第7話~マッチ売りの少女~Ⅶ

一つのビルを旋回する3基のヘリに装甲車が無数に並んでいた。

それを窓ガラスから眺める岩谷。

「ついに来たか・・・ニック、時雨は暴走せんだろうな?」

『ガッハハ!ジジイに言われんでもオヤジとして諭してるぜ。うちら5課はのんびり巡回でもしてるかね』

岩谷の通信に答えたのは野太い男の声。

「・・・・・ワシが言わんでも魔女の根が回ってるんだろ?」

その声にニックと呼ばれた男が数瞬の無言の後答える。

『ノーコメントだ。オレにかぐや姫のお願いに見合うものを献上する力なんかねえよ。それにジジイ、あんたは良くも悪くも国と特機の俺たちのグレーゾーンにいる存在だ。シンフォニアの次にうちの時雨まで持ってかれちゃ困っちまうからな』

そう言って通信が切れる。ヘリの音が響くなか岩谷は無言だった。


『アルファ、降下位置に着きました』

『デルタ了解』

『ベータ突入準備完了』

『よし、任務対象はナロードの妻かぐや・スカースカとアリス・スカースカの確保だ。それ以外の対象は処分して構わん。PCのデータだけはバックアップを取れよ』

『了解』

そう通信が終わるとヘリからは15体のアンドロイドが降下してくる。

そして装甲車からも同じくアンドロイド部隊がビルに突入してくる。

それをモニターで見ていたかぐやは同室にいた二人に声をかける。

「上から15体、下からも同数・・・すこし装備は違うか・・・ごめんねぇ時雨ちゃん今回巻き込んじゃって」

そう呼ばれたのは、黒髪を綺麗にこの時代にしては珍しいかんざしで結い上げ長い三つ編みをゆらす少女時雨がいた。

左右の腰に短めの刀を収めながらも、時雨は悲しそうに回復槽に浮かぶ雪助を見る。

「・・・かぐや、貴方が狙われてるのはわかる、でも雪助くんが本当にそれで殺されるって本当なんですか?」

「疑うのも無理ないと思うけれども、個人的な仲間が残っていたらいつ寝首をかかれるかわからない・・・その前におねんね中に首を掻っ切ろうてお話よ」

それを聞き再度雪助を見る時雨。

「てめぇ的にはアリスに怒りとかねえのかよ?てっきりアリス逃がすのに協力しないと思ったぜ」

烈火が重火器を弄りながら声をかける。

「パパが協力するっていってもしないつもりだったさ・・・アリスから話を直接聞くまでは」

「ははは!なんだ恋敵同士了承ズミったわけか」

「雪助くんがアリスの無茶を通すために・・・守るために嘘の回復回数を教えたんだ。とても雪助くんらしいと思ってね・・・あとは彼女は彼をボクに任せると言ってくれた。愛しているならば、恋人の復讐よりも守るほうが先じゃないか。彼女は今回蚊帳の外だったボクを正面から向かえて彼を任せてくれたんだ、恋敵として彼に対してだけは真摯に向き合い対等でなければならない・・・そこは絶対にブレちゃいけない部分なんだよ烈火さん」

そういう時雨に烈火はポンッと肩に手を置く。

「じゃあたかが国際連合軍の部隊をうちのお姫様がマッチを仕留めるまで・・・この王子様を守ろうじゃねえかなあ3位」

「ランクで呼ばれるのは嫌いなんだ。僕はニック・アンダーソンの娘、時雨・アンダーソンだよ9位」

「ちょっとぉ私もちゃんとまもってよねぇ~?」

そうかぐやがこの短時間で準備した布陣は、30体の連合加盟国の技術者が協力し作り上げた最新鋭の軍事用アンドロイドよりも、強力な対アンドロイド部隊特殊機甲部隊の3位と9位、この布陣だった。


車の中を毛布に包まりながら揺られ彼女は目が覚めた。

「お目覚めかい白雷」

「ニック、あなたにそう呼ばれるのはむず痒い・・・貴方に鍛えられた拳でついた名ですもの」

「ハハハ!おめえはまだ上にいける器だ。自惚れてなきゃ師匠としてはそれでいい・・・さて、山下ぁ?」

そうアリスは5課の厳戒態勢のしかれた都市部を巡回する車の中にいた。

あの会議の後、かぐやは数を揃えて動かすよりも質を選んだ。

その結果頼ったのが5課である。そこにいる最大戦力であり自身が作った義体、時雨の力が必要だった。そして時雨とアリスを入れ替え、アリスをフル装備で5課の隊長の在日アメリカ人ニックに任せたのである。

