第21話 危険を回避する男

俺はツイていない。運がない。

仕事は万年平社員。金もない。彼女もいない。


でも、そんな時は、こう思うんだ。

運がないのではなく、危険を回避しているのだと。


仕事で出世しないのは、責任者になって景気が落ち売り上げが下がれば、責任をとり遠くへ飛ばされるかクビにならなくてすむ。


金がないのは、億万長者になって強盗に入られ殺されなくてすむ。


彼女がいないのは、結婚して子供がグレて、嫁が浮気して遺産目当てに殺されなくてすむ。


ああ、俺はツイている。無駄にトラブルに巻き込まれなくてすんでいる。

これが俺の能力。『危険を回避する』能力なのだ。


ある日、俺は宝くじ売り場で当選を確かめに、いつもと違う売り場へ行った。

そこの受付には、小学生の頃からずっと好きだった同級生がいた。

俺は我を忘れて話しかけた。都合よく他の客は来ないので、ずっと喋っていた。

彼女は最近、離婚して、寂しいようだった。

なんと、彼女も俺に好意を持っていたと聞いたので、デートに誘った。

そして、宝くじの当選は、一等だった!


それから10年後。俺は不安のどん底にいた。

彼女と結婚し、子供が生まれ、有り余る財産を手に入れたが、心の安泰はなかった。


いつ妻が俺を裏切り、浮気して財産目当てで殺しにくるか怖かった。

俺は精神が病み、子育てと家庭を顧みず、酒とギャンブルに溺れた。

妻が俺に不満を募らせているのは明白だった。


そして、遂に、妻は爆発した。

包丁を持ち、床には子供の死体が転がる。俺を殺そうとしている。

このままではまずい! 『危険を回避する』能力を発動しなくては!


そう思った瞬間、大地震が起きた。地面は割れ熱いマグマが噴出した。

ああ、やっと危険を回避する事ができた。

俺は妻に殺される前に死ぬ事ができたのだ。          完

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