第15話~赤い靴~Ⅳ

「・・・烈火さんはなんであんな魔女と一緒にいるの?考えられないよ」

エレベーターに乗りながら、隣に立つ烈火に問う。時雨が一番聞きたいことであり、相手だった。

なにしろかぐやと一番長い付き合いは烈火であるとニックから聞いていた。

「そうだなあ~まあ面白いからかぁ?」

「ふざけないでください」

真面目に切り捨てる時雨。やや怒気のこもった声であった。

「・・・まあ、お前と一緒だよ。あいつは俺の恩人の恩人、大恩人だ」

「命を賭けるほど?」

「あいつは俺に普通の人じゃあできねえ2週目の人生ゲームをくれた。話すの嫌なんだがよ、1週目がもうクソゲー中の駄作でな」

「・・・・・・・」

「だから2週目はあいつとパーティー組むことにした。無理ゲーだし、ギリッギリだしスリルあるしな」

「・・・・・・・」

「でもよ、あいつの泣くとこ見たかねえんだ」

「え?」

そこで烈火を見上げる時雨。烈火は両手で頭を抱え、前を向いたままだ。そのサングラスの先は見えない。

「あいつと一緒にアリスを助けたとき、あいつと会って初めてあいつが泣くとこみたんだ・・・自分の腹から出てきたわけでもねえ試験管生まれなのによ」

「そ、それはアリスが実の娘だからじゃ・・・」

「最初の童話シリーズのマッチ売りの少女、フォティアを発見してあいつは頭を抱えてた。本当の目的はナロードと再会するため。でもそのためには童話が出てくる、それに対抗できうるのは・・・そう考えて結成されたのが特機だ。正直、おめえもわかったと思うが童話シリーズの強さに敵うのは特機でも単騎ならランキングで3位ぐらいまでだろう」

そう3位・・・自分だ。言われてドキンとしてしまった。

「アリスがフォティアをやれたのは、アリスがランキングでは計れねえものもってるからかもしれねえが・・・あいつとフォティアが戦うことになると知ってあいつは泣いていたよ」

「そん・・・な・・・・・」

「シンフォニアがハッキングされて奪われてたときも死に物狂いだったし、お前がさっき飛び出したときもあいつ・・・泣いてたよ」

信じられなかった、ただの鉄の塊にそこまでの情が沸くものなのか?その疑問をすぐさま烈火は汲み取る。

「あいつはナロードと同じなのさ。自分の作ったものに自分にない人間性を求めるナロードに愛情を学ぼうとするかぐや・・・どっちもすんげえ不器用なのさ」

「・・・烈火さん、もしかして貴方はナロードと会ったことが・・・」

そう言いかけたところで5課のフロアに到着するエレベーター。ドアが開くを共にとんっと時雨の胸を押す烈火。

「残念ながら『烈火』になってからは会ってねえなっ!」

時雨がすぐさまドアに手をかけようとしたところで、ピタリと閉まるドア。

「・・・・・3位まで・・・か」

特機ランキングの2位はシンフォニアだ。あの「平和への核兵器」たる現人類の作り出せるであろう最強兵器である彼女を上回る強さをもつ1位という存在。

特機創設以来、ランク付けされてから一度も姿を現さないどの課に所属するのかもわからない謎の存在。時雨はなにか引っかかるものがあった。

「・・・・・3位までと言われたからには、この任務やりきったら教えてもらうよ9位」

時雨はすぐさま訓練室に走っていった。


そして作戦当日。4課のアリスと雪助とフォティアは各種センサーをクリアーし、潜入に成功していた。そして、着替えの段階であるのだが・・・

「なんで男女一緒なんでしょうね?」

「し、知らないわよ!こっち向かないでよね!」

「それって向いてっていうフリって言うんですよね?」

「・・・誰から聞いたのフォーティ?」

「烈火さんです!」

「殺すわあのハゲ」

そうこの3人カーテンに区切られた一部屋に入れられることとなったのである。

本当は給仕である雪助は別なのであるが、何故か同じ部屋に押し込まれたのである。これにはかぐやのニクい演出を含んだ、意地悪があったりなかったりするのだが・・・

「わっ!お姉ちゃんこんな紐どこにつけるんですか!?」

「ひっ!紐!?」

「バカ!フォーティ声でかい!」

がさがさとせわしなく動くカーテン越しに雪助が鼻を押さえる。

「な、なんですか紐って!」

「し、下着よ!普通のだとラインが出ちゃうのよ」

「Tばっくって言うんですよねこれ」

ぶふっとカーテン越しになにかが聞こえる。

「フォーティ、次なにか言う前に私にちゃんと言うのよ。でないと雪助がたぶん死ぬわ」

「?は~い」

そう準備は進められていた。

一方の会場ビルの外では5課がひっそりと警戒網を張り巡らせていた。そんな中、疑念晴れぬ時雨はすこし下を向き、こつこつと刀の鞘を叩いている。

「・・・任務前にしてはなってねえ顔してるな時雨」

そう声をかけられて振り向く時雨。

「パパ・・・」

ニックだった。

「別に剣道の心意気とかじゃねえ、敵を殲滅できればどんな感情をもってても構わない。でも、疑念や疑問は死に直結する、お前もわかっているんだろ?」

「わかってる・・・だけど、なんなんだろうこの感じ・・・4課は危険だよ。かぐや抜きにしても、あの異常なまでのナロードや童話シリーズに対する執着が!」

それを聞きニックは目を細める。

「お前にも時期にわかる。あいつらにはあいつらなりの理由があるのさ」

「理由?」

「今は戦いに集中しろ。お前はあいつらの物語に入っていける力がある、その前に死ぬのはごめんだろ?」

その言葉に時雨は無言にならざる得なかった。

そしてそのビルの1区画外のビルに場所取りしていた烈火はスコープの調整をしながら、通信が入っているのに気がつき、オンにする。

「なんでございましょうか、かぐや姫さま?」

相手がしゃべる前に烈火は口をついた。

『・・・・・』

相手は無言だった。

「なんも用ねえなら切る・・・」

『ベリーも時雨ちゃんも私を許すかしら?』

やや暗い声、だがはっきりとした声だった。

それを聞きしばし無言になる烈火。

『・・・あの子達のことを娘と呼び、母という自分の存在意義をこの世に留まらせるためだけに生きている私に、我が子同士に殺し合いをさせている私は・・・本当に母なのかしら・・・』

独白にも近い言葉、今までのかぐやの声ではないかのような、余裕のない切迫感を含んだ声。

それに烈火は真面目に答える。

「・・・人間だったら誰にでも、どこにでも存在意義を求める、お前は間違っちゃいねえ。その在り方が『母』というのに決めたんならそれを貫け。世の中には金の問題もなにもなく子の存在が自分の存在意義を危ぶめるからって、殺しちまう親がいる・・・限り無く今のお前に近いが、お前は違う・・・絶対に違う・・・これから子供同士が殺し合い始めようとしている中で基地の中で無力感に苛まれて泣き崩れているお前は絶対にちげえ。涙の数だけ愛がある。泣いた数だけ懺悔した数がある・・・お前はもう十分にこれまでに泣いてきてんだ、もう泣くんじゃねえよかぐや」

『れっかぁ・・・・・』

ぐずったような声ですすり泣く声が烈火のマイクに響く。

「・・・・・こういうときぐらい『烈火』じゃないほうで呼んでくれたって、アタシは許してやるってのによぉ・・・」

ぽつりと烈火はつぶやきながら、狙撃ライフルの調整を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る