第26話~茨姫~END
「隊長お嬢がやりました!」
「フルアーマーは俺がやる!4課はそのまま突っ切れっ!」
そう命令されそのフルアーマーの間を切り抜ける4課。
それを発見して標的を追うようにカメラがうごこうとしたところを、5mの巨体が押さえつけられる。
「お前らの相手はこの『鬼神』のニック様だ」
強烈な握力でカメラを破壊すると、飛び掛ったニックが離れる。
そこに2体目のフルアーマーが襲ってくるがそれを真正面から受け止めるニック。
「ブースト」
そうつぶやくと両前腕から時雨のような、ジェットブースターが出てくると共にフルアーマーの巨体を押し返す。
そして勢いそのまま、まさに鬼の一撃のような強烈な一撃がフルアーマーを襲う。
「こんなんじゃあ足止めにもなんねえぞ!!!やる気あんのかぁぁぁ!!こちとら戦争なんだ!ひよった野郎どもは粉砕してやる」
そういうとニックは足を失った、国連仕様のアンドロイドの頭を握りつぶした。
特機ランキング5位
特機5課「第三次世界大戦の亡霊」の隊長にしてその体現者にして、特機内部分義体持ち最強の真の「戦争」を知る男
『鬼神』ニック・アンダーソン
わずか両前腕だけの義体をもつ、腕なしの人間として最強の男
「うちの娘の邪魔するやつぁ!国家だろうがなんだろうがぶっ潰す!」
大量に沸く敵を目の前に部下たちの銃撃音の中心で叫ぶ。
そして4課は目標の塔にたどり着く。
「やっぱりね。この塔のシステムは完全なスタンドアローン。私がいてよかったわ」
有線でシステムに潜るとそれをレギオンが解析し、すぐさま扉は開く。
そしてそれはすぐ目の前にいた。
「お久ぶり~おか~さん」
金髪の三つ網の少女に3mほどの黒い人型のなにかがいた。
「ゲミニー・・・」
その姿を見てかぐやはそうつぶやくとともに、フォティアは振るえ、雪助も銃を構えようとするも止まってしまう。
そうあの敗戦で戦った相手だった。
「裏童話の悪魔の前期型」
そうフォティアは過去に赤ずきんの存在を知ったときにも言っていた。
童話の中で最も兵器に近しい存在にして童話の中で限り無く人に遠い存在。
モデル『ヘンデルとグレーテル』のゲミニー
彼女らを相手にして4課は敗れ、アリスは攫われた。
その恐怖が雪助とフォティアを襲っていた。
だがたった一人・・・あの時この場にいなかった眠姫だけは違った。
「誰が出てくるかと思ったらゲミニーかよ」
「あら、そちらこそ久しぶりプロトタイプ。壊されにきたの?」
「馬鹿やろう、誰がてめぇなんかに壊されるかよ」
そういうと眠姫はゴスロリ服の隙間から、バラの茨のようなものをいくつも出す。
「んふふ、前よりかは楽しめそう」
「こっちは最低なイージーゲームだぜ・・・先行ってろ。10分で片付ける」
そういわれかぐやは、雪助とフォティアを先に促す。だがその前にはいつのまにか黒い人型の何かがいた。
「ナイスお兄ちゃん。・・・誰がイージーゲームだって?」
怒りのこもった声で三つ網のゲミニーは眠姫を見る。
だがそこに彼女はいなかった。
ドゴッという重く硬いもの同士がぶつかるかのような音がして、瞬間ゲミニーに何かがぶつかる。
「っ!?」
そのまま壁まで叩きつけられるゲミニー。
「眠姫さん」
「本番には強ぇんだろ?だったらとっととお姫様助けて来い、王子様」
そう言われ、雪助たちは先に向かった。
「げほっ!げほっ!よくもやったわね!」
「先に吹っかけてきたのはてめぇだ。早く終わらしてぇからよ。こうして兵装出したんだけどよ、アタシとしては最終兵装で手っ取り早く済ませてえの。だからこの兵装は飾りと思ってくれてかまわねえよ・・・お前らごとき元々こんなの使わなくても勝てるからな」
その言葉にゲミニーの怒りは頂点に達した。
「早くその女殺して!バラバラにしてぇぇぇぇお兄ちゃん!!!」
