第9話~マッチ売りの少女~Ⅸ

そして池袋に向かう5課の車両はシンフォニアと思われる、高熱源反応を上空に捕らえた。

相手はヘリ、こちらは陸路圧倒的不利だった。だがそんな中「第三次世界大戦の亡霊」の異名をもつこの部隊の隊長ニックは常に冷静だった。

「2班!今すぐバイクを調達しろ力づくで構わん!3班はヘリを捕捉し続けろよ強襲を掛ける。4から6班はアリスを上まで上げる準備をしろ」

『了解!』

大勢の声がそれに答える。

「アリス、お前は先に行け。上のシンフォニアの足止めは俺たちでやる」

「!?でもいくらあなたでも!!!」

「ああ、突入は免れん。落とすのは簡単だが、今あいつは無理やり動いてるんだろ?その場でキノコ雲なんてまっぴら御免だからな・・・だからあとはおまえたち親子に任せる」

ニックは真面目な瞳でアリスを見る。

「・・・時雨を泣かせないでよ」

「あいつが嫁に行くまで死んでたまるか。行け!!!」

車が止まるとそこには1台のバイクが止まっていた。

クラッチを握り、エンジンをかけ、少しずつエンジンをフルスロットルに持っていく。エンジンの回転数が8000を越えたところでアリスはクラッチを繋げる。一気に加速するバイク。速度は60から80、100と一気に上がっていく。

前の車を網の目を縫うように避けていく。

そして新サンシャイン60ビルが見えてくる。そして目の前には既に展開されたニックの斑。

「アリスさんこれを」

そう言ってビルの上に固定されたワイヤーにリュックのようなものが吊るされている。

「・・・・・え?これ背負うの?」

「うちで独自に使っているロケットブースター搭載の強襲用バックパックです」

「いや、そう説明されても」

冷や汗をかくアリスにアリスにそのバックパックを装着していく隊員。

「すこし勢いが強いので受身はしっかりとってください、あと首に力入れといてください、普通に鞭打ちになりますから」

「いや、だから・・・」

「ご安心を5秒後には60階に着きますから」

「って・・・」

そして点火されるブースター。

「ちょぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

まるで逆バンジーを彷彿とさせるかのようにものすごい勢いで競りあがっていくアリス。

そしてガラスに激突すると共に世界有数の空中水族館に到着するアリス。

「し、死ぬかと思った・・・っと・・・修羅場はこれからね」

そう目の前を見ると情報どおり外務大臣と護衛、そしてアリスの焦点はその後ろにひっそりとたたずむ赤髪の少女。

「な、なんだお前は!?」

大臣の護衛がすぐさま銃を構えると同時にアリスは『フルオート』を使い全身の筋肉を全速力を走るためだけに動かす。

「邪魔よ」

両手に紫電を纏い護衛と大臣を電気ショックで気絶させるとそのまま赤毛の少女に向かう。

「『セミオート』」

走る筋肉はそのままにアリスはボクサーのように両手を構え突っ切る。

「あはは!!パパの言うとおりだった!!やっぱりパパはすごいよ!でもねこの女の人殺したらもっとパパの近くに逝けるんだよね?うん・・・うん、わかったああ~パパ!パパ!!すぐ行くよ!すぐに逝くよぉ!!!すぐにイクからねぇぇぇえぇ!!!!!」

そういいマッチ売りの少女は幾多もの火の玉を生み出し、アリスに向かい放っていくと共に腰にぶら下げた熊のぬいぐるみを手に取る。

そして熊の頭から出現する1メートルほどの炎の刃。

『バーナーのソード?あれは食らっちゃまずいわね』

そう初見で見極めるとアリスは火の玉を最小限の動きで避けていく。

だが、避けたそばからまた旋回してくる火の玉。

「これでどう!!!」

アリスの周りのガスの濃度が高くなる、それをアリスの嗅覚は逃さない。さらに走るギアを1段上げ爆発を避ける。

「っ!?」

それに驚くマッチ売りの少女。

『今までのが全力でなかった?なら!』

そう思い今度は進行線上に爆発を起こすも爆発のあとにアリスは突っ切ってくる。

『!?予測して減速!?・・・気流が読まれてる!!!』

そうアリスは相手が気流使いと判断した瞬間、進行線上の爆破や側面から誘導される火の玉などを自らの触覚を頼りに気流を肌で感じ取り、攻撃タイミングを読んでいた。

そしてアリスも炎の刃を持った少女も白兵戦の間合いに入る。

そして揺らめく赤毛の少女。

「蜃気楼だかなんだかしらないけれど、この間合いならばすべて打つ!!!」

アリスの瞬速の拳の嵐が打ち込まれると同時に、炎の刃が舞う。

アリスは刃のすべてを避けながらも、的確に相手を打っていく、たとえそれが幻惑だとしてもすべて穿つ。そしてその拳になにか当たった感触をアリスは感じとった。

「捕った!!!」

そしてアリスは『フルオート』をかける。

アリスのフルオートはある一定の筋肉運動を強制的な電気信号を流し込むことで、神経と筋肉が行える反応を極限までに行っていることであるが、その恐ろしさは俊足の速度で走り続けることでもなんでもない、アリスの場合相手へのワンタッチさえあれば、そこからまるで空手の型のような一定運動を問答無用で瞬速の勢いで行える点にある。

