第7話 願望

マーフィーの法則というものがある。


男は、この法則にたいへん興味があった。

(注:ジョセフ・マーフィーの方)


そして、試しに願望を実現させるために、強く思い込もうとした。


しかし、何を願望したらよいのか決まらない。


仕事は順調で、貯金もあるし、持ち家もある。

妻は若くて美人だし、子供も男の子と女の子がいてとても可愛い。

趣味のオープンカーに車庫もあるし、スポーツも得意だ。

デブでもないし、髪の毛も薄くないし、病気もないし、ストレスもない。

友達も多くて人望も厚いし、異性にもモテる。


う~ん。困ったなぁ。これでは、現実にしたい強い願望がないではないか。


男は悩んだ。悩み悩んで悩まれた。


しかし、いくら考えても、現実にしたい願望は、ひとつも思い浮かばなかった。


男は、ぼろアパートの六畳一間で、ひとりカップラーメンをすすりながら考えた。


男の願望は、『満たされた生活で特に願望のない自分』、を願望していた。

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