第10話 帰りたくない

地球の未来を託され宇宙へと旅立った、船長と助手の男。


地球を旅立ってから10年。目的の星へのちょうど中間地点で事件は起きた。


ある宇宙船とすれ違ったが、なんと自分たちが乗り込んでいる宇宙船と同じ形をしていた。


不思議な出来事もあるもんだと思ったが、広い宇宙では我々と同じように旅をしていたのかもしれない。


「船長、ついに10年も経ってしまいました。我々が目的の星を見付け、また地球に戻る頃には地球はどうなっているでしょうか?」


「地球の環境汚染はもう手遅れだ。それに、ウラシマ効果で地球に戻る頃には、ワシたちが経過した以上の時が経っているだろう」


「妻と子供に生きて会えるかどうかですね……せめて孫に会いたいです」


「そうだな。会えるといいな……」


それから、また10年が経った。念願の目的の星は目の前だった。


「船長、いよいよですね」


「ああ。荒んだ地球を離れ、第二の故郷となる星にやっと巡り会えた」


「この星の地表は地球と酷似していて、大陸と海もあり、大気も観測できました」


「よし。この星に住めるのは間違いないが、先住民もいる可能性が高いな」


「船長! この星には文明があります。それも極めて我々と近い! しかも通信でコンタクトをとってきました!」


「攻撃をする訳ではなさそうだ……誘導に従って降りてみよう」


船長と助手を乗せた宇宙船は着陸した。そこは、地球と同じ程度の文明が築かれていた。


「まずは、私が話をしてみます」


助手は、宇宙船から降りると、地球人と全く同じ人間と接して話をした。


しばらくして、助手が戻ってくると、狐につままれたような不思議な顔をしていた。


「どうしたのだ?」


「船長、おかしな事になりました。信じられないかもしれませんが、この星は我々の地球と全く同じです。環境も文明も人間もすべて。しかも、私達と同じ人間が同じ目的で宇宙に旅立ったそうです」


「すると、10年前にワシたちとすれ違った宇宙船に、その人達は乗っていたというのか?」


「おそらく……最初、ここの人達は私に、『なぜ帰ってきたのか?』と聞いてきました。だから、似ているが別の星から来たと説明するのに苦労しました」


「うりふたつの地球ということか。多次元宇宙かパラレルワールドか……」


「さらに驚く事に、私の妻とも会ってきました。しかも、我々が地球を旅立った年月から、ここでは1年しか経過していないのです」


「なんだと!? どういうことだ?」


「うりふたつの地球ですが、時間だけは経過に違いが生じているようです。ウラシマ効果が幸いしたようです」


「ふ~む……そんな事があるのか……」


「でも、生きて妻に会えたのは嬉しい誤算です。これなら、わざわざ地球に引き返す必要もありませんよ。だって、ここを旅立った人達も、向こうの地球で同じ事を考えているから、帰ってきませんよ」


「それはまずいな……」


「どうして?……それよりも、船長にお話があるそうですが、その何と言いますか……殺気立っているようです」


「……」


「船長、とにかく一度、宇宙船から降りて、この星の人間に挨拶をして頂きたいと思うのですが。それに、奥様もお会いになりたがっているはずです」


「ワシは降りないぞ! 帰るんだ!」


「え? どうしてですか?」


船長はしばらく黙り込んでしまった。


「ワシは、地球出発の前夜に、妻を殺してきたのだ」

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