第24話~茨姫~Ⅴ
そうして2課、4課、5課の合同部隊が新潟に向けて、いくつもの車を走らせていた。
「どうだ首尾は?」
「レギオンからの情報どおり、新自衛隊が網張ってます・・・でもまあ、うまいことやってますよあの気まぐれものにしては」
そういう部下にニックはそのまま進むことを伝える。
そして後ろを向くとかぐやが教員のようにいつもはかけない伊達メガネまでして、ビシッと指揮棒を持っている。
「はぁ~い!それじゃあ今回の作戦概要説明するわよお」
そう言われて投影されたのはなにかのゆるキャラのようにデフォルメされた顔文字に「激おこぷんぷんまる」という文字を発光させているレギオンがいた。
「めずらしいねカレが感情を露にするなんて」
「そうねえ恋くん。でもそれだけカレも真剣にやってくれてるのよ・・・だから今回私も前線に出るわ」
それにどよめく一同。
「おいおい、いくらなんでも雪助とフォティアだけじゃ守りきれねえだろ?」
眠姫がいう。
「ええ、遠隔侵入はレギオンちゃんに任せるの。でも煤原ならば確実に物理的に侵入しないと開けられないドアや経路があるはずよ。私は携帯端末だから処理が落ちるから、レギオンちゃんに送って解析したのを送ってもらう・・・今回はもしものためにカレの群体にも動いてもらうわ」
それを聞き黙る一堂。
「作戦は簡単明瞭。ぶちょーさんが作ってくれた口実で向かってくるものはなんでも破壊よ。今現在、防衛島と本島のわずか2キロの海峡にすでに新自衛隊が、雁首揃えて待っているわ。ここまで戦闘は回避できてきたけれど、この最終防衛ラインは無理ね」
「自衛隊の戦力は?」
恋がつまらなそうに言う。
「レギオンちゃんからの情報だと、イージス艦が2隻に電磁砲搭載駆逐艦が4隻、陸自の戦闘ヘリが6基に戦車が・・・ってもういぃ?」
げんなりした顔のかぐや。それに対して恋はさらに続ける。
「対人のアンドロイド率は?」
「聞くと思ったわ。防衛省の無能は私とレギオンちゃんによるハッキングを警戒して今回すべての兵器にAIは搭載されていないわ。もちろん兵士も全身義体に部分義体・・・どう?」
にんまりと不敵に笑うかぐやに同じく不敵に笑う恋。
「全員ハメてやるよ。提案がある、彼らも馬鹿じゃない。シンフォニアの姿を見れば表向き特機最強の彼女が出てきたとなれば、総攻撃をするだろう。この自衛隊は2課の僕とシンフォニアが受け持つ。ここで派手に暴れれば、あの殺しそこねた『豚ども』が出てくるだろう」
「んふふ、そうしてもらうと助かるわ。では、その隙に、4課と5課が上陸、敵戦力を引きずり出す・・・ここで5課に暴れてもらうわ」
「はいっ!」
しっかりと答えたのは時雨だった。
「そして島の防衛塔に4課が侵入する。もちろんその前に前期が来たならば、眠姫の出番。あとは私と雪助君とフォティアでアリスちゃんを奪還する」
そう説明が終わると同時に、部隊は恋とシンフォニアを乗せた車と他の部隊に分かれた。
見つめる先には日本海。冬が差し迫ったこの時期の海風は身にしみる。
そして少女をそっと後ろから抱きしめる。
「寒いわね・・・」
「ああ、凍えそうだ・・・」
「ここも戦争がある前はきっと違う景色だったのかしら・・・」
「景色はそんなに変わらないかな?ただ、変わったのは目の前のあいつらを送ってくる政治家の性感帯じゃないか?」
その表現にくすりと笑う少女。
「下品よ恋・・・」
「嫌いかい?」
「貴方との営みなら下品でもなんでもないわ・・・見せ付けてやりましょう」
「ふふふ、存外乗り気じゃないかシンフォニア」
「そんな身体にしたのは貴方よ・・・さあ乱れましょう、さあ触ってもっと深く!」
