第13話 ゾッとするハガキ
あるところに春日(かすが)という男がいた。
小太りでチンピラのような風貌。
春日は、元ヤクザで、組長を怒らせて殺されそうになり逃亡し、あるボロアパートに潜んでいた。
その春日のもとに、ある一通のハガキが届いた。
相手の住所や名前もないハガキ。送り先は確かにこのアパートのこの部屋番号。
おかしな事に、裏面にはアルファベットと番号だけが記載されていた。
『K ①』
真中に『K』と大きく書かれ、右下には小さく『①』と書かれていた。
春日は、何かのイタズラかと思い、最初は気にせずにゴミ箱に捨てた。
ところが、次の日から毎日その奇妙なハガキが届く事になる。
既に3通。
春日はさすがに気味が悪くなった。
俺の所にハガキが届く事自体おかしいのに、さらなる謎の文字。
まさかヤクザの連中が、俺の居場所を突き止めたのかもしれない。
つかまったら殺される……春日はゾッとした。
それから春日は、ボロアパートの郵便受けに、誰がハガキを入れるのかを見張った。
ボロアパートの階段をカツン、カツンと上ってくる足音は、自分の部屋の前で止まった。
「コトン」
ドアの裏側にある郵便受けの前で、待機していた春日の目の前に投函されたハガキ。
春日はゾッとして冷や汗を流した。
4通目。またもや謎のアルファベットと数字が。
春日はドアをそっと開け、ハガキを入れた人物を確認した。すると……
それは、いつもの配達員だった。
春日はあわてて、その配達員を呼び止めた。
その配達員は、小太りな風貌で、ニッコリしながらツヤの良い顔を光らせた。
「ああ、お客さん、どうも!」
愛想の良い返事だった。それもそのはず。
春日は、ヤクザに隠れている身なので、日用品などはすべてネットショップで購入していた。なので、その配達員が届けにくるのはいつものことで顔馴染みだった。
春日はハガキについて詳しく訊ねた。
ハガキは、送り主の住所が書かれてなくても送れるとの事だった。
ということは、ここの住所を知っている者が出したケースと、直接にアパートのポストに入れたケースのふたつが考えられる。そして、今、配達員が持ってきたということは、ここの住所を知っている者が送ったと思われる。もし、直接入れたのなら、アパートの住所を書く必要はないからだ。
ということは。俺の住所を知っている者……ネットショップ以外考えられない。
もし、ヤクザが俺の住所を知っているなら、真っ先に踏み込んで来るだろう。
ならば大丈夫だ。これはおそらく、ネットショップからのサプライズか何かに違いない。
ハガキを集めると、抽選で景品か何かが当たるのではないか?
それが、アルファベットと数字の組み合わせなのではないか?
春日は少し安心し、配達員にお礼を言った。
配達員は、ニッコリと頬を赤らめ笑い、手を握って帰っていった。
最初のハガキが届いてから11日目。すでに11通のハガキが届いた。
春日は、まだ当選発表ではないのかな~と思いながら、何となくそのハガキを並べた。
すると!
そこには驚くべき秘密が隠されていた。
ハガキを番号順に並べてみると……
『K A S U G A I T A N A』
KASUGA ITANA……
かすが いたな!
春日は、驚き飛び上がった。
まずい! この場所はヤクザにばれている!
それしか、解釈のしようがない。
すでに、このボロアパートは、ヤクザに見張られ包囲されているのだろう。
だから、俺の所に毎日こんなハガキを出して、恐怖を与えようとしたのだろう。
ああ、俺はそれに気付かずに、ノンビリとしていた。なんてバカなんだろう。
あわてて逃げようとしても、もう遅い。俺は死を覚悟した。
その時、アパートの階段をカツン、カツンと上ってくる足音。
もうダメだ! ヤクザがここにやってくる! 俺はもうおしまいだ!
俺はゾッとして全身が凍りつくような恐怖に噛み付かれた。
すると。
『ピンポーン!』
春日は、おそるおそるドアを開ける。
どちらにしろ、俺がドアを開けなくても、小窓や隣の窓からやってくるに違いない。
観念するしかなかった。
しかし。
そこには、いつもの配達員が立っていて、一枚のハガキを渡してきた。
その紅潮した笑顔を見ると、少しばかりホッとした。
ああ、そういえば、この配達員には世話になったな。
このアパートに隠れ住み、誰とも会話しない中、この配達員は笑顔で話してくれたっけ。
そう思うと、唯一の知り合いであり話し相手であった。
春日は、この先死ぬのだと思うと涙があふれ、配達員に感謝して手を強く握った。
配達員はいつも通りの笑顔で顔を赤らめていた。
「お返事待ってます!」
そう言うと、走り去っていった。
「……???」
春日は、何のことかわからない。
どうせ、このハガキには、最後の死刑宣告のような内容が書かれているに決まっている。
そうか。ひょっとしたら、あの配達員はヤクザに脅されて、毎日ハガキを出すのを強要されていたのかもしれない。だから、返事を待っているとは、ヤクザにメッセージを頼まれたのだろう。
推測するに、ヤクザも俺に直接手を下すよりも、自殺を選択しろという意味かもしれない。
俺を拉致して下手に騒がれるよりも、勝手に死んでくれたほうが助かるだろう。
わかった。それならば、俺は自らの死を選ぼう。
春日は決心した。そして、最後のハガキを見た。
しかし、そこには何のメッセージもなく、変な数字が並べられているだけだった。
『9 , 10 , 2 , 8 , 6 , 5 , 11 , 3 , 4 , 1 , 7』
「……???」
K A S U G A I T A N A
10 01 08 09 06 03 11 04 05 02 07
これを番号順に並べてみて、春日は声も出せなかった。
A N A T A G A S U K I
あなたがすき
春日はゾッとした。
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