それはさながら一撃必殺。

左手に感じた感触を頼りに反射的にアリスの紫電纏ったエクレールの右フックが少女の眉間に打ち込まれる。

「うぐっ!?」

そしてそのまま左手で少女の胸倉をつかむと共に右の膝蹴りが少女の左わき腹に突き刺さり、そのまま左手を取るとアリスは地を蹴り空中十字固めをキメるとともにそのまま少女を地面に叩きつける。

「うあぁぁぁぁぁ!!!!痛い!痛いよ!!!」

のた打ち回る少女。

そのまま左手を破壊しようかと思ったが同時に違和感をアリスは感じた。

『痛がってる?痛覚神経の設定がある?』

いくら人に限りなく近いとはいえ兵器ならば痛覚などないほうが兵器としての運用価値がある。

それに先ほどと声音が明らかに変わっていた。腕を締め上げるごとに叫び声は強くなっていく。

「どういうつもり!演技なんてことしても無駄よ!」

「ひぎぃぃぃ!!!痛い!痛いよお!!!」

少女の悲鳴は変わらない。童話シリーズがいかに人に近い兵器としていても、痛覚が存在するというのは兵器として致命的ではないだろうか?最初はそれを利用した泣きを見せるという戦略のためかと思ったが、スポーツならまだしも戦場では関係がない・・・もし、もし母と認めたあのかぐやが娘と呼ぶアンドロイド、童話シリーズならば。この少女を兵器として創るはずがなかったのではないだろうか?そこでアリスは賭けに出た。この少女をこの間合いで破壊するのは容易い、だがこれから来る自分が知る限り最強の味方を無力化するには、この少女の力が必要だった。

アリスは十字固めからそのまま腕を背中に回し少女をうつ伏せで押さえ込む。

「うぐっ!」

「答えなさい!貴方はナロードの命令で動いているの!?」

その言葉に少女は困惑した表情で周りをみる。

「答えなさい!!」

アリスの叫びにビクッと震える体。

『・・・反応まで人にそっくり・・・かぐや、あんたの技術信じるわよ』

アリスは賭けにでた。童話シリーズは外見上人だ。その上この少女はあのかぐやでさえ頭を悩ませた、限りなく人間に近いという。3世代あるというシリーズだが、人に近い兵器というのがコンセプトならば、この後期型のマッチ売りの少女は人の心理学などからくる嘘を見破る技術が通用するのではないかと踏んだ。もちろん機械的にそれを操ることができるというのがわかっていたとしていても・・・

「こ、ここはどこですか?っいた!」

「・・・新サンシャイン60ビルのでかい水族館よ。あなた記憶がないの?」

「だってフォティアはさっきまでパパと遊ぼうとして、お使いに・・・あれ?なにしようとしてきたんだっけ?」

少女の顔からは困惑と動揺の様子しか伺えない。

「そのパパはどこにいるの?」

「パパは・・・あれ?パパ?そんな人私にいるんですか?あれ!?あれ!?なんでなんでこんなところに!?」

『・・・・・嘘をついているようには見えない。さっきのエクレールでどこか回路を焼ききった?いやそれなら人型の大きさなら言語中枢もふっ飛ばす威力なはず・・・なら』

「私はアリスよ。フォティアとか言ったわね?貴方の謎に答えられるお母さんに会わせてあげるわ。けれど条件がある」

「お、お母さん?それに条件て?」

「貴方の力でこのフロアーにガンガン冷房ぶっとばしてほしいのよ」

困惑していた少女だが、アリスを見て答える。

「私にお母さんがいるんですか?」

「貴方の身体を作り、貴方の身を心配し、今でも貴方を助けようとしている大馬鹿過保護な母親がね」

それを聞いて少女は唇をかみ締めた。

「・・・離してください。約束してくださいその人に会わせて下さい」

「貴方の働きによるわ。それによって生か死かに分かれるわ。私も貴方もね」

そう言って拘束を解いたアリスは数瞬構えたが、挙動表情すべてがまるで別人だった。まるで憑き物が取れたかのように。

「ここにアツアツのやつがくるわ、そいつを問答無用で冷やすのよ」

その言葉にうなづく少女。

アリスとて信じられはしなかったが、かぐやからの連絡がない。つまり下手をすると外でシンフォニアを止められなかった可能性が高い。最悪、自分の力で止めようとも思っていたが利用できるものがあるに越したことはない。

それに外が失敗したのなら、ここで止めなければ少女を逃しても倒しても同じ爆発で死ぬ。

そう、彼女は名だけで抑止力とならなければならない。

彼女はかぐやが創りし、ナロードへの最大の抑止力にして現代日本において禁忌の存在・・・第4の核に最も近い兵器、シンフォニア。

だが、アリスは知っていた。ニックに聞くまでかぐやは、自分の作ったアンドロイドですら娘と呼ぶ覚悟をかぐやは持っている。だがそんな娘をもし奪われたら・・・

アリスですら知らないかぐやの本気。ぞくりと背筋が震えた瞬間、その通信は入ってきた。

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