39週 食欲の鬼

39週4日

 希に見る食欲に驚く。

 普段はあまり甘いものは食べません。嫌いじゃないけど、たくさんは要らない。特にこの時は血糖値を気にして、ほとんど食べていませんでした。けれど、この日からとにかく甘いものが食べたくて食べたくて仕方がないわけです。

 菓子パン3つをペロリと平らげるもまだ足りない。理性と本能とひたすら格闘。結局本能が勝って食べたけど。

 出産直前になると食欲が増進しまくるらしいとは聞いたことがありました。そして、この日から3日間は大潮でした。もしかしてと思いつつ、気にしていたけど陣痛は来ない。

 特に何もなく1日が過ぎました。

 

39週5日

 この日は日曜日。一足先に転勤で引っ越した夫が、わたしを訪ねてわたしの実家へ来てくれました。

 実家の近所にある果物屋さんが喫茶も併設していて、パフェが美味しいと評判です。前々から行こうと言いながらなかなか行けずにいたけれど、この日ようやく念願叶って食べに行くことになりました。

 昼過ぎに行くと、店は既に満席。しばらく待ってようやくありつけました。

 頼んだのは一番小さなパフェ2種類。イチゴとチョコだったかな。前日に引き続き、もう甘いものが食べたくて仕方ない。夫と半分こしてペロリと平らげました。

 アイスでお腹が冷えないか、そのせいで逆子に戻ったらどうしようと思いながら食べたけどおいしかったなあ。アイスは殆ど夫に食べてもらいました。


 夕食を家で食べた後、夫が帰宅。お風呂に入って歯磨きして、さあ寝ようと思ったらお腹が痛い。

 臨月に入ってから前駆陣痛はほぼ毎日ありました。だから、「ああ、またか。早く陣痛来ないかな~」と思いながら就寝。寝られるくらいならなんてことはないだろう、と思っていました。

 が、しかし。この日は何故か眠れない。すごく痛いわけではないけれど、どうにも寝付けません。


39週6日

 日付が変わってもしばらくゴロゴロして、夜中の1時頃にトイレへ。うっすら出血していることに気付いてバチっと目が覚めました。これはもしや「おしるし」なんじゃないのか、と。

 その時点ではただ出血しただけなのか、お産が進んでいるのかは自己判断できません。でも、直感でおしるしだと思いました。だとすると、これは寝ている場合ではない。とりあえず寝ている母に携帯で電話をかけて叩き起こし、陣痛の間隔を計り始めます。

 朝方に15分くらいの間隔になったので、一度産科へ電話することに。まだ早いかとは思いましたが、切迫早産で入院中に少し早めに電話するようにと指導を受けていました。

 けれど、やっぱりさすがに少し早かったようで、7分間隔になったら再度連絡するようにと言われました。7分て、なんじゃそりゃ中途半端やな。とは思いましたけど。


 この日の朝7時ごろ、だんだん陣痛の間隔が延びていきました。ちなみに、潮の満ち引きもこの頃に満潮だったらしいです。このまま陣痛が遠のくのかな、と思いながら朝食を摂りました。

 間隔はどんどん延びて、最長40分くらいにまでなりました。でも、なくならない。とりあえず服を着替えて、いつでも病院へ行けるように入院準備の最終チェックをしておきました。

 そのまま昼が過ぎてから夕方にかけて、今度はだんだん間隔が短くなって来ます。その間特に何をするでもなく、家の中で食卓の椅子にじっと座っていました。

 帰巣本能が働くのか、外出しようとはとても思えない。何も手に着かないし、とても集中できそうにもない。間隔が短くなるにつれて、だんだん痛みも増してくる。これはきっと陣痛だろう。勝手に確信していました。

 とはいえ、夕方にさしかかるくらいで間隔はまだ20分くらい。電話するには早い。そわそわと落ち着かないけれど、ひたすらその時を待つしかありません。

 その頃、ちょうど宝塚歌劇団の公演のテレビ放送が始まりました。ブラジルのコーヒー農場の話で、二番手の男役が天海祐希さんでした。トップの方は知らない人だったから覚えてない。

 タカラヅカは、熱狂的なファンではないものの実は結構好き。気分転換に観ることにしました。

 物語はハッピーエンドでいいのかな……? とりあえず物語が丸く収まった辺りで結構お腹が痛くなります。後はレビューだ、というところで10分間隔に陣痛が来るようになってきました。時刻は夕方五時半。

 産科に電話をかけると「直ぐに来て下さい」とのこと。この際7分は無視。すぐに準備して病院へ向かいました。ラインダンスは見そびれたけど、もはやそれどころではない。


 夕方6時前に病院へ到着。陣痛室に通され、先ずはエコーで赤さんの位置を確認。これで逆子になっていたら帝王切開ですが、ちゃんと頭が下を向いていた。ありがとう赤さん。

 子宮口は約1センチ開いていたんだったかな。とりあえずその場で待機して、様子を見ることになりました。途中の診察では3センチくらいになっていたと思います。

 1時間ほどしてから助産師さんの診察が入りまた。子宮口の開き具合を診るためです。その進み方によっては、入院せずに家に帰されたりします。それで間に合わなくなったらどうするんだろう?? わたしはその時点で6センチくらい。入院が決まりました。


 ピンク色の出産の時に着る術衣のような服に着替えて、ひたすら陣痛に耐えます。この時点では、まだいきんではいけません。赤さんが苦しくなるそうです。力を抜いて、いきみを逃すことに集中します。この時既に唸るくらい痛い。そして間隔もすごく短い。


 「夫に連絡しないと」と思ったけれど、母がすると言うので任せてしまった。やっぱり自分ですればよかったなと今は後悔しています。ちょっと声を聞いて励まして欲しかったな、なんてね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る