憎しみの連鎖から、世界は解放されるのか

9.11後のアメリカを題材に「戦争と平和」をテーマとする小説やドラマは巷に溢れているが、この小説が興味深いのは、世界中の色々な国に住む「普通の人々」にそれぞれの思いを語らせながら、その国の現状や国家の思惑を同時に描いている事。だからこそ、これだけ難しいテーマでも、すんなりと頭の中に入ってくるのだと思う。

世界の警察を自負し、諸外国の紛争に積極的に介入するアメリカも、国内では人種差別と地域格差、銃による悲劇など、解決の糸口さえ見えない問題を抱えている。そのアメリカで生まれた「M」という名のスーパースターの死は、世界に奇跡を起こすのか……最後まで見逃せない展開にどっぷりとはまり込んでしまい、一気に最終章まで行き着いてしまった。

最終章で覆される人々の日常と「M」の死の意味が圧巻。世界平和を願う手が、戦争を生み出す手と同じなのだとしたら……大砲や銃弾の音が止んだ束の間の静寂の中でしか安らぎを見出せない世界は、あまりにも救いようがなく、あまりにも悲しい。

「平和ボケしている」と言われる日本の若者に、是非とも読んで頂きたい。

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