眼前に戦車と戦艦を目の前にして、二人は淫靡なまでに乱れ狂う。舌をからませ、胸をもみしだきお互いの性感帯をまさぐりあう。
そして放たれるレールガンとミサイルと砲弾の嵐。
だがしかしそこには、やや服の乱れ恍惚とした表情でプラズマを纏うウェーブ髪を揺らすシンフォニアが恋の前に無傷で立っていた。
それを目にした誰もが目を疑った。
だが恋だけは同じく恍惚とした表情で、彼女の心情を読み取っていた。
それは怒り。
この上なく愛溢れる営みを邪魔されたという怒りと同胞アリスを助ける邪魔をしているという怒り・・・そして・・・
「攻撃するのが早すぎだぜ無能ども。シンフォニアも僕もまだイケなかったんだぜ?人間もアンドロイドも性欲の寸止めって一番腹立つだろ?それも知らないのか?」
シンフォニアが手を大きくすっと振る。
そして8つのプラズマが空中に現れる。
「これは僕らの怒りの凱歌だ。存分に歌えシンフォニア」
その言葉にゆっくりとうなづくとシンフォニアが腕を振る。
「『デザストル』」
そう言い放たれる閃光にイージス艦、駆逐艦がまるでチーズのように溶ける。
ヘリなど横なぎにされたその閃光によって形すら残っていない。
そして爆炎の柱が海上に建つ。
荷電粒子砲
一般名はそう呼ばれているシンフォニアしかもつことを許されない『天災』の名をもつデザストルという、マイクロ荷電粒子砲。
アニメなどで、ビーム砲などで描写されるそれは、理論上可能な兵器としてフィクションの世界でよく使われた。
原理としては荷電粒子である電子、陽子、重イオンなどを亜音速まで加速させて打ち出す兵器であり、地球の磁場の影響を受けるため直線に飛ばないとされてきた。
だが問題はそこではない。これを実現するには、最低10ギガワットという膨大なエネルギーを必要とする点である。
あのレールガンをもつ時雨でさえ、特殊バッテリーを搭載しているとはいえ、打てる回数は6発とリボルバー拳銃と同じぐらい当たれば強力、外せば大ピンチの前時代的なリスクの高い兵器なのであるが・・・シンフォニアは「平和への核兵器」である。かぐやによって人型までマイクロ化された核融合炉を持つ彼女に弾数制限はほとんどない。まずメジャーリーグに行っても最後までMAX165キロを維持し続ける弾を投げれる。
「うふふふふ・・・・・やっぱり私もかぐやの娘ね。かぐやに似て、愛に飢えているし、邪魔されれば容赦がないし見境がない」
「でもそこが美しい」
またしても彼女を後ろから抱きそっとキスをする恋。
「やめて、恋・・・我慢できなくなっちゃう」
「ふふふ、僕も滾ってきたよ」
「今夜・・・寝かせないわ」
「今夜だけで済ますと思うかい?」
「んふ、ちょっと待ってて・・・うるさい童貞ども黙らせてくるわ」
そうバサッと髪を揺らめかし、戦車部隊に向かっていく少女。
特機ランキング2位
『平和への核兵器』 AWD-S・・・アトミックウェポンドール・シンフォニア
現代人類のフィクションの具現体にして、歩く愛を求め最も知る核兵器
「さあ!恋が我慢できないって言ってるの!!!私たちの愛を否定する者、差別するもの、邪魔するもの、それらすべてに私たちの真の愛を!AからCまでなんて言わないわ!!AからZまで1から全部見せ占めて肯定するまで私は恋とまぐわってみせるわ!!!」
愛という感情を最も知ったアンドロイドが持つは、愛情というには生ぬるく、狂愛というには当たり前すぎて、言葉に表現するにはどの文豪ですら形容できない・・・きっと彼女が言うようにその、営みの姿こそが彼女の言う愛なのだろう。
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