第22話 できる男
こんな突拍子も無い話を誰が信じるのだろうか?
でもこれは実再に起きた現実の話。
それを、今、これから話します。
私はとある居酒屋で、その『男』と出会った。
彼の年齢は、20代にも見えるような井出達と顔立ちでありながら、40代のような落ち着きと風格を兼ね備えていた。だから、実際の年齢はわからない。
でも、そんなことはどうでもいい。
これは。私が実際に経験した記憶を頼りにした話であり、創作や空想ではない事をお断りしておく。
まずは、些細な出来事だった。
居酒屋のカウンターで隣に座った、その『男』。
優しい風貌でありながらも、厳格な口調で淡々と話す『男』に、私は関心を持ち始めた。
刺激の無い毎日でありながら安定した生活と、
安定は無いが刺激のある生活のどちらを望むのか?
そんな、ありふれた押し問答を『男』に諭され、これまた真剣に悩む自分がいた。
そんな折、酔っ払いのガラの悪そうな二人組みの男が絡んできた。
いかにも頭の悪そうな風貌と口調。ワザと見せて誇張してくるタトゥー。
誰もが煙たがるような相手ではあったが、『男』は微塵も動じない。
それどころか、二人組みの男と話し合いをはじめ、すぐに意気投合。
二人組み男の殺気は消え、『男』を『さん』付けで話す始末。
この『男』は一体どうゆうカリスマを持った人間なのだろうか?
たった数分で、相手の敵対心を消し、自分を敬ませてしまう。
できる男だ。
ここでいう、できる男というのは、仕事が出来たり、異性にモテたり、金を持ってひけらかしている人間とは訳が違う。
人間本能で、敬いたくなるようなカリスマの持ち主。
心や精神の安定を提供してくれる存在。
私も、そろそろ50歳になろうとしているが、そんな崇高な人間には出会ったことなど無い。
それほど、この『男』というのは、希有で稀で珍しく誉高い存在であるのは間違いない。
さて、この『男』は、この先どんな尊厳を見せてくれるのだろうかと期待せずにはいられなかった。
すると、突然。居酒屋の厨房から、『ボンッ!』といいう爆発音が響いた。
そして、轟音とともに炎が燃え広がり、あたりはパニックに陥った。
しかし、そこで『男』がとった行動とは、炎に立ち向かい、両手を大きく広げ、その炎を一瞬にして消し去ってしまった。
私は驚いて声も出せなかった。この『男』のとった行動は、トリックやマジシャンのようなタネがある訳でもなく、まるで魔法のようであった。
どうやって炎を消したのか? などと言うことはどうでもよい。
まさに、できる『男』というのは、この『男』の事を言うのだなと深く関心した。
この『男』は何でも出来るスーパーマンなのだ。
私の常識など介入する隙などない、できる『男』なのだ。
すると、次には突然に、轟音と共に地響きが鳴り、大地震が起こり、地面が裂け、建物が崩壊した。
当然、私はパニックになって外に飛び出し、ただただ頭を抱えて神に祈るしかなかった。時間にして、わずか5分。そのわずかな時間で、この国は簡単に崩壊した。
ビルは崩れ、瓦礫の山と化し、人々は怪我や負傷で目の前で死に絶えていった。
二次災害の火災でさらなる死体の山が出来ていった。あたりは爆発が鳴り響いていった。
わずかな時間。そう、数時間前までは何事もない当たり前の世界が、今では地獄絵図と化していたのだ。
私は、運よく生き延びていた。
この『男』とともに行動したことによって、何とか一命を取り留めていたに過ぎなかった。
そして、更なる悪い事は起きるものである。
私が頭上を見上げると、そこには、真っ赤に燃えるような輝きを持った小惑星が、今にも地球に激突しそうになっていた。それは、誰の目にも明らかで、初めて見る恐ろしくも壊滅的な状態でありながら、それがどうしようもない状況だということはわかりきっていた。
「終わった……」
誰もがそう思ったその瞬間、その『男』は両手を天に向かって広げ、なにやら呟いた。
その瞬間、その『男』の両手からは、光るエネルギー……そう、みなぎる力が宿っているのを私は感じた。そして、そのエネルギーを手のひらを全面に押し出すような感じで放出する体制に構えていた。
それはまるで、何かのアニメのようであり、7つの玉を集めるとどんな願いも叶うような主人公の必殺技に似ていたかもしれない。
「えーっと……たしか、あの技は……」
そう思った瞬間、『男』は両腕を全面に押し出して叫んでいた。
「波ーーーーッ!!!」
私にはそう聞こえたのだ。そして、そのエネルギー波は、迫りくる小惑星めがけ発射され、見事に破壊したのだった。だが、残念ながら、飛び散った小惑星の破片は、地球上に飛び散り、破壊の爪あとを残す結果になってしまった。
そして、この地球上で、わずかに生き残っている人間は、1割にも満たなかった。
地球は滅んだのだ。たとえ、わずかに生き残った人間や生物がいたとしても、どうしようもない状況に陥ってしまったのだ。運よく生き延びた私などには、生きる望みは皆無であった。
だが、『男』はこう言った。
私の爆弾は、また明日の朝と同じ時間を繰り返すと。
「は?」
私は、この男の言うことが理解できないし、気でも違ったと思った。
これではまるで、とある漫画の第4部でラスボスが起こした能力ではないのかと思ってしまった。
そして、気が付けば、この『男』の言ったとおりに、時間は巻き戻された。
普段どおりの生活。何事もなかった地球。
いや、もとから、何も起こってないかのもしれない。
それはわからない。だれにもわからない。
「これって、バイツァ……」
いやいや、考えるのはよそう。
できる『男』というのは、そういうものなのだから。 完
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