第14話お姫様と魔都レヴィス4~リルラの存在~
舞台に立つリルラの様相は、シンシアの知っているものとは異なっていた。
頭に巻いていたターバンを外し、髪の長さが短髪から長髪に変わっていた。
おそらくターバンの中に仕舞っていたのだろうその髪を、ターバンを紐として使い、一つに束ねている。
袂付きのローブを脱ぎ、踊り子のようなヴェールを纏うその姿は普段とは違い、妖艶さを漂わせていた。
その表情も普段の無邪気さはどこへやら、大人びたものとなっており、神秘的な雰囲気さえ醸し出す。
観客達の拍手が鳴り止むと、リルラは静かに踊り始めた。
一つ一つの動作は華麗であり、美麗でありながらも繊細である。
観客達が熱い溜め息を吐く。
一挙手一投足全てが観る者を魅了する。
シンシアもただただ、その様を視線を反らすことなく見続けた。
そして気がついたときには━━━。
時間があっという間に過ぎ去り、舞台は終幕を迎えた。
割れんばかりの拍手が巻き起こり、リルラはいつものような無邪気な笑顔で観客に手を振っていた。
「……すげぇだろ?リルの嬢ちゃん」
ハッとして、シンシアがヴァンに振り向く。
「いったいこれは……」
「リルの嬢ちゃんはな、たまにここに来ては踊っていくんだよ。おかげでうちの店もリルの嬢ちゃんが来たときは特に人気だし、嬢ちゃんのファンもたくさんいる」
「リルはどうしてこんなことを?」
リルラは舞台から降り、今は観客に話しかけられている。しばらくは戻ってこないだろう。
「なんでも、『大切な人達に、自分の踊りを見てほしい。見てもらって元気を出してほしい』からってことで、うちで練習するんだよ。舞台を借りるからお金もいらないと言うんだ」
「大切な、人達……」
間違いなく、魔王やディロのことだろう。
初めて出会ったときに、リルラが踊っていたのもおそらく練習のためだ。
「その『大切な人達』ってのが誰かは知らねぇが……幸せもんだな、そいつらは」
「え?」
「だってよ、あんなにも真っ直ぐな子に一途に思われてんだ。幸せ以外のなんだっていうんだ」
ヴァンは、リルラを子を見る親のような表情で見つめる。
「あの子がここに来るようになって長いが……あの子はたくさんの人に感動と笑顔を与えられる。俺らにとっちゃあポカポカと暖かい太陽みたいな存在だ。こんなところで腐らせるにはもったいないんだがなぁ……」
「……」
「だがだからこそ、あんなにも素直なのかもしれねぇな。ずる賢いやつが多い魔族の中でよくあんないい子に育ったもんだ」
「……そうですね」
「だからよぉ、シンシアのお嬢さん。あんたがリルの嬢ちゃんの友達っていうなら今後もあの子を見てやってくれ。なんせそそっかしいのは相変わらずだからな!」
まるで悪戯好きのワンパク小僧を連想させるような笑みで見てくるヴァンに、シンシアも笑みを返した。
「……えぇ、もちろんです」
「シンシアー!」
リルラが駆け寄ってきて、シンシアに抱きついた。
「見ててくれたのだ?」
「えぇ、見てたわ。リルは凄いわね」
「そんなことないのだ!あんなの誰だってできるのだ!」
「……それはないわね」
「……それはねぇな」
シンシアとヴァンは二人同時に否定した。
リルラが元の衣装に直し店を出ていったので、シンシアも店を出ようとすると。
「シンシアのお嬢さん」
ヴァンに呼び止められた。
「なんでしょう?」
振り向いたシンシアは息を呑んだ。
そこには真剣な表情を浮かべたヴァンが立っていた。
「……たとえ、リルの嬢ちゃんが何者であろうとも拒絶だけはしないでやってくれな?」
「……えっ?」
「リルの嬢ちゃんは……ああ見えて色々背負ってんだ。だから……」
ヴァンがいったいなにを言っているのか、シンシアには分からない。
でも返答は決まっていた。
「……もちろん、だって私はリルの友達ですもの」
「……そうか」
安心したのか、陽気な笑みで「また来てくれよ!」と言うヴァンに、シンシアは手を振り、店を出た。
「シンシア、おやっさんと何の話してたのだ?」
道中リルラが聞いてきた。
「うーん、リルラはいい子だなって」
リルラの頭をなでなでする。
「突然されるとくすぐったいのだ♪」
「そういえば、誘拐が起きてるらしいから、リルラも気を付けないとね」
シンシアは気付いていなかった。
━━━否、気付きようがなかった。
シンシアの手で隠れて、その話を聞いていたリルラの表情が、かつてないほど冷たいものになっていたことを。
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