人が生きること、そして人が死ぬこと。
当たり前のこの二つの間にある様々な人々の生き様を、一人の世界的アーティスト「M」の死をめぐって描く、傑作ヒューマンドラマ。
「M」の死は人々に深い悲しみを残す。しかし、その悲しみの矛先がむけられる先はまったく異なっていた。
それぞれの国でいきる人々の思惑がすれ違いながら、やがてひとつの結論は下される。
世界中の人々が平和であってほしい、そう願い歌ってきた「M」の想いは届くのか。そして、彼の死が残したものとは。
血塗られた国境、ブラッドラインをめぐる物語、是非、最後の結末まで読んでもらいたい作品です。
人間というのはかくも醜悪で、身勝手で、救い難いものなのでしょうか。
作中で描かれるそれぞれの人物の、それぞれの事情。
本当にどうしようもなく身勝手で、そしてそうであるが故に、ストレートに心に刺さります。
それは、誰もが自分でわかっていながらにして、目を背けてなかったことにしている身勝手さだからでしょう。
それは個人の事情だろうと、戦争だろうと、同じことです。同じだからこそ、重い。
大体、こんなところで知ったような顔をしてこの作品のレビューを書いている私もあなたも、この作品の読後、コンビニで弁当を買って何事も変わらず過ごしていくんです。
作中で語られる、先進国の人間と戦争下の国の民の、命の価値の違い。
命の不平等性については語るまでもありませんが、もしそれが、世界的な大スターの命であったら?
一人の男が文字通り命懸けで作り出したもの。
それは、命の価値の重さ、軽さ、どちらをも示唆するものです。
重い話であるにも関わらず、爽やかな読後感に希望が持てる。
これを読んでみんなも平和について考えよう、というのもなにか違う気がする。
その一瞬に、ぜひ耳を傾けて欲しいと思います。
果たして、自分の耳に聞こえるものは、なんなのでしょうか?
世界的なスーパースターである"M"が、紛争状態にある二ヶ国間の国境"ブラッド・ライン" で、射殺体になって発見される。
Mの死は、様々な国、様々な立場の人々の心を、波紋のように揺らしていく。
あらすじからはどういった話なのかなかなか想像できないまま読み始めました。
そしてすぐに、甘さも容赦もない生々しい展開に圧倒され、心を鷲掴みにされてしまいました。
『憎しみの始まりを 君は知らない それなのに 渡されたそれを 君は次の人へと手渡していく』
というMが作中で歌う歌詞がぐっさりと心臓に刺さります。
自分の手の中にある常識は、本当に自分のもの?
無意識のうちに、誰かから手渡されていたもの?
そう、自問自答したくなります。
カクヨムではあまり見ない、非常にずっしりとした読後感の小説で、個人的な願望ですが、こういった読み味の小説が増えてほしいなと思いました。
8万字という比較的短い分量で、この密度はそうそう味わえるものではありません。
あまりの慈悲のなさに目を背けたくなるような瞬間もありましたが、これが今の世界を覆っている現実なんですよね…。
読み終えた後、心の中でせめぎあっている声に、しばらく耳を澄ませました。
これは手放しですごい作品。
とにかく多くの人に読んでほしい作品。
作者の魂が叫んでいるような、心を揺さぶられる作品です。
物語は世界的スーパースター「M」が紛争の国境ブラッドラインで殺されているところから始まります。
そこから短編のように国籍、人種、性別、年齢も様々な人たちの、Mの死にまつわるエピソードがつながっていきます。
それぞれの抱える闇を容赦なく照らしながら、Mの死というミステリーを絡ませて、それぞれの濃密なドラマが展開します。