そして黒いなにかが眠姫に向かっていた。
「はあ、はあ・・・」
「大丈夫ですかかぐやさん」
「大丈夫よ雪助君。もうすぐアリスちゃんがいるんだもの、がんばらなきゃ!」
笑顔で返すかぐやに雪助は不安になった。かぐやは気がついたらいつの間にかいつものかぐやに戻っていた。取り乱すでもなく、焦るでもなく・・・
だが雪助の目は・・・そのかぐやの心情を簡単に読み取っていた。
この上ない不安。
病的ともいえるほどの不安に彼女は襲われながらも、周りにはそれを隠し装っていた。
そんなかぐやをみながら、塔の最上階にたどり着く3人。
そして安堵するかぐや。
「アリス・・・ちゃん!!!」
そうアリスが培養槽の中に浮かんでいた。見た限り無傷だ。
そしてそこに彼はいた白髪に無精ひげを生やした青年、煤原武。
「まさかここに臆することなく来るとはね・・・さすがは姉さんだ」
「あなたにだけはそう呼ばれたくないわ」
「おいおい、今じゃあ『唯一』残った義理とはいえ兄弟じゃないか?」
そう言った煤原の顔の横をかぐやが持っていた携帯端末が飛んでいく。
無残に割れる端末。
「あなたに・・・妹たちの死を踏みにじる権利はないわ」
雪助もフォティアも困惑した。アリスが攫われたときより彼女はこれまでになく怒っている。
「悲しいねぇ。その兄弟を夢想するがゆえに手に入れた君の造形士としての腕と科学者としての手腕・・・科学者ならば喜ばしいことじゃないか?」
「黙りなさいっ!!!」
「だったら貴様が黙れかぐや!!恵まれた才能を評価され、生き残り、あの研究所で家畜ではなく兄さんとともに唯一人間として扱われた君に!あの兄さんと比べられ、努力もなにもあの兄さんという存在とそれを補佐するかのように並んで歩いていた君にこの僕の苦悩が!苦痛がわかるか!!!」
そう狂的に叫ぶ煤原。
「もういい・・・これで終わらそう。『シンデレラ』」
そう言われすっと現れたのは白いチャイナドレスを着たブロンドのロングヘアーをツインテールにした少女だった。
「はぁ~いお父様♪」
その姿をみて4課の全員が絶望した。
やはりいた4体目の童話。
「セニス・・・貴方ナロードについていたんじゃあ・・・」
「フフフ、そうよぉ私はいつでもどこでもお父様のことしか考えてないし、頭にないわぁ・・・だからお父様の頭に巣くっている貴方を殺すのお母様」
対アンドロイド型タイプ
モデル『灰かぶり』のセニス。「灰」の名をもつ彼女は狂的なまでにナロードを愛していた。ゆえに煤原などに懐柔されるとはかぐやは一番思ってもみなかった。
「それじゃあね♪」
雪助もあまりにも速過ぎるスピードに対処できなかった。
「かぐやさん!!!」
トンッと軽く地を蹴ると、かぐやの頭を射程内に入れる。そしてそれを破壊しようと繰り出される蹴り。
だが、寸前のところでフォティアがかぐやを押し、身代わりとなった。
「フォティア!!!」
「うぐあぁぁぁぁ!!!」
かぐやの声はガードした右腕がやすやすと壊される音と苦痛の叫びに消されていく。
だがそれでも蹴りの勢いは止まらない。フォティアは童話シリーズの中で最も強度が弱い部類に入る。
セニスの蹴りは童話の中でも屈指の実力だ。1対1ならば、相性もあるが前期と変わらない。
だが、足技で彼女に並び、共に練磨してきた姉妹ならいた。
「軽々と私の可愛い妹を殺さないで『灰まみれのセニス』」
「ハッ!まさかあんたがくるとはね『足なしのベルメリオ』!!!」
「ベリーお姉ちゃん・・・」
潤んだ瞳で『赤い靴』である姉を見るフォティア。
ベリーの蹴りを避けるとともに後ろに飛ぶセニス。
「これはぁやっかいだねぇ」
顎をかく煤原。
「ベリーちゃん!」
「遅れてごめんなさいお母様。イタリアから駆けつけてきたけれどギリギリだったわね」
