第4話 一瞬

 自転車で1駅離れたコンビニまで行った。

 家の近所には2件のコンビニがあるのだが、そこではなく1駅先のコンビニに来た理由は、100円ショップに寄った帰りだったから。

 自転車をとめ、コーヒーにするか、それとも紅茶にするか?と考えながら店内に入ろうとした所で、

 「あれ?久しぶり!」

 声をかけられた。

 振り返ると中学時代に同じクラスだった男子が立っていて、ニコニコと俺に手を振っていた。

 友達でもなんでもなかった男子である。

 中学時代、もしかしたら一言も喋った事がない位の遠い関係の男子である。

 「久しぶり……」

 とりあえず手を振り返すと、男子は更にニコニコと笑顔で近付いてきた。

 「なぁ、ちょっと髪伸びた?長い方が似合ってるな!」

 中学の頃から長かったというのに、なにを言っているんだろうか?そもそも話しかけてきた意味が分からない。

 まだ親しい間柄だったんなら分かる。だけど、同じクラスだったと言うだけで、1度もからんだ事がない人物に態々挨拶をするだろうか?

 俺ならしない。

 「それは……どうも……」

 困った時の、会釈!

 2回会釈して、さっさとコンビニの中に入ってしまおうとした時、男子はまた俺を呼び止めて言った。

 「なぁ、ちょっと携帯かして」

 これが狙いか!

 何故友達でもなんでもなかった人物に、久しぶりに会ったからという理由だけで携帯をかさなければならない?

 そもそも本気でかしてもらえると思っているのか?

 もう一度言うが、かせるだけの間柄でもない。

 それに、かす事が出来ない大きな理由がある。

 「持ってませんよ」

 携帯電話を持っていない事は、中学時代にも散々からかわれていた。だけど、それから1度たりとも持った事はない。

 「え!?嘘やろ?」

 親しくもなかった同級生を、行き成り嘘吐き呼ばわりとは。けど、この時代だ、携帯電話を持っていない人口の方がきっと少ないのだろう。

 「携帯、持ってません」

 ハッキリと持っていない事を告げたのに、まだ信じられない、といった表情で俺を見ている男子。

 俺はもう1度軽い会釈だけしてコンビニに入り、コーヒーを買って、何事もなかったかのように自転車に乗って家に帰った。

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