第17話お姫様と魔都レヴィス7~《審滅者》~
「魔王様、少しよろしいですか?」
「……ディロか、どうした?」
「今回の件、本当にリルラを向かわせてよかったのですか?」
「……お前が心配するなど珍しいな。リルラでは不服か?」
「不服……確かにそうですね。今回の件はリルラにはキツいものでしょう。ある意味では自らの出生にも関係していると言えるのですから」
「……優しいなディロ。なんだかんだと言って、やはりリルラのことが大切なのだな」
「それは魔王様だって同じでしょう」
「……そうだな。だが今回は安心していい。そもそも今回の件に関してはリルラに話したうえで、本人が自らやると言い出したのだ。ならば我はリルラを信じるだけだ」
「万が一があったらどうするのですか」
「我が姫に嫌われるくらいなら別にいい。そんなのは拐ったときから覚悟などしておる」
「……リルラの失敗を疑わないのですね」
「……疑うものか。リルラの持つ天秤は何者にも縛られない。自らに真っ直ぐだからこそ、決して揺らぐことはなく、迷わない。……なぜならあの者は」
《審滅者》なのだから。
*
「……ばかな。
ガルディの動揺が、魔族たちにも伝染する。
しかし、当のリルラは溜め息を吐いている。
「オリハルコンに匹敵なんて、嘘っぱちなのだ。この程度じゃあ足元にも及ばないのだ」
「……く、そもそも呪いを物理的に破壊するなど不可能だ!貴様、呪術師かなにかじゃないのか!?」
「……随分な勘違いをしてるのだ。確かに直接対象者にかける呪いなら解除は不可能なのだ。でも呪いのアイテムは、あくまでアイテムを通して呪いの効果を引き出しているに過ぎないから、装身具さえ破壊すれば問題ないのだ。……物理的には破壊不可能?はっ、笑わせるななのだ。試しもせずに知った風なことを言うなんて滑稽でしかないのだ」
「貴様……!!」
ガルディを無視し、リルラはシンシアの猿ぐつわを外す。
「ぷはっ、……リ、リル。さっきのはいったい……」
シンシアはそこで息を呑む。
リルラの瞳の色が普段の金色ではなく、ルビーのような真っ赤な輝きに変わっていた。
「シンシア、ごめんなのだ。リルは用があるから外で待っててもらえるのだ?」
「えっ、あっ……」
リルラが突然ローブを脱ぐ。
その下にはリルラの身体にフィットした、動きやすさを重視した服が着られていた。
「このローブを預かっててほしいのだ。……終わったら一緒に飲み物を飲もうなのだ!リルのおすすめなのだ!」
こんな状況でも笑顔を絶やさないリルラに、シンシアは苦笑を返す。
「……えぇ、楽しみに待ってるわ」
シンシアがローブと飲み物を持って外に出るのを見送る。
リルラは頭からターバンを外し、こぼれ落ちる長髪をターバンで一纏めにする。
そして、敵に相対するように構えた。
━━他を圧倒する闘気を立ち上らせて。
「……さて、覚悟はいいのだ?」
「……それはこちらの台詞だな。この人数を相手にできるとでも?」
「お前達はリルの
「何を訳のわからんことを……かかれ!」
配下達全員が一斉に詠唱し、魔法を放つ。
リルラは溜め息を漏らした。
「数で有利だからって勝った気でいるのなら……とんだ自惚れ屋さんなのだ!」
リルラは右手を腰に構え、腰を落とす。
そして魔法を近くまで引き寄せると、握り拳にした右手を思い切り突き出した。
次の瞬間、爆発音に似た音をあげて発生した拳圧に、全ての魔法が打ち消された。
「……なっ!?」
全員が信じられないと言った風に驚愕の表情を浮かべる。
「この程度なのだ?」
先程までとは異なる不敵な笑みを浮かべ、仁王立ちする一人の少女。
しかし、その場にいる全員が思った。
彼らの目の前にいるこの少女は、紛れもない死神であると。
「……くっ!一斉に放つのではなく、時間差をつけて魔法を打ち込め!」
ガルディの指示に全員が再び魔法を詠唱し、今度はバラバラに放たれる。
「冷静な判断だけど……甘いのだ」
リルラは握りしめた両手を前に構え、至近距離まできた魔法をそのまま━━。
「……はぁ!?」
高速の連続突きで全ての魔法をきたものから一つずつ跳ね返す。
それらの魔法は全て配下達へと返っていき、着弾。炎上や爆発、凍結や雷光が轟いた。
そして全てが収まる頃には━━。
「随分と減ったのだ」
数百いた配下達の魔族はほとんどが戦闘不能になっていた。
「……くそが!全員、接近して首を取れ!」
魔族達が接近戦を試みるも、リルラには先程のジョーとの戦闘のように力を抑える必要がない。