「ベルメリオさん!」
雪助が叫ぶ。
「セニスは任せなさい。あんたはあの腐った男ぶっ壊してきなさいよ」
「はいっ!」
そしてベリーとセニスの嵐のような足技の戦いが始まった。
「はてさて困った・・・僕は科学者だ。戦う戦士じゃない。使いたくはなかったけれど、使うしかないねぇ」
そういってキーボードのエンターキーを押す煤原。そして培養槽が開かれると同時に降り立つアリス。
「仲間同士で殺しあってもらおうか」
そう言われたが、雪助は自然と安心していた。
アリスが走ってくる。紫電纏った拳を引き絞って殴りにくる。
「雪助君!!!」
「雪助お兄ちゃん!!!」
かぐやとフォティアが叫ぶ。そしてその右拳が雪助でさえも致命部位である左ほほに軽く、本当に軽くぺちんと当たる。
そしてそのまま前のめりになりながら、倒れるアリスを抱きとめる雪助。
「遅れて!!!遅れてすみませんでした!アリスさん!!!」
「ほんとう・・・ほんとうに・・・遅すぎよ・・・ゆきすけ・・・」
その様をみて煤原はここにきて初めて焦りの表情を浮かべた。
「ば、馬鹿な!?精神洗脳は完璧だったはずだ!!!あの研究所で作られたシステムだぞ!?耐えられるわけが!!!」
それに対し今度はかぐやが笑った。
「残念さま。貴方、その子誰の子だか知らないの?どこの生まれか知らないの?あそこで生まれたなら・・・親の私がいうのもなんだけれど、その子、常識と非常識から外れてるからねぇ」
くつくつと笑うかぐやに焦る煤原。
そしてアリスを床に優しく寝かすと、雪助はジャケットの内側から無数のスティンガーを周囲にばら撒く。
「お前は必ず葬頭河に沈めてやる・・・煤原武」
両手にスティンガーを構える雪助。
そしてその姿を見て煤原は、引きつった笑いをする。
「はは・・・ははは!!!この僕が!!!この僕が貴様なぞにやられるとでも思ってるのか!!!」
煤原の周りに機械人形が囲む。
「雪助おにい・・ちゃん」
「大丈夫フォティアちゃん。かぐやさん、フォティアちゃんとアリスさんを頼みます」
「ええ・・・存分に使いなさい『アベリア・スティンガー』を」
そう言われ雪助は一直線に走った。
自分の弱点はとうの昔から知っていた。肉体強度はあっても、攻撃力がない。
それはベリーと戦ったときに痛感した。
時雨の二刀は、軽々と振られているがあれ自体は、20kgを軽く超える。
それはかぐやが作った童話の装甲物質やあらゆる物質の原子結合を解析し、それに特化した振動を生み出す装置があるからである。だが、それもすぐにとはいかない。解析には時間がかかるし、何より重過ぎる。扱えるのが時雨しかいなかった。
そこでかぐやが考えたのが、数による同時多重多面攻撃である。
童話とて無敵ではない。ダメージは蓄積する。それを数で補うことにした。さながらそれは漫画の忍者だ。
向かってくる敵を一刺しするとそのまま間をすり抜ける。そして爆発する。それでも敵は向かってくるが雪助は指揮者のように手を交差させる。今度はその敵の側面にスティンガーが頭めがけ刺さっていた。
そして完全なる背後、しかし、既に雪助の両手には新しいスティンガーが握られていた。振り向きざまに眉間に刺すと、走りを止めずただただ走り抜ける。
「どう・・・なっている。あいつは生身じゃないのか?」
煤原とて相手が義体やアンドロイドであったら疑う余地はあった。
だが、目の前の男は壁のあらゆるところに刺さったナイフを糸も使わず巧みに操っていた。
「どうなっているっ!!!」
答えは簡潔だった。仲間にこれができる人がいる。
ときに雪助の近接戦闘の相手をし、雪助を想う人。
時雨・アンダーソン。彼女の兵装「メガマグネットドライバー」の応用である。
もし生身に彼女の兵装を持たせたらばどうなるか?
