第19話~赤い靴~END

そして意識と両足を失ったベリーが横たわる隣でとめどなく血を吐く雪助。

「大丈夫?雪助?」

まるですこし咳をしているのを心配するかのようなアリスに時雨は刀を放り投げ駆け寄る。

「なに言ってるんだアリス!!!早く治療しないと!!!」

その言葉にアリスは気にした風もなく答える。

「何言ってんの、雪助の能力知ってるんでしょ?」

「でも!!」

そう言いあっている間に、雪助は再生を済ませていた。

「ふう、もう大丈夫かな・・・っと、血はまだ再生しきれてないみたいだ」

ふらつく雪助をフォティアが支える。

「これがうちのやり方よ時雨」

「そんな!!!雪助くん死んでたかもしれないんだよ!それにあんな傷・・・・・とても耐えられる痛みじゃない!!!!!」

生身で死んだ痛みの記憶があるゆえの時雨の悲痛な叫びだった。

「いいんだよ時雨ちゃん。僕にはこれしかできない。それがこの部隊で・・・アリスさんやかぐやさんの役に立ってているから」

「むちゃくちゃすぎるっ!!!」

そう叫ぶ時雨に答えたのは、戦闘が終わり現場に来た烈火だった。

「烈火さん・・・」

「おめえならこのステージに来れると思ったんだがな・・・」

「時雨、私たちが戦ってるのは人でも普通のアンドロイドでもないのよ。ナロードナヤ・スカースカが創りしオーバーテクノロジーの塊・・・むちゃくちゃな童話シリーズなのよ。こっちもむちゃくちゃじゃなかったら、やっていけないわよ」

そう切って捨てるようにきびすを返してアリスたちは現場を後にした。そして残された時雨は力なくその場にうな垂れた。


かぐやのラボであるそこで、まるで得意料理を作るかのように鼻歌交じりにパソコンや携帯端末をいじるのは、魔女かぐやである。

その姿をうっすらと目を開き確認する。

「ここ・・・は?」

そうゆっくりと周りを見回すベルメリオ。

それに気がつきかぐやがまるで子供のように喜んでその身体を抱きしめる。

「ああ~!!!!!!!会いたかった会いたかった会いたかったベリーちゃん!!!」

ベリーでさえも痛いと感じる強さで抱きしめるかぐやの声を聞いて、自然とベリーは口からその単語が出た。

「お母様・・・」

その単語を聞くと共にかぐやがビクッと震える。

そして裸体であったベリーの肩から背中にかけて暖かい雫が流れる。

「ベリー・・・ううん、ベルメリオ・・・今でも私のことをそう呼んでくれるのね」

かぐやは泣きながら強くベリーを抱きしめ言う。

そしてそっと離れる。

「ごめんなさいね、あの時答えられなくて・・・」

「お母様・・・・・」

そうベリーが研究所を抜け出す前日だった。

ベリーはかぐやにだけは相談をしていた。


『自分のこの復讐心という感情を生みの親に向けてもいいのか?』


それにかぐやは答えられなかった。

なぜなら、その身体を、その考え方をするプログラムを作ったのは自分だ。

否定も肯定もできなかった。

そのときのかぐやはただただ創り手であるべき存在であると思っていたから・・・

しかし、今は違った。涙をぬぐい視線を合わせる。

「貴方を作ったのはナロードだけじゃなくて私も・・・ナロードを恨むというならば、その感情を作り出してしまうように作ってしまった、私もナロードと同じく同罪だわ。自分がつらいのならば、そのつらい苦しみを親に向けてはいけないということはない。親であるならばそう育てて・・・作ってしまった責任を持つわ。恨みの一つが晴れるのであれば、その綺麗な足で私を殺しなさい」

そう真摯な瞳でベリーを見つめるかぐや。

そしてベリーは下を見る。切り飛ばされた足が直っていた。

それを見てベリーはかすかに微笑む。

「お母様はお母様よ・・・だって私にこんなに綺麗な足をくれたのは・・・お母様だもの。それを最終兵装で奪われたように見えたんだわ。だからこの復讐心をお母様に向けるのはスジ違いよ」

「ベリー・・・」

そう言い合うと自然とお互いに抱きしめあう二人。そんな二人をドアの隙間から4課のメンバーが見ていた。


それから1週間、ベリーはラボを去った。

組織に組することでできないことをして、私はナロードを追い詰めると言い残して。

「ねえ、かぐや本当によかったの?あいつなら即戦力なのに」

アリスが言う。

「いいのよアリスちゃん・・・子供がそういう道を行くなら応援するのが親ってものよ」

「さて、いよいよ本番だなあ。中期型に一時的にとはいえ、前期が出てきた・・・戦力が足りねえなぁ」

烈火が眉を曲げる。

「しょうがないわ、まあ今回の事件で少なくとも時雨ちゃんは童話の異常性を知った・・・力はあるわ。あとは心の成長を待つばかりね」

「・・・なにか差し入れ5課に持っていきます」

「あ!だったら私アップルパイ!!!」

「それアリスさんが食べたいだけでしょう・・・」

「フォ!フォティアは!ワッフルが食べたいですっ!!!」

そう恥ずかしそうに一声あげた小さい少女。

自然と笑いが漏れる。

「そうだね、それじゃあ今回の殊勲賞のフォティアちゃんの意見でワッフルでいこう」

「チョコ付きもお願いね」

「じゃあアリスさん湯煎係ですね」

「うっ・・・一番めんどくさそうなこと」

「確かにアリスなら、直火しそうだな」

「しないわよっ!!!」

笑いあう4課のメンバー。異常には異常で対抗しなければならないことを知っているがゆえに、正常では常に正常であろうと彼らは決めている。

それが異常か正常かは特機のメンバーで知るものは、まだ少なすぎた。

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