第12話お姫様と魔都レヴィス2~魔都の喧騒~

「へいらっしゃいらっしゃい!肉が安いよぉ!」


「この装飾品綺麗でしょう?ぜひ買っていかない?」


「うちの武器はそんじょそこらのと違って逸品だぜー?」




たくさんの店が密集する通りを、多くの魔族がぞろぞろと行き交っていた。


「なんだか……人間臭いわね」


シンシアが呟くと。


「あはは、ここはいつもこんな感じなのだ!」


リルラが楽しげに笑った。


「リルは来たことあるの?」


「もちろんなのだ!よく訪れるのだ!」


「それなら道案内を頼んでもいいかしら?」


まっかせろなのだ!」


リルラが駆けていく方へシンシアも着いていく。





☆人通りの少ない通りの占い師の店


「あらーん、リルちゃんじゃないのー。お久しぶりねー♪」


「メルドも相変わらずなのだ!」


「当然じゃなーい。ところでそちらのお嬢さんは?」


「リルの友達なのだ!」


「あらー?あなたが友達連れてくるなんて初めてじゃない。名前を伺っても?」


「あっ……えっと、シンシアです」


「シンシアちゃんね。いい名前じゃない♪」


「は、はぁ……ありがとうございます」


怪しげなローブも被らず、陽気に話しかけてくる占い師にシンシアは凍りついていた。


……明らかに男なのに、女みたいな喋り方や、化粧を塗った顔、口紅をさした唇。


王宮で育ったシンシアは、当然オカマなど知る由もなかった。


「それで、うちに来たってことは占ってほしいの?」


「お願いするのだ!シンシアは?」


「あっ、じゃあ私も……」


「はいはーい。じゃあ最初にシンシアちゃんから見てみましょう♪」


メルドが目を閉じたまま、目の前の水晶玉に手をかざす。


数秒間、手をせわしなく動かし。


「むむむむむっ……カーーーーーー!!」


「ひぃっ!?」


目をカッと見開き、雄叫びをあげるメルドに、シンシアは悲鳴をあげた。


「あら、ごめんなさい。驚かせたみたいね」


「い、いえ、こちらこそすみません……」


「シンシア、落ち着くのだ。こんなの日常茶飯事なのだ」


どうなってるの魔界の日常……。


「……シンシアちゃん、あなた『色難の相』が出てるから気を付けなさい」


メルドの顔が先程までと違い、真剣そのものになる。


「色難の相?」


「要するに、男女関係とかで問題が起こる可能性があるってことよ」


シンシアには男なんて魔王城の人達しか関係がないが、とりあえずは「分かりました」と聞き入れた。


「じゃあ次はリルね」


「よろしくなのだ!」


「むむむむむっ……カーーーーーー!!」


本当に怖いんですけどこれ……。


「……二つの選択を迫られたとき、あなたは迷うことなく、自らに素直に生きるべし」


「……ずいぶんと、教訓じみた結果ですね」


しかし、リルラは何か思い当たる節があるのか、「分かったのだ!」と元気よく返事した。






☆種類の多い装飾品店


「シンシアにはこれとか似合うのだー」


「色々あって悩んじゃうわね……」


二人であれでもないこれでもないと様々な装飾品を試す。


ちなみに店の奥からは店員の魔族が獲物を狙うように目をぎらつかせているので冷やかしなんてできない。


「お金はたくさんあるからシンシアの好きな物を選ぶといいのだ!」


「好きなもの……かぁ」


棚に並んだ数多の装飾品から二つの指輪を手に取る。


それぞれが太陽と月をモチーフとした指輪。


王宮から出られなかった姫が唯一、窓から空を眺めると必ずそこにあったもの。


「これにするわ……リルラの分もね」


「へ?リルの分も?」


「一つだけの物を買うよりも、私はあなたと買ったという証のほうがずっと価値あるものだもの」


「……そうなのだ?」


「そうよ。あなたには太陽がよく似合うわ」


「シンシアはいつも温かく見守ってくれるようでお月様がよく似合ってるのだ!」


二人で楽しく笑い、指輪を買った。






☆人気のある飲食屋台


美味しいのだほいひぃほはー!」


頬袋に餌を溜め込む栗鼠リスのように肉を食べるリルラ。


「リルがっつきすぎよ。ほら……」


リルラの口の周りについたあぶらをふくシンシア。


「えへへー、うっかりなのだ♪」


「もう。……それにしても肉料理ばかりね」


「魔族は肉が中心なのだ」


「野菜とかは食べないの?」


「食べる魔族もいるけど、ごく少数なのだ」


「ふーん、そう」


「シンシアも食べてみるのだ。美味しいのだ!」


(うっ……でもこれ食べたら太るんじゃあないかしら……?)




目の前の焼ける匂いを放ち、肉汁を溢れさした料理には勝てませんでした。







「はぁ……たくさん廻ったのだ!」


「ふぅ……そうね」


あの後も花屋(食虫植物やマンドラゴラやトリカブトなどを扱っていた)や、美容院(蟷螂かまきりのような鎌を持った魔族店員が、デュラハンの首を誤って飛ばしていた)を訪れたり、マジックショー(魔法が存在するので『タネも仕掛けもない』、言葉通りのショーだった。でも新鮮で楽しかった)を見た。


他にもたくさん見て回りさすがに疲れたが、不思議と嫌な気分ではなかった。


シンシア自身、街への訪問自体が初めてだが、誰かと楽しく過ごすことがこれほど幸せだとは思わなかった。


そして人間と敵対しているはずの魔族が人間と同じように生きていることに苦笑し、自分がそんな魔族の街を楽しんでいることを滑稽だと感じた。


「……リル、ありがとうね」


「突然どうしたのだ?」


「ふふっ、なんでもないわ」


「変なシンシアなのだ。……さぁ、着いたのだ!」


リルラが案内した先には、木造の建物が建ち、看板には『酒場カルーア』と書かれていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る