ジョーとの戦闘だけで、素直に終わらせていれば良かったのだ。
ここまできた以上。
「━━最後まで、覚悟はしてもらうのだ」
リルラは襲い掛かる敵の全てを完膚なきまでに叩きのめした。
武器で襲ってきた者は、武器を壊され。
牙や爪で襲ってきた者は、根本から折られ。
拳で襲ってきた者は、骨を粉々に砕かれ。
少女相手に誰一人敵うことはなかった。
「━━さぁ、後はお前だけなのだ」
リルラは2階から状況を見つめるガルディに指を突きつける。
「……こんの、小娘がァァァ!!」
総身を怒りで震わせ、ガルディが飛び降りてくる。
「貴様は簡単には殺さんぞ!この俺様に刃向かったこと、後悔するがいい!!」
ガルディが丸太の様に太い腕で殴りかかってくる。
リルラはそれを━━━。
防ぐことなく、真正面から受けた。
反撃がないのをチャンスと見たガルディは、次々と拳を叩き込む。
無数の拳撃がリルラの身体を余すところなく打ち付けていく。
「ぐはははは!どうだ!これが俺様の力だ!雑魚どもには通じたようだが、この俺様には駄目だったようだな!!」
とどめとばかりに右拳をリルラの顔面へと突き出すガルディ。
ゴッ!と鈍い音が響き━━。
ゴキリッ。
腕の折れる音が続いて響いた。
「……ぐ、グアァァァァ!?」
「━━残念なのだ」
リルラは呆れたような表情をしている。
身体中にはガルディの殴った傷痕はなく、あるのは衣服への多少のダメージと、土煙で少し煤けた肢体だけだった。
「何故だ!?何故これほどやって勝てない!?いったい貴様と俺様の何が違うというんだ!!」
激昂するガルディに、リルラは淡々とした調子で語る。
「お前とじゃあ、努力の量と覚悟が違うのだ」
「……なんだと?」
「お前の力のほとんどは血筋から受け継がれる、生まれつきのものなのだ。親から受け継いだ権力に溺れ、努力を怠り、自分より弱い者を従え、ただ娯楽を求める。そんなやつに負けるほど、リルが歩んできた道は軽くないのだ!」
ガルディの力は確かに周りから恐れられるに足るものなのだろう。
だがそれも、リルラのような真の実力者の前では何の役にもたたない。
努力の伴わない才能など、いずれは枯れ果ててしまうのだから。
「リルは魔王様に誓った。この身果てるその時まで魔王様の側で仕えると……。だからお前程度のやつに負けたりしないのだ!」
「魔王……だと?貴様、まさか
ガルディが驚愕に目を見開く。
魔族を統べる魔王。
その魔王に仕える者の中で、特に優れた強さを誇る三人の守護者。
その中に信じがたい噂がある。
少女の身でありながら、魔王に認められ、《三滅魔》に選ばれた一人の魔族。
その者は天秤を授かり、自らに関わりある者を裁定するという。
「━━これ以上、まだやるのだ?」
それはリルラからの最後の慈悲であり、警告だった。
「……っ、調子に乗るなよ小娘がァァ!!」
しかし、ガルディはそのチャンスを蹴った。
ここで魔王の配下に負けるということは、魔王に屈したと同じことになる。
自身のプライドにかけて、こんな小娘に負けるなど認められるわけがなかった。
ガルディの体が変色し、腕が二本から六本へと増える。
そしてリルラに襲いかかった。
「貴様ごときに負けるなどあってたまるかァァァ!!」
「……なら、これで終わりにするのだ」
リルラは半身の構えで右手を
六本の腕による目にも止まらぬ拳撃は、しかしリルラの右手に全て打ち払われる。
「ウオォォォォォォ!!」
一撃一撃が生み出す拳圧で空気が震える。
休むことなく打ち込み続けるも全て捌かれ。
気付いたときには、リルラが懐へと入り。
六本の腕全てが折れていた。
そして現在、ガルディは前のめりの姿勢になっている。
リルラが跳ぶと、ガルディの鳩尾に膝を食い込ませた。
ガルディから声にならない苦悶が漏れる。
そしてガルディはそのまま真上へと吹っ飛ばされ、天井を突き抜けた。
浮遊感をしばし味わい、重力によってうつ伏せのまま下方へと落下する。
リルラのいる場所へと。
リルラは床に軽やかに着地し、右拳を握り混む。
「……お前への裁定は
降ってきたガルディに思い切り叫ぶ。
「リルの大事な友達に手を出した罰なのだ!!」
ガルディの腹に拳が触れた瞬間━━。
あまりの衝撃にリルラを中心にクレーターができあがり。
ガルディの屋敷が完全に崩壊した。
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