血で描かれた国境線が問いかける戦争と平和の表と裏側……

『アラルスタン』と『ラザン』という架空の国の間に引かれた国境線『ブラッドライン』――長い間、戦争を続ける二つの国から徐々に波紋を広げるように伝播されていく群像劇が、この物語だ。

『ブラッドライン』と名付けられるに至った経緯はどこか寓話的であり、それでいて明確に現実のある国をモチーフにしている為、ストレートに僕たちの胸を打ち抜いてくれる。そして物語の事件も『ブラッドライン』で起きる。世界的なアメリカのスター『M』が、その血の国境線で何者かに殺害されるのだ。

物語の導入だけで面白さは十分に保障されているのだが、あえて作者はエンターテインメントに物語を振るのではなく、骨の太い、メッセージ性のある物語へと仕立てあげている。一章ごとに国と人物を変え、複数の視点を用いる群像劇にすることで、この物語を奥深く、そしてより深く描き出しているのだ。ロシアの少女、アメリカの大統領、テロリスト、ただTVを見てるだけの日本人、Mの元妻――それぞれの人物がMの殺害に何かを感じ、戦争と平和について、そして残虐なテロについて考える。

物語のラストは見事の一言で――そのあまりのリアリティに打ちひしがれてしまう。まるで銃弾で頭を打ち抜かれたように――

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