男こそこの特殊機甲部隊の計5課の部長通称「石頭」と呼ばれている男、岩谷総一郎である。岩谷はこの職に就くまでは公安でのはみ出しものであった。それもこれも、異常なまでの正義感が原因であったのだが・・・。
そんな石頭の頭を毎回毎回悩ませているのが、特機4課なのであり目の前の魔女かぐやである。
そんなかぐやは椅子に座り足を組み白々しいまでの顔で周りを見回している。その隣には烈火があくびをして立っている。
「・・・・・・そんなに部長室が珍しいか魔女」
「あらぁぶちょーさん、お偉いさんのお部屋にはなにかもの珍しいものがないかと思っててね」
「特機の隊員でここに一番来とるお前が言うセリフじゃないわ!」
岩谷の怒鳴り声が部屋に響く。
「かぐや姫は珍しいものを常に欲しているのよ・・・で?差し上げたデータの裏が取れたから、私を直接呼んだんでしょ?」
そういうかぐやは怒鳴り声などものともせずにやりと笑む。
「・・・レギオンに解析させたが、改ざんのあとはなし。このお前さんの部隊のアイコンタクトカメラの映像の『黒髪の長髪』の女性型アンドロイドが童話シリーズだと?」
そう言う岩谷に笑みを深めるかぐや。
「ええ、私がここに入隊したときに提供した童話シリーズの情報・・・各アンドロイドは昔の童話をモチーフにしている」
「それがこの長髪の?ではモデルはなんなんだ?そもそも外見だけでなく兵器すらも童話を模したものと言っておったではないか」
「私がかかわったのは兵器の部分以外だわ。それに私が抜けた跡にナロードが、情報の漏洩を防ぐために私が作ったボディに違う童話に搭載する予定だった兵器を組み込んで、こちら側のかく乱を狙っているかもしれないわ」
「ふむ・・・」
そこで考え込む岩谷。たしかにかぐやの言うのは最もであった。童話シリーズの異常なまでの凄さはすでに見ている。そこまでの兵器の情報が漏れれば対策を取られるかもしれない。そしてそこに情報を漏らした彼女が目の前にいるのだ。特機でも烈火、シンフォニア、あともう一人彼女が作った義体とアンドロイドボディがあるが、彼女の造形師としての腕も科学者としての才覚は異常であった。だがそれゆえに彼女を危険視する連中も多く、部下としてはいるものの彼女を得体の知れない爆弾として自身が抱え込んでいるリスクも岩谷は承知していた。
「・・・・・・わかった。4課の任務外行動は2課のシンフォニアが現場に到着するまでの、足止めとしてやむなく行ったこととする・・・が、この黒髪の童話シリーズに関しての事件からは4課ははずす、それで問題ないな?」
「ノープロブレム。こちらとしては雪助君も重症だし、娘のアリスちゃんもそれでひどく憔悴しきっているわぁ。それに、それなりのことしとかないと防衛省の輩がうるさいんじゃない?」
「事件現場が現場だ。あの時現日本最大戦力のシンフォニアの起動をしとかんと、各国への体裁も言い訳もなにもない」
「愛情も持っていないただの身代わり人形壊しただけで、今度は第4次世界大戦?随分とまあ神経質な国が増えたわね。上はそんな爆弾のスイッチ押す役を貴方に押させるためにこさえた傀儡部隊が特機でしょ?」
「そんなもの重々承知しとる。だから自衛隊とも公安とも繋がりが皆無・・・」
「今回のスイッチは特別大きかったわね。法務省の大臣でもなったほうが向いてるんじゃない?」
「法廷でなんやかんややっているうちに、何年とのうのうと生き延びとる重罪人をサイン一つで合法的に殺すならワシはアメリカでスナイパーでもやっとるよ」
「あら!アメリカで前線復帰ならそれなりの義体作ってあげるわよぉ。ご老体には厳しいでしょ?」
「だからワシはここでできることをしとるんだ。お前さんたちはバリにでもバカンスに行って来い・・・今回の独断先行、できるだけやってみるが防衛省がアメリカから国際連合仕様の義体部隊の派遣要請を出した。一番データを持っているお前さんとアリスの確保が目的か、童話シリーズ確保優先かわからんが、動きが読めん。用心しろ。うまく立ち回る分にはケツは持ってやる」
最後のほうは小さな声で話す岩谷に、その言葉に薄く瞳を開き妖艶に岩谷を見るかぐや。
「あらぁ、なにげにセクハラよぉ。でもありがとっ、ごきげんよ~ぶちょーさん♪」
そう言って手をひらひらとさせ翻り部屋を出て行くかぐやに後を追う烈火。
完全に扉が閉まると岩谷は通信を入れる。
「全部隊撤収だ」
『本当によかったので岩さん?この数がいればあのスキンヘッド野朗も押さえつけられましたぜ?』
「馬鹿を言うな、この特機でランキング9位だ。公安の対アンドロイド部隊なんぞ、何部隊いようとも殲滅されるのがオチだ。無駄死にはさせん」
『・・・・・了解』
そう言って複数の気配が消えた。
「レギオン」
「はいは~い!!!!なになに!?!?ぶちょ!!ぶちょ!!」
部屋全体に響く子供の声。
「4課の監視を命ずる・・・他課との接触があった場合教えろ」
「わかったよお~ん!!!!!」
そう言うと子供の声はクラシック音楽を奏で始めた。
「ワシとてシンフォニアの・・・核のトリガーなんぞ引きたくはなかった」
ぽつりと岩谷はつぶやいた。
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