第20話 監禁されても逃げないワケ

この部屋に監禁されて、どのくらいたつだろう。


私は、淡々とした時間のながれを感じながら、うすぼんやりと考えた。


部屋の鍵は中と外から施錠され、窓もない暗い室内。完全な密室な空間。


食べ物は、ある男が持ってくるので、空腹を感じたことはあまりない。


男は、たまに私の体を触ってくる。そして、たまに抱きしめる。


最初は抵抗していたが、今ではそれすらも面倒で億劫だ。


私は、記憶を失っている。だから、監禁される前の事は何も思い出せない。


どんな仕事をして、どんな生活をしていたのか? 家族は、恋人はいたのか?


考えても答えは出ないので、そのうち考えることはしなくなった。


考える力、思考がほとんど停止しているのだろう。


逃げる気力がない。このままでもいいやと思う。


生きているんだから。それだけで幸福なのではないかとも思う。


それから、この女の監禁は、しばらくの間、続けられた。五年後……



俺はどうしてこんなところに監禁されているのだろうか……


狭くて暗い室内。窓も入り口も施錠されて絶対に開かない。


女が食べ物を定期的に運んでくれるので空腹はないが、とにかく暇だ。


俺は女に何度も問いかけた。大声で切に必死に。しかし答えは返ってこない。


そのうち、俺は考えるのが面倒臭くなり、寝て食って、寝て食った。


時々、女は俺の性器をむさぼる。仕方なしに俺もその真似をする。


いつしかそれが安らぎになり、俺は逃げ出すことなど微塵も考えなくなった。


俺は、記憶を失っている。だから、監禁される前の事は何も思い出せない。


どんな仕事をして、どんな生活をしていたのか? 家族は、恋人はいたのか?


そんなことはどうでもいい。今は、女との無意味な関係だけで満足だ。


この状態が、あと何年続くかわからない……でも、俺はここにいるだけだろう。


五年後……



ある新聞の見出しに、不可解な事件が載った。それはネットでも物議を醸す。

ある女が強盗殺人事件で逃げ回り、精神が崩壊して記憶喪失になった。

その女をかくまって監禁していた男が指名手配された。

しかし、その男も罪に苛まれ精神が崩壊し記憶喪失に。

この男をかくまって監禁していた女が指名手配され、そして逮捕された。


連鎖する罪。そこにあるのは愛なのか。

それはわからない、だれにもわからない。

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