「隊長レギオンのやつぁ上げてくる情報が、うまい具合にズレてますなあ。国の手柄としてあげるために2課だけで・・・シンフォニアだけで叩くつもりなんでしょう」

「ふむ・・・6班からの情報は?」

「今のところ有力情報は3件・・・・・手口から察するに北区間で開かれる童話シリーズ対策会議じゃないかと」

そういう部下の言葉に考え込むニック。

そんなニックにアリスは疑問をぶつけた。

「ねえニック、なんで今回協力してくれたのよ?貴方たちは部長の命令で巡視じゃなかったの?」

そのアリスの問にニックは、考える顔を変えずに答える。

「雪助のガキがてめえを守ってそれを時雨が許した・・・それでかぐやからの依頼を呑んだだけだ。っていっても腑に落ちねえよな」

すっとアリスに振り向くニック。

「俺も地獄巡のガキもあのジジイも、あの結束力のけの字もねえ3課の連中でさえも、もう政府のお役人に頭きてんだよ」

それを聞き目を点にするアリス。

「特機自体作られたのは、義体犯罪やアンドロイド犯罪に対しての抑止力を政府が欲したからだ。だが過熱する犯罪にいちいち新自衛隊クラスの戦力も、新しい戦力を作る力もなかったところに岩谷のジジイとかぐやが出会った・・・それで作ったのが特機の前身だ。そこから旨い汁だけ吸おうとしてんだ今回のシンフォニアのようにな」

「でもなんでそれで特機全体が頭にきてんのよ?」

「政府の連中はシンフォニアを兵器としてしか見てねえ・・・その危険性がわかってていても、保管するときはうちに押し付けて使うときは独占しようとしてやがる」

「だからなんで・・・?」

変わらぬ疑問にニックは真摯な瞳でアリスを見る。

「かぐやはシンフォニアも時雨もおまえも全員娘って呼んでんだ」

「!?」


『個人的には娘が囚われたも同然だからなんとかしてあげたいのよねぇ・・・』


あれはなにかの比喩か何かかと思っていた。自分ですらあの魔女のことを母と思ったことはない。5歳だけ年上なんて試験管ベビーの世界でもなんの漫画だ、常にそう思っていた。あの冗談発生装置は・・・

「俺も地獄巡のガキもあの3課の連中でさえも、全員あの魔女かぐやに大恩がある以前にその考え方に惹かれてんだ。あいつは人も機械も区別しない・・・だから、あいつはこう考えてるはずだ、シンフォニアも時雨もおまえもナロードに使われてる童話シリーズさえも助けたいと。だからあの正義感の塊の岩谷のジジイと志を共にしている。それが今回相手が日本政府なだけだ」

「童話シリーズを助けたい?」

「おめえも親になりゃあわかるさ、自分が生み出した命がたとえ生身であろうとも機械であろうとも捕まれば助け出す。余裕な態度は常に必死な態度をを隠すための演技に俺たちには見えるけどな」

「かぐや・・・」

毛布に包まりアリスはかぐやへ思いを巡らす。だがその思考はすぐさま現実に引き戻される。

「隊長!3課の倉敷の社長から秘匿通信です!」

「おっ!倉敷のガキ見つけたか?つなげ」

そう言って通信がつながる。

『どうもアンダーソン隊長、機嫌はいかがかな?』

「月の姫様の娘さん運んでてまあ上々ってとこだあ。んでどうだぁ?」

『うちの情報解析室から全支部の情報を集めたら、面白いものを見つけましたよ・・・弁慶さんが先に向かって真偽を確かめてますがおそらく黒の真っ黒、政府のお財布の中身より真っ黒ですよ』

「ふん、お前さんの財布より黒いもんしらねえよ」

『ちゃんと腐ったお国に納税してますよ?あと復興支援募金に毎月1億ほどうちの会社から寄付してる白さですよ・・・・・真っ黒なのは旧池袋の新サンシャイン60ビルの大水族館。そこで政府のお偉いさんが査察に来るっていう情報です』

「ガゼじゃねえか?」

すぐさま切り返すニック。だがそれに落ち着いた口調で答える男。

『もちろん罠です。ですが、嘘ではありませんよ。この間、シンフォニアを神戸のガセネタを掴んで起動まで無理やり持っていってえらい後始末を上にやらせてましたよね?それの情報源、独自のルートで情報を仕入れて2課を動かした外務大臣ですよ。次に来る来賓を招くのに世界随一の天空水族館の査察です。生身で来るんです、エサとしては優先順位高いと思いません?』

ニヤリとニックは口をゆがめる。

「今回ポイントねえのによく動いたな3課」

『そろそろ、政府の犬じゃなくて自由に狩りをしたいとうちらも思ってるんですよ。サーカスで玉に乗って稼ぐより、自ら狩って飯くいたいんですよ。政府より岩谷さんのほうがその点十分に信用足りえる。それでそちらのお姫様の覚悟はお決まりで?』

「愚問よ倉敷社長」

ぐっとグローブをはめ直すアリス。

『キスのお返しがあってもいいと思うんですけれどねえ』

ブーツのロックをはめるアリス。

「おあいにく様、もう先約がいるのよ。それにあなたにはお金のほうがいいんでしょ?」

『ふふふ、やはり君は正真正銘かぐや嬢の娘だ、そっくりだよ』

「最近よく言われるのが悩みの種よ。まあご飯ぐらいは付き合ってあげるわ」

『ぜひスウィートを予約して任務完了を待っているよ』

そうして通信が切れる。

「いいのか飯なんか?あの女食いだぞ?」

「誰が一人で行くっつったのよ。これ終わったらみんなでお邪魔させてもらうわ。なんならニック貴方も来る?」

「ガハハ!!!てめえはやっぱり、かぐやの娘だな・・・よし池袋に向かうぞ!」

そうして車は池袋へ向かって行った。

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