簡単、磁力は反発する。弾き飛ばされる。時雨は、義体の力とブースターで相殺させている。
これをかぐやは人でも使えるように改良した。ゆえにこのスティンガーは雪助が装着している特殊グローブによる磁場にしか影響しない。電磁誘導を使用し、どのスティンガーをどこに当てるか、雪助はグローブの指先にまでくる微細な反発力を感じ取り、操っていた。
「うおぉぉぉぉぉ!!!!!!」
そして最終ラインを突破し、煤原の両肩にスティンガーを打ち込み起爆させる。
「がっ!!!」
吹き飛ぶ両手だが煤原は立っていた。
「フフフ、これがかぐや、君の作品かい?」
「おあいにくさま。誇れる私の息子よ」
そうかぐやが言った瞬間だった。塔を貫くようにまるでレーザービームのような一閃が貫いた。
「なっ!?」
そう言ったのは雪助だった。右の横腹がえぐれている。
「雪助君!!!」
かぐやの悲鳴が響き渡る。雪助はその場にうずくまると同時に、小さくつぶやく。
「大丈夫・・・です。まだ薬使ってませんから治ります」
それを聞いてほっとしたが、かぐやは目の前の煤原をみる。
胴体に直径10センチほどの風穴が開いていた。
「ナロード!!」
その一閃はどの戦場を止めるに十分な攻撃だった。
はるか防衛塔から10km先の岬に白髪にメガネ、白衣を着た青年と限り無く黒に近い赤いずきんとケープを羽織った少女、ブロンドロングヘアーをポニーテールにした少女に踝まで長い金糸のような金髪の三つ編みをした少女が立っていた。
「命中ヲ確認。致命弾デス」
「やっほ~い!!!やったよやった!!!あのまがい物ぶっ殺したよ♪」
「よくやったエマ」
そう言い白髪の男は「エマ」と呼ばれた『赤ずきん』の少女を撫でる。
「・・・お父様、ドライのほうは無理ですね。やはりあのシンフォニアというアンドロイド、アコルダールと同じく危険ですね。第一世代のドライを一蹴するとは」
「そんなことはないさブラン。予想できたことさ・・・」
そう言いながら「ブラン」と呼んだ少女の肩を抱く。
「あぁぁぁぁ!!!でもでも滾ってしまいますわぁお父さん!!!このように私たちの相手ができる相手がいるなんて!!!!!ああぁぁぁぁペシェなんて無様左腕がなくなってしまっていますわぁぁぁぁ。帰ってきたら思いっきり慰めてあげましょう!ねえいいでしょうお父さん!!!」
「そうかペシェが・・・今回の褒美だ孕むまでイかせていいぞパル。ただし壊すなよ」
そういい恍惚とする少女のキスを受ける男。
そう・・・この男こそが全世界指名手配中の最重要テロリスト
ナロードナヤ・スカースカ
そしてそれを囲むのは・・・
モデル『赤ずきん』の「エマ」
血の名を持つ超超距離戦用前期型の童話シリーズ。
狼に食い殺され、猟師に助けられなかったほうの赤ずきん。
モデル『白雪姫』の「ブラン」
白の名をもつ対アンドロイド中距離戦闘型のベルメリオとセニスの同時製作の3姉妹ともいえる童話シリーズ。
首を絞めても、毒のくしでも、毒のりんごでもしなない不死身の姫。
モデル『ラプンツェル』のパルセノスのパル
処女の名をもつ対広域殲滅を想定した前期型の童話シリーズ。
魔女に誘拐され塔に幽閉され、自らの髪を使って性行為の悦びに目覚めてしまった少女
「ナロードには常に前期型が2体いる」
かぐやはベルメリオ戦のときそうつぶやいた。
「行こう」
「お父様、セニスとペシェはあのままでいいのですか?ゲミニーのほうはアコ相手ではもう・・・」
「こっからなら誰でも撃ちぬけるよぉ~ん♪」
「ああ!!!お父さん!!!私にイかせて!!!早く早くペシェを抱きたいのぉぉ!!!」
「あの二人には、帰り道は伝えてある。合流地点で待とう。ゲミニーはアコに当ってしまった。不運としか言いようがない」
そして最後に白髪の男が塔のほうを見る。
「・・・・・なにが君を変えてしまったんだ・・・愛しいかぐや」
その男でも、かぐや姫の所望する品を用意できなかったのだろうか?
男は最後にそうつぶやき、その場を去った。
近未来の国のアリス れっとあんばー @redamber
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