第6話~マッチ売りの少女~Ⅵ

薄暗い通路に足音が響く。

「いや~さすが魔女のかぐやちゃん、あの短時間に携帯端末だけでレギオンを騙すなんてね」

そう言い笑う地獄巡に心底楽しそうに笑うかぐや。

「うふふ、お褒めの言葉もらうには安い仕事よぉ。だって、レギオンちゃんの中枢メンテ・・・弄ってるの私だもの。お国のお抱えの技術者は私が秋葉原で買ったジャンク品のレギオンちゃんの基盤でも眺めてればいいわぁ」

「可哀想なもんだなそいつらにもメンツってもんがあるだろうに」

「あら烈火、がらくた眺めて弄ってお給料もらえるなんて私いい仕事斡旋してる気でいるんだけれども?」

「ものは言い様だな・・・さて、うちのもう一人のお姫様のご機嫌はいかがかな?」

そう言って着いたのは、部長ですらレギオンですら知らないかぐやが隠し通している秘密の小部屋・・・かぐやのプライベートルームである。

今回の事件、すぐさま部長か防衛省が力ずくで4課を抑えにくると踏んでいた。なぜなら、ナロードの妻であるかぐやと娘のアリスがおり、その二人のいる4課がいち早く初めて出現した童話シリーズ

と接触したのである。普通に考えれば、不自然すぎる。ならばその二人はナロードの居場所を、童話シリーズの情報を知っているのではないかと考えていた。

彼女たちが現れ、常に監視し常に捕らえようとしていたが、この黒髪ロングヘアーの美女かぐやによって根が常に回っていた。まるであらゆる男を篭絡するかのように・・・

これが魔女と呼ばれ、ナロードナヤ・スカースカという稀代の天才科学者に認められし科学者かぐや・スカースカなのである。

3人が自動ドアをくぐるとそこはテニスコートほどの大きさのラボだった。壁一面を大小さまざまなモニターがならび、馬鹿げたドラムセットを髣髴とさせるキーボードとトラックボールにテンキーにジョイステックがひときわ豪華な椅子の前に並んでいる。

右を見れば完全な手術室のような義体専用のラボ一式が並んでいる。そしてその反対・・・培養液の巨大な筒に少年雪助が酸素マスクをして浮かんでいた。

そしてその前には少年をぼーっと眺める少女アリスが椅子に座り眺めていた。

その様子を見たかぐやはツカツカとヒールの音を鳴らしアリスに詰め寄っていく。

「さあさあ!アリスちゃん!反省タイムは終わった!?ママが作ってあげたこの12時間と15分と45秒で貴方のしでかしたことはその蒼いお目目にみえたかしら!?」

いつものかぐやと違うやや怒りのこもった強い語気。その様子を地獄巡と烈火はただ見守る。

「貴方の独断先行を押し通すために体を張って貴方を守った雪助君にちゃんとごめんなさい!っていえる顔してるかしらぁ!!!」

そしてぐいっと力強くアリスを強引に振り向かせるかぐや。

振り向いたアリスは真摯な瞳でかぐやを見る。

「7つ・・・雪助があの赤毛から受けて私を庇って受けた傷・・・そのままぶち込んでやるわ」

「ふさぎこんで泣いてたらどうしようかと思ったわぁ・・・あと雪助君にはキスの一つのご褒美があってもいいとママ思うなぁ?」

「・・・・・考えとくわ」

やや赤面したアリスの顔を見て烈火と地獄巡はにやりと口角を上げた。

そして、この部屋では4課と2課の会議が始まった。

「・・・恋、今回の件シンフォニアに助けられたわ。ありがとう」

「いいんだ。僕の命令じゃなくて彼女の意志だからね。彼女にお礼を言ってくれ」

「・・・・・なら私は貴方たちを助けなくちゃいけないわね」

ふっと力なく笑うアリス。

「それじゃあ、始めましょう今回の議題・・・まずはこれ!」

そうしてモニターに映し出されたのは赤毛のショートカットの少女が炎に包まれている姿だった。

「こいつか雪助とアリスがやったっていう炎を操るっていうトンでもねえ馬鹿げた童話シリーズは」

「事前情報は知っていたけれど、本当にこれが童話シリーズなのかい?外見のディティールに関してはかぐやちゃんが作った烈火ちゃんやシンフォニア、時雨ちゃんにそぐわぬ出来だから認めざる得ないけれど・・・」

「ちゃんじゃねえ、様と呼べ様と」

そう眉間に血管を浮き立たせる烈火。そう機械の義体でありながらもこのような芸当が出来るほぼ人間と変わらない義体を作れるのがかぐやなのである。そのかぐやが作ったボディが童話シリーズで使われている。

「そうこれは童話シリーズの中でも前期、中期、後期の3世代に分けた童話シリーズのうちの後期型・・・『マッチ売りの少女』ね。兄弟たちの中でも気弱な妹だったわね」

「なんだこいつが起動してるところ見てたのか?」

「ええ。プロットの段階では初期からあったんだけれど、この子の開発には私もナロードも手を焼いてね。気弱なところもあって結構好きだったのよこの子」

懐かしい思い出に浸るかのように目を閉じるかぐや。

「あんたが手を焼いたってどういうことよ?性格プログラムが烈火みたいにぶっ飛んでたとか?」

「こちとらこの上なくピュアな生身な脳みそちゃんだぜ」

冗談で返す烈火に地獄巡が鋭い目つきでつぶやいた。

「技術的に・・・でしょ?」

「あら、正解恋くん」

それを聞き目を見張るアリスと烈火。なぜなら彼女の科学者としての異常なまでの才能を間近で見てきたのはこの二人なのである。

「ど、どういうことよかぐや!あんたが技術的にクリアーできないなんて!」

「答えは簡単なのよぉ。このマッチ売りの少女、開発のきっかけは大量暗殺兵器って名目・・・アンドロイドでありながら、兵器を搭載し、あらゆるセンサーやスキャニングすらもクリアーでき、侵入と同時に要人を殺すっていうのよ」