やがて明かされるMの死の真相、その真相を前にした各エピソードの主人公たちが直面する問題。
最後のエピローグは、それらを鮮やかにつなぎ、人間の業というものを浮かび上がらせていきます。
これは甘い話でも楽しい話でもないでしょう。
でも人の心を揺さぶる深い作品です。
これだけの物を書くには作者も相当に魂を削ったに違いありません。
だからこそ多くの人に読んでほしい。
物語は人を変えることができる。
人は世界を変えることができる。
そんなことを感じずにはいられません。
きっとあなたの魂も揺さぶられるはずです。
9.11後のアメリカを題材に「戦争と平和」をテーマとする小説やドラマは巷に溢れているが、この小説が興味深いのは、世界中の色々な国に住む「普通の人々」にそれぞれの思いを語らせながら、その国の現状や国家の思惑を同時に描いている事。だからこそ、これだけ難しいテーマでも、すんなりと頭の中に入ってくるのだと思う。
世界の警察を自負し、諸外国の紛争に積極的に介入するアメリカも、国内では人種差別と地域格差、銃による悲劇など、解決の糸口さえ見えない問題を抱えている。そのアメリカで生まれた「M」という名のスーパースターの死は、世界に奇跡を起こすのか……最後まで見逃せない展開にどっぷりとはまり込んでしまい、一気に最終章まで行き着いてしまった。
最終章で覆される人々の日常と「M」の死の意味が圧巻。世界平和を願う手が、戦争を生み出す手と同じなのだとしたら……大砲や銃弾の音が止んだ束の間の静寂の中でしか安らぎを見出せない世界は、あまりにも救いようがなく、あまりにも悲しい。
「平和ボケしている」と言われる日本の若者に、是非とも読んで頂きたい。
一人の人間の死を各国の登場人物から見る群像劇です。
世界的に有名なスターの死に、各国の人間が様々な考えを浮かべ、その真相へと近づいていきます。
印象に残ったのは、やはり日本。
リアリティのある描写に、人を愛すること、思い出、生きることとは何かと考えさせられました。
アクション映画のように、爽快感はありません。
ですが、作家を目指す者としては人の深層心理を言葉にできる武器が必要です。
筆者のように、多くの人間の気持ちを考えられるよう、これからも追及していかねばならない方には非常におすすめです。
戦争は悪だ、その一言で済ませられない長編大作です。
是非、じっくりと紐解くことをお勧めします。
次の物語にも期待して、星3つ送らせて頂きます。
人気ミュージシャン「M」を殺したのは「どこ」か……。
様々な国の、様々な立場の人々が、「M」の死を知り、様々な視点で思い、動く。その姿のリアルさに、思わず前のめりに引き込まれます。
硬派なテーマで字数もそれなりにあります。でも、無駄のない、磨き込まれた文体と内容に、とりつかれたように一気に読了してしまいました。
そしてあまりに印象的なラスト。
私がここで内容を語るのを読むより、先ずは冒頭を開いてみて下さい。
そしてこの作品から受ける衝撃を、是非多くの方に感じて頂きたいのです。
この作品を執筆し、私と出会わせて下さった作者様に感謝しております。
彼を殺したのは、一体どこの国の人間なのか?
大量死が当たり前な世界情勢の中、様々な視点から多角的に描かれる、一個人のミステリアスな死の真相とは……。
異国の雰囲気を醸し出す翻訳調の文体が、この重厚なプロットに大いに貢献しています。プラス読みやすさとの両立も難なくクリアしており、一介の書き手として正直羨ましく思いましたw この文体、自分の理想とするところに物凄く近いです……!
