凡そ

SIN

第1話 20分

 服が買いたいから着いて来て。

 友達がそう言うので、俺達はその日、結構な人通りのある商店街に行っていた。

 人ごみは苦手で、人の行き来を見ているだけで酔ってしまう俺に気を使ったのか、場所は“なんば”や“天神橋筋商店街”ではなく、地元から数駅離れた場所にあるアーケード商店街。

 もちろん自転車移動である。

 リサイクルショップや100円ショップ、クレープやたこ焼き。カラオケ店やレンタルショップ、ゲームセンターと、遊ぶ場所には困らない位の商店街。

 靴屋や服屋も沢山あるので、彼方此方回りつつ、俺は目当ての瀬戸物屋に入った。

 色んな食器が並ぶ店内、当然全てが割れ物である。

 「頼むから商品持たんとってや!?」

 友達は、小さな子供を連れた母親のような台詞を吐く。

 俺が商品を落として割った事例が1度でもあるのなら、そう注意したくなる気持ちは分かる。しかし、そんな事故を起こした事もないのに言われると、コイツは俺をどんなドンクサイ奴だと思ってるんだ?と、気になってしまう。

 第一、急須を買おうと思っているのに、商品を持たずしてどう選べというんだ?

 心配性な友達を無視して、急須を手にとって軽く指で弾いてひび割れがないか音を聞く。

 音が響けば、何処も割れていない証拠だ。

 「落とすなよ?ゆっくり戻しや?」

 五月蝿い。

 こうして無事に急須を買って瀬戸物屋を出た所で、1人のオバサンに声をかけられた。

 「今、時間良いかな?」

 今?

 悪いけど、少しも良くない。

 今日は俺1人じゃなくて友達も一緒なんだ。それに、まだ服も買えていないのに、話なんか聞かない。

 「え?何ですか?」

 さっさと行ってしまおうとした俺の後方で、あろう事か友達が、オバサンにも負けないほどの笑顔で話しかけてしまった。

 「今、簡単なアンケートを取っているんです。答えてくれた方には粗品をプレゼントしています」

 オバサンの手にはアンケート用紙と見られる紙、胸ポケットの中にはペンが入っていて、腕には少し大きめの紙袋。

 この井出たちを見たら、きっと誰でもこの場でアンケートを取って、この場で粗品がもらえると思うだろう。

 俺でもそう思ったのだから、友達もそう思ったに違いない。そうでなければ気の良い笑顔のまま言わなかっただろう。

 「何のアンケートですか?答えられる内容なら答えますよ」

 だなんて。

 何のアンケートか?と先に聞いたんなら、なんのアンケートなのかを聞いてから返事をしろ!

 「では、会場まで案内しますね」

 会場!?え!?

 オバサンに案内されるがまま歩きながら、どうにか逃げ出すタイミングを見計らうが、ズンズンと歩く友達がアンケートに意欲的なので逃げられない。

 恐ろしい事が待ち受けていたらどうしよう?急用が出来たとか言って強引に帰る?逃げ道の確保……囲まれたら意味がないか……だったら全力でダッシュ?くそっ!俺の足は物凄く遅いっ!

 折角買ったけど、この急須を武器にするしかない。

 ギュッと急須を入れた袋を強く握り締めながら歩くと、雑居ビルの狭い階段を上がった先の部屋に通された。

 部屋の中は長机とパイプ椅子が並んだ大部屋になっていて、清潔感のある白い壁と明るい照明で、何故か少しだけ警戒が解けた。

 そんな大部屋では、何人かの人が既にアンケート用紙に記入をしている。お菓子を食べながら。

 「こちらへどうぞ」

 と、座らされたテーブルの上には1枚のアンケート用紙と、数種類のお菓子。

 どうやら俺達は2人で1組とされたようだ。

 パリパリ。

 お菓子を食べる俺達。

 「美味しい?」

 と、友達が聞くので、

 「ちょっと辛いかも」

 そう答えると、俺の感想をアンケート用紙に書く友達。

 パリパリ。

 「美味しい?」

 「うん。これ美味しい」

 モシャモシャ。

 「それは?」

 「うん、美味しい」

 全ての項目に記入すると、声をかけてきたオバサンが、腕にかけていた紙袋の中からではなく、鞄の中からソッとポチ袋を2枚取り出して俺達それぞれに手渡してきた。

 「ご協力ありがとうございました」

 こんなにも怪しいのに、こんなにも、物凄い怪しかったのに、本当にただのアンケートだった。しかも、ちゃんと粗品まであるなんて!

 俺達はお辞儀をしてオバサンと別れた。

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