「まさに今回の為に用意されたやつだな・・・しかし、どこが問題だったんだ?」

それに答えたのはかぐやではなく地獄巡だった。

「あらゆるセンサー・・・加重センサーにも、X線にもサーモグラフィーにも兵器ですら、よく義体である傷の下に武器を隠すギミックすらもなくなおかつ、バレても逃走できるか敵を撃退できるスペックを完全に持っているってところだね?」

「んふふ~そうなのよぉ。この子作る時に一番困ったのが人型であらゆるセンサーにおいて人でなくてはならない点だわぁ。それが解決できたのがだいぶ後になったから後期型なのよ。あとこの子最終兵装すら使ってないわね」

「最終兵装?」

アリスが首をかしげる。

「童話シリーズには通常の兵器の他に最終兵装っていう奥の手があるのよ。この子の場合これぐらいの熊のぬいぐるみだったかしら」

そう言いながら両手を20cmほどの長さにして表す。

「やたらでかくねえか?それにんなもん持ってたら最終兵装とやらが一番怪しいだろ?それになんで熊のぬいぐるみがそんな大それた兵器なんだ」

「ちゃんとこれもステルス加工していたわ。最終兵装に関してはナロードは私にも秘密にしていたからわからないわ・・・でも」

「この子の通常兵装はわかるんだね?」

「また正解、恋くん♪」

そうしてモニターの画面が変わる。

「この子は口から空気を供給して体内で酸素を作り出して、体内にある数種類のガスと気流操作をして炎を操り、爆発すらさせる煉獄の名をもつ兵装『ピュルガトワール』」

「弱点は?」

すぐさまアリスが食いつく。

「せっかちねえ、もう。普通の火炎放射器と違うのは、スーパーコンピューターを越えたコンピューターでビルのワンフロアーぐらいの密室の気流ならすぐさま自分の支配下に置ける。もちろん人物や物の配置によってリアルタイムで気流は微細に変わるけれどもそれすらもすぐさま再計算して、新しい気流を生み出すわ」

「じゃあ、その気流を乱せばいいってわけか」

「正解よ烈火。彼女は要人暗殺目的なだけに、室内戦を想定した戦闘しかできないのよ。だから外であればその能力は発揮できない」

そう答えをいうかぐやはモニターをさらに変える。

「それと同時に困ったことに恋くんの愛しい愛しい彼女・・・シンフォニアちゃんが首相の起動キーで防衛省直轄運用状態となってしまったこと。個人的には娘が囚われたも同然だからなんとかしてあげたいのよねぇ・・・」

ちらりとアリスを見るかぐやにアリスは変わらず鋭い目線で先を促す。

「まあ、個人的において置いても、『平和への核兵器』がこれまでの起動の大事故や天災に隠蔽してきた非公認の部長や恋くんの起動キーでなくて日本首相の命令で起動してしまったのが国際的に大問題。なんせ人型核ミサイルのスイッチを国のトップが押しちゃったようなものですもの。押したからには被害なんて度返しの相手を殲滅するまでシンフォニアちゃんを手放さないでしょう、いままで怖がって押し付けもいいところだったのに」

「じゃあ次このマッチが来たら、シンフォニアが確実に動くってわけか」

「ノンノン、それだけじゃないわぁ、部長言ってたでしょう国が国際連合軍の応援要請したって。つまるところ、この大騒動の中、童話シリーズはシンフォニアちゃんで抑えて、その国際連合軍の部隊で私かアリスちゃん、または両方を確保するってシナリオがお偉いさんたちの陳腐な考え」

自らが狙われるかもしれないというのに呆れ顔のかぐや。そこに来て、地獄巡が問う。

「雪助くんの回復は間に合いそうなのかい?」

ぴくっとアリスがその言葉に反応する。

「ん~難しいところね。傷が治っても意識が戻らないといけないしね。それに回復したとしても前線に出れるかどうかは微妙ね、こわ~い兵隊さんが囲っているかもしれないもの」

「うんうん、なるほど、なるほど・・・ここを守らなきゃいけないわけね」

ここにいる全員がわかっていた。反旗を翻すには数が足りないと・・・だが、ここにいる4人は質が違いすぎた。

「私一人で童話シリーズを抑えるわ。烈火はここの防衛、かぐやは私の支援・・・恋は・・・」

すっと早口に言ったアリスが恋のほうを向く。狂喜に満ちた笑顔で彼はアリスを見る。

「シンフォニアを助けに行ってやりなさい。優しすぎる男が女の為に怒ったらどうなるか思い知らせてやりなさいよ」

「ふふふ、てっきり君がシンフォニアを助けるものと思っていたけれど?」

「女の子は好きな男の子に助けられるのが夢であり一番惚れ直すのよ」

そう言って雪助のいる回復槽を見上げるアリス。

「じゃあ、君は惚れた男を傷つけられた女の怒りってのをぶつけてきなよ」

「はなからそのつもりよ」

恋と同じ笑顔で返すアリス。

こうして会議は終わるとともに、この15時間後特機の部隊棟に国際連合軍部隊が突入したのである。

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