ふとこちら側の世界に目を向けると、「白い黒人」MJは既に亡く、「黒いミック・ジャガー(こちらも頭文字MJ!)」と呼ばれたプリンスも鬼籍に入ってしまいました。
近年、ネット配信の台頭によって小説も音楽もその消費ペースを益々激しいものにしています。抗うこともできず、只々濁流に呑み込まれるが如く消費あるいは浪費し続ける日々の生活。そこに投じられた一石の波紋のように、この作品は読者の心に静かな余韻を残すだけでなく、単なる浪費以上の、かけがえのない読書体験をもたらしてくれるものと確信しています。
二つの架空の国。その国の間で長きにわたって続く争い。
その血で血を洗う争いにより作られた国境は、『ブラッド・ライン』と呼ばれた。
その『ブラッド・ライン』で、一人の男が殺される。
それは、ある世界的な人気アーティストだった。
彼を殺したのは、誰か。
彼は、なぜそこにいたのか。
この殺害事件の裏にある、メッセージとは。
その意味を理解したとき、貴方はきっと衝撃に襲われるだろう。
と、これはあくまで表のレビュー。
本当のレビューは、こっから。
この物語に出てくる事象、人、考え方、エピソード。
どれも、現実の社会をスライスして、私たちの目の前に突き出されたものだ。生々しいほどに。
それは、決して架空の物語ではない。
それは現実に、この世界のどこかで、起こってきたことの数々。
それを、大国の武力に怯えるか弱き村民として、ロシアの裕福な娘として、日本のうだつの上がらない中年男として、世界的スターの元妻として、テロを主導する指導者として、家族を守るためにテロに立ち向かう兵士として、テロを憎む一市民の代表として……いろいろな立場で、考えさせ、見せてくれる。
そして気づかされる。
彼らが引き金を引くその腕を、背後で握っているのは。
撃てと促しているのは。
誰だ?
無意識だとしても。
それを、このまま放置して無関係を貫くのか。
そうすれば、我々の行く先に待っているのはこの物語と同じ結末だろう。
それとも……別の道を行くのか。
今ならまだ。引き返せるんじゃないか。違う道を行くことができるんじゃないか。
そこに、わずかな希望を感じる。
それにはまず、気づかなければいけない。
何に?
その答えが、この物語の中にあるからさ。
読んでごらんよ。
きっと、いままでと違った見方で世界を見れるようになるからさ。
そして、そこで見つかるものこそ。
世界を救う、唯一の鍵なのかもしれないよ。
『アラルスタン』と『ラザン』という架空の国の間に引かれた国境線『ブラッドライン』――長い間、戦争を続ける二つの国から徐々に波紋を広げるように伝播されていく群像劇が、この物語だ。
『ブラッドライン』と名付けられるに至った経緯はどこか寓話的であり、それでいて明確に現実のある国をモチーフにしている為、ストレートに僕たちの胸を打ち抜いてくれる。そして物語の事件も『ブラッドライン』で起きる。世界的なアメリカのスター『M』が、その血の国境線で何者かに殺害されるのだ。
物語の導入だけで面白さは十分に保障されているのだが、あえて作者はエンターテインメントに物語を振るのではなく、骨の太い、メッセージ性のある物語へと仕立てあげている。一章ごとに国と人物を変え、複数の視点を用いる群像劇にすることで、この物語を奥深く、そしてより深く描き出しているのだ。ロシアの少女、アメリカの大統領、テロリスト、ただTVを見てるだけの日本人、Mの元妻――それぞれの人物がMの殺害に何かを感じ、戦争と平和について、そして残虐なテロについて考える。
物語のラストは見事の一言で――そのあまりのリアリティに打ちひしがれてしまう。まるで銃弾で頭を打ち抜かれたように――
この作者の「異国の少女A」という作品を読んだ後で、このブラッドラインを読みました。
閲覧者の皆さんは、是非この作品を読んでみてください。
目次を眺めるだけでは全く予想できないストーリーです。それだけでなく、最後の章まで行き着かないと全貌が分かりません。各章の登場人物がどう繋がっていくのかさえ途中段階では見通せません。
ですが、最後の章で、綺麗に収斂します。殺人の真相は、途中までに読者が予想する通りですが、推理小説ではないので、それは些末な事です。
私は、最後の章を読み進めるうちに眼が潤んできました。歳を取り涙腺が緩くなっているせいもありますが。
でも、最後の章だけを読もうなんて、邪な考えは抱かないでください。台無しになりますから。
「異国の少女A」もそうでしたが、正直に言って、読後の気分は晴れません。そんなに世界は単純ではないですから。でも、本作品は、清々しい気分も同時に味合